矢(448字)
ここ数日、男は体の不調を感じていた。どこがどうとはうまく言えなかったが全身を気だるさが覆っていた。
商店街を歩いているときのことだった。男はたまたま通りかかったクリーニング屋のウィンドウにふと目をやり、そこに映り込んだ己の姿を見て愕然とした。
頭に矢が刺さっていたのだ。
矢は右耳の後ろから左のこめかみ辺りに向かって斜めに貫通していた。先端には見るだけで痛くなるような鋭い矢尻がついていた。いつの間に刺さったのか、まるで身に覚えがなかった。いくら引き抜こうとしてもびくともしなかった。
男はうろたえて道行く人に助けを求めた。人々は男の頭に矢が刺さっていることに気がつくと、指をさして嘲笑った。勝手に写真を撮るものもいた。石を投げてくるものまでいた。男はしまいに泣き出してしまった。
男はその場から逃げ出そうとして、路上の段差につまずいて転んだ。人々が一斉に彼を取り囲み、笑いを浴びせかけた。ある母親が「ああいう大人になったらダメよ」と言って子供の手を引いて遠ざかっていった。
男は道にうずくまって泣き続けた。
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