第42話

「スナズ君どうしちゃったのかなあ? まるで人が変わったようになって帰ってしまったけど」


 マタオはボヤきながらプリクラ機の画面を操作し、キラユイたちと撮った写真を確認していた。


「そうですわねえ、おそらくあの時かかってきた電話が関係しているのでしょうが、詳細は分かりませんわね」


 マタオの隣に立っていたカオルも同じような心境になって言った。


「フンッ、なにを言うとるか! 人間なんてあんなもんやっ! 自分の都合が悪なったらすぐに裏切りよるでっ!」


 カオルの背後からプリクラ機の画面を覗き込んでいたキラユイはそう言うと、ゴキブリのぬいぐるみが一緒に写っている写真を削除しようとしたマタオの手を掴んだ。


「決めつけるんじゃないぞキラユイ、きっとなにか事情があったんだ。いいからさっさと手を離せ! ゴキブリのぬいぐるみが写っているやつは消去だ! プリクラを撮る瞬間にフレームインしやがって」


「ゴキブリさんにイジワルするでない! この偽善者がぁ!!」


 キラユイはスナズの真似をしてマタオに言った。


「誰が偽善者だ! 僕は何事も良かれと思ってやっているだけだ!」


 キラユイとマタオはプリクラ機のなかで子供のように争った。カオルは仲裁を諦め、とりあえずゴキブリのぬいぐるみが写ったものをプリントする方向で、ソッと画面を操作した。


「マタオ様!! マタオ様!! 大変ですっ! 近くで強大なセクス存在エネルギーを感知しました!!」


「えっ!? なんだって!!」


 マタオは右手と合体している封印の神具が急に叫んだので驚いた。


「あっ! ホンマや! とんでもないセクス存在エネルギーの総量やで! これはヤバいんちゃうか?」


 封印の神具に続いてキラユイもそう言うと、マタオとカオルと共にプリクラ機から急いで出た。三人と一匹が写った完成品はカオルが取り出し口から素早く回収したようである。


「やっぱりさっき白州さんが加速の神具で必殺技を使ったからセクス存在エネルギーを感知されたんじゃないか? だからやめろって言ったんだ」


 マタオはカオルに厳しい視線を向けながら言った。


「け、計算通りですわっ! これでユイさんを取り戻すという目標にまた一歩近づきましたわね! 協力して封印しますわよマタオさん!」


 カオルは自分の責任をごまかすようにして言った。


「はあ、なんだか白州さんもキラユイに似てきたような気がする」


 マタオはため息をついて失望したように言った。


「ごちゃごちゃうるさいで! カオルの言う通りや、どっちにしろワシらは神具を全部回収せなあかんねさか。覚悟を決めんかっ!」


 キラユイは珍しくまともな意見をマタオに言った。


「はいはい、分かりましたよ。セクス《存在エネルギー》の反応はどこからだ封印の神具?」


「気をつけてください、所有者はちょうど真上に居ます」


 封印の神具は合体しているマタオの右手の人差し指をピンと天井に向けながら答えた。


「え? 真上ってことはショッピングセンター内か? またたくさんの人に影響が出そうで嫌だなあ」


「どうせ封印したら神具の影響は殆どなかったことになるんやさか大丈夫や! とりあえずワシらはバラバラにならんように固まって迎え打つで! セクス存在エネルギーの総量からして確実に強敵やが、お前らの能力があればどんな神具でも対応できるはずやっ!」


 キラユイはゴキブリのぬいぐるみを背負って、長い足の部分を自分の身体に巻き付けながら言った。どうやら一緒に戦うようである。


「なるほど、それもそうだな。僕の封印の神具さえあれば敵の能力は無効化できるし、その隙にまた白州さんが加速してくれれば封印も簡単だしな。恥の神具の時みたいにセクス存在エネルギー切れにならなければの話だけど」


 マタオはそう言って心配そうにカオルに視線を向けた。


「さっき無駄に必殺技を使っていたけどその辺は大丈夫だろうね白州さん?」


「多分大丈夫ですわ、ねえ加速の神具さん?」


 カオルは自分の足と合体している加速の神具に尋ねた。


「うーん、実はさっきキラユイ様とUFOキャッチャーを十倍速で加速しちゃったから、そんなに余裕はないんだよね」


 加速の神具は芳しくないような様子で答えた。ゴキブリのぬいぐるみを獲得するためにカオルのセクス存在エネルギーをかなり消費したようである。


「は? あんなしょうもないことに十倍速も使ったの!? なんで全力で加速してんだよ!!」


 マタオはカオルの肩を揺らしながら怒った。


「だってそれぐらい加速しないとマタオさんに邪魔されていたんですもの!」


 カオルは仕方なく能力を発動したような様子で言った。


「そりゃ僕の金を盗んでUFOキャッチャーに使われているんだから、取り返そうとするのが普通だろ? 邪魔ってなんだい? ベロキス目当てで加速したクセに被害者ぶるのはやめてくれないか?」


 マタオは真顔でカオルをガン詰めした。ぐうの音も出ない正論である。


「あっ、今お腹の子が喧嘩はやめてって言ってますわ! マタオさんもうやめましょう、過ぎたことを言ってもなにも解決しませんわよ」


 カオルはお腹をさすりながら言った。ぐうの音も出ないはずの正論だったが、最強の手札を彼女が出したことにより、それは崩壊した。


「……ふ、ふうー、そうだな、確かにこれからのことを話すべきだね。ま、まあ基本二倍速ぐらいでセクス存在エネルギーの消費を節約すれば、問題はないだろうしなぁー、そうだろう加速の神具?」


 妊娠ネタで都合が悪くなったマタオは、逃げるように話題を終活させ、加速の神具に尋ねた。


「そうだね、まあカオルのセクス存在エネルギーがヤバくなったらちゃんと言うからさ。昨日のセクス存在エネルギー切れの件は僕も反省しているんだ」


「お、おうそうか、なら頼んだぞ加速の神具。じゃあ封印の神具はもう能力を発動してみんなを守ってくれ! 僕らもすぐ加速できるように手を繋いでおこう」


 マタオはそう言って左手でカオルの右手を掴み、キラユイはカオルの左手をとった。すでに封印の神具の能力で全員をバリアのように包み込んでいるので、神具の能力は全員防げる状態である。


「やぁー! カオル手汗ベトベトしとるでっ! 気持ち悪っ!」


「ぐへへぇ、すいません、キラユイさんの綺麗で柔らかいおてから伝わってくる心地よい体温のせいで興奮しちゃいました。舐めてもいいですか?」


「こら! いい加減にしなさい白州さん! あと僕の手と恋人繋ぎをするのもやめてくれ! 君とはそういう関係じゃない!」


 マタオは暴走気味のカオルに厳重注意した。


「恋人じゃなくて妻ですものね」


「マジでふざけるのはやめろ!」


 そして三人が騒いでいるところに、天井をぶち抜いて嫌悪の神具に身体を支配されたスナズが降臨したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る