第36話
「以上により、カオルは合計二十六点や! 購入を許可する」
スナズの後に行われた白州カオルのファッション審査は速やかに終了し、衣類コーナーで開催されている茶番も終わりを迎えようとしていた。
「マタオさんとスナズさんは満点だったのに、キラユイさんは六点でしたわね。理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
カオルは不思議に思いながら彼女に尋ねた。
「うむ、白のワンピースでの王道勝負は嫌いやないが、清楚な格好やのにカオルが一瞬下品な顔を見せたでなあ。それで四点減点や! そういうところも含めて審査しとる!」
キラユイは大御所のような雰囲気を醸し出しながら答えた。
「えー、だって仕方ないじゃないですかぁー、私のことをジッと見つめているキラユイさんを見ていたら、興奮して我慢できなかったんですものっ!」
カオルは駄々をこねる子供のように言った。
「知らんがな、ワシは普通に審査しとっただけでカオルに特別な感情はないで」
「そういうツンデレなところも大好きですわ」
そしてカオルは制服に着替えると、ワンピースを購入してベンチに座るキラユイと交代した。
「よっしゃ! いよいよワシの番やでっ! ダッサいお前らにファッションっちゅうもんを教えたるさか、よお見とけよっ!」
キラユイはそう言って選んだ服が入っているカゴを持つと、颯爽と試着室に入ってカーテンを閉めた。
「どうやらキラユイ殿はえらく自信があるようですなあ」
スナズはベンチで一緒に座っているマタオとカオルに言った。
「うん、なにか策があるんだろう。だけど僕たちのコーデをあれだけボロクソに言ってこきおろしたせいで、かなりハードルが上がっているけどね」
「私はキラユイさんがどんなコーデでも満点つけちゃいますわ。ぐへへっ、想像しただけでヨダレが出ちゃう」
「やれやれ、すでに一名はこの様子だし、どうやら僕とスナズ君でキラユイを厳しく審査しないとダメみたいだね」
マタオはすでに満点を表明しているカオルを見ると、呆れながら言った。
「そうですなあ、白州殿は小生たちのコーデに対しても配慮のある発言をしてくれましたし、単純に白のワンピースの破壊力もえげつなかったですので、ついつい満点をつけてしまいましたが、キラユイ殿の場合はそうもいかないでござるよ」
「ああ、まったくだよ。ちょっとオシャレで可愛いぐらいじゃ僕はキラユイに満点をつけないだろうね。下手したら僕と同じように二点をつけてやってもいいぐらいだ。スナズ君もそのつもりで審査してくれ」
「ええ、もちろんでござるよ。ハゲはすぐハンチングに逃げるなどと、とんでもない暴言まで吐かれていますからな、むしろ死ぬほど好みの服装でキラユイ殿が出てきても、小生と同じ六点以上は絶対につけないでござる。まあ純粋にキラユイ殿がどんなコーデをするのかは楽しみでありますが」
スナズとマタオはお互いの考えを確認しながら、奇妙な連帯感で繋がっていた。
「しかしキラユイのやつ、時間がかかっているな。そんなに手間取るようなコーデなんだろうか?」
マタオはなかなか試着室から出てこない彼女を不審に思いながら言った。
「意外に鏡で何回もチェックしているのではないですか? ここにきてプレッシャーを感じているでござるよ」
スナズはメガネをクイッと人差し指で上げながら答えた。
「事故に遭う前ならともかく、今のあいつにそんな繊細な心が残っているとは思えないが……」
マタオは以前の妹を思い出しながら言った。
「そういえば普段のキラユイ殿はどんな服装をしていたでござるか? 兄であるマタオ殿なら、家にいる時や外出する際の服装を把握していると思いますが」
スナズは当たり前すぎて見落としていた質問をした。
「そうだな……あれ? どんな感じだったっけ? 存在が近すぎて意外に覚えていないな。確かシンプルなやつから可愛い系までなんでも着ていたような気がするが、まあ結局あいつ顔がいいからさ、なんでも似合うんだよね」
「はあ、なるほどですなあ、ではますますキラユイ殿がどんなコーデで出てくるのか分からなくなってきました」
「うーん、僕はなんだかすでに嫌な予感がしているんだが」
「ぐへへっ、私は裸で出てきてほしいですわ」
「白州さん、通報するよ本当に」
三人はそれぞれ期待と不安を膨らませながら、試着室のカーテン開くのを待った。
「待たせたなお前らっ! カーテン開けるでっ!」
しばらくして、ようやくキラユイは三人に声をかけた。
「おー、待ちくたびれたぞ」
「お手並み拝見でござるよ」
「ぐへへっ、写真撮らなきゃ」
そして試着室のカーテンは開いた。
「どや! これが最先端のイケとるファッションやぁー!」
キラユイはそう言ってドスケベ下着にニーソというコーデで三人の目の前に現れた。
「ぶっ!? なんて格好をしてるんだキラユイ! さっさと服を着ろ!!」
マタオは彼女のスケベコーデに激怒した。
「着とるがな、これがワシの考えた創造性豊かなコーデや。似合っとるやろ?」
「エロすぎて涙が止まりませぬ!! 十点でござる」
「ぐはっ! 無理ですわっ! 興奮しすぎて死ぬぅー!!! もちろん十点ですわ!」
「こら! 白州さんはともかくスナズ君まで満点をつけるんじゃない! 常識的に考えて、こんなコーデを認めるわけにはいかないぞ!」
マタオはキラユイのドスケベコーデに堕ちた二人を批判した。
「マタオよ、世間の常識なんぞに囚われるでない。ワシらはワシらの常識で生きていけばええんやで」
キラユイは名言のような雰囲気でそういうと、マタオに近づいた。
「バカッ! そんな格好で試着室から出てくるな!」
彼は注意したが、キラユイはそれを無視してマタオの首に手を回して、ベロキス寸前のところまで顔を近づけた。
「な、なんだよ、そんな目をしても僕は二人のように満点をつけないぞ」
キラユイは目をキラキラさせながら、甘えるように彼を見つめた。
「お兄ちゃん、私、可愛いくない?」
彼女は以前のユイのような口調を想像して言った。マタオがお兄ちゃん呼びに弱いのはなんとなく勘づいているようである。
「……いや、そういうわけじゃないけど」
マタオはこの全く予想していなかった攻撃に、目を逸らしながらオロオロして答えた。
「お兄ちゃん、私のこと嫌い?」
「き、嫌いなもんか」
「じゃあ点数言って」
「……な、七点ぐらい?」
マタオは消え入りそうな声で呟いた。
「酷い! やっぱりお兄ちゃん私のこと嫌いなんだ! バカバカバカァー! 死んでやるぅー! えーんえーん!」
キラユイはお得意の嘘泣きをしながらマタオの胸をポカポカ叩いた。
「……ふう、十点」
「えっ!? 今なんて?」
「十点だよ、お前が一番だ」
マタオはキラユイの肩を掴むと、諦めたように言った。
「よっしゃー! これでワシの合計三十点やぁー!!」
そして彼女はマタオの点数を聞くと、即座に彼から離れて元のキラユイに戻るのだった。
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