第22話
「ふうぅー、終わったのか……うっ、身体がだるい、これが多くの
マタオは体力の消耗を感じながら片膝をつくと、いつの間にか気絶していた岩井トラオの身体から、封印の神具が自分の右手に戻るのを確認した。
「キラユイ、お前最初から封印の神具の切れ端を持っていたな?」
「おー? よう気付いたな」
「端の方が
マタオは違和感を思い出しながら言った。
「まあ切れ端とはいえ神具の所有者に触れさせれば、動きを封じて能力を一時的に無効化するくらいはできるさか、使い勝手ええでなあ。封印の神具を対象に貼り付けるだけやったらワシでも問題ないしな、能力を発動するのはマタオの
キラユイはケロリとした顔で言った。
「だったら最初から言っておけよ! お前に恥の神具の能力が効かないのも聞いていないし、情報を共有してくれていたらもっと楽に封印できただろっ!」
マタオは理不尽なキラユイに対して激怒した。
「敵を騙すにはまず味方からやで、それに簡単に封印できたらマタオの練習にもならんしな。これで神具がどんなもんか少しは理解できたやろ?」
キラユイは笑みを浮かべながら言った。
「何が練習だよ! 白州さんまで危険に晒しやがって! それになんで神具のリスクについても黙っていた? ちゃんと説明しろよ! 封印の神具に口止めまでしやがって、まさかとは思うが自分でリスクを抱えるのが嫌だから、僕たちに押しつけたんじゃないだろうな? 返答次第ではもう協力できないぞ」
マタオは険しい表情でキラユイに言った。当然の言い分である。
「何を言うとるか、ワシはなんも
キラユイはマタオの追及に対して何の罪悪感もなく答えた。
「ふざけるなよ」
「まあ待て。ほな聞くが、加速の神具をワシが所有して身体を張れば良かったと言うんか? 考えてもみい、そうなればユイの身体はどうなる? ワシが入れ替わったことで多少は動かせとるが、事故のダメージはまだ残っとる。そんな状態やさか、ワシは将来のユイのために心を鬼にして、お前らに任せたんや」
キラユイはマタオに図星をつかれていたが、バレると今後の立場がとても苦しくなってくるので、もっともらしい嘘をついた。チェンジの神具は入れ替わる前の身体の状態を引き継ぐので、キラユイは元気である。
「それにカオルとはベロキスの
「……じゃあ宝物庫を解放した件はどうなんだ? 僕には不幸な事故だとか言っていたくせに、世界の神具とかいうやつを盗むためにお前がやらかしたんだろ? 自分の私利私欲のために僕たちの世界に迷惑をかけやがって、何が率先して神具の回収に来ただよ、どうせ作者とか他のアシスタントに追及されて仕方なく神具の回収をやらされているだけじゃないのか? 嘘をついたことは謝ってもらうぞ」
彼は厳しい表情を崩さずに言った。全てその通りである。
「マタオよ、お前は大きな勘違いをしとる。世界の神具を盗もうとして宝物庫を解放したんも、決して私利私欲のためではない。ワシはこの不完全な世界をもっと良くしようと思ったんやっ! 見てみいこの世界を、戦争とか災害とか事故なんぞで死んどる奴らがいっぱいおるやろ? ワシはそんな不幸なことが起こらんように世界を変えようとしたんや! アレはそういうことができる神具やさかのう」
「……な、なんだって!? そうだったのか?」
「うむ、当たり前や。確かに表向きはワシが裏切ったかのように思われておるが、本当はそういう理由があったんや。そやさかワシはマタオに嘘をついたが、それは良い行いは隠れてやりなさいという美しい精神からくる嘘や。ワシはこの世界を平和にしたかっただけなんやで」
キラユイは最低の嘘をつくと、脱いでいた下着と制服を拾って素早く着用した。そして昨日マタオに書かせていた誓約書をスカートのポケットから出す。
「大体、マタオに文句を言う資格はないやろ、これを見てみい」
「あ? なんだそれは、大根が八十バカー……」
「ああ、ちゃうちゃう、反対やったわ」
キラユイはうっかりスーパーのチラシの表の方を見せていたことに気付いて、急いで裏返した。
「えー、吉良マタオは本日より過去のキラユイの行いを無条件で全て許します……あー、そういえば書いたなあ、そんなこと」
「そうや、つまりワシには正当な理由もあるし、この誓約書もある。これ以上過ぎたことをゴタゴタ言うんやったらマタオもワシに嘘をついたことになるが?」
キラユイは誓約書をヒラヒラさせながら言った。
「それにワシのお
キラユイはお得意のキラキラした眼差しをマタオに向けた。
「……た、確かに
マタオは心を落ち着かせて言った。残念ながらキラユイを信じるようである。
「でも一つ気になることがあるんだが」
「あん? なんや?」
「恥の神具が封印される前に、何か僕らの事故について重要なことを言っていたような気がするが、自然な死じゃないとかなんとか」
マタオは恥の神具の発言を思い出しながら言った。
「な、なにがやっ!? 聞き間違いやろっ!! あんな自然な事故は他にないっ!! 敵の言うことなんぞいちいち真に受けたらあかんっ!! 奴らはそうやってワシらを惑わしてくるんや!!」
キラユイは真実を隠すため、顔を真っ赤にさせながら捲し立てるように言った。
「……そうかなあ、封印の神具はどう思う?」
「……えっ!? 何がです?」
無言でやり取りを聞いていた封印の神具は、ビクッとして言った。
「いや、恥の神具の奴、最後の方にボソボソなにか言ってなかったか?」
「言っとらん!! ワシにはなんも聞こえんかった!!」
「キラユイじゃなくて封印の神具に聞いているんだよ」
マタオは必死に誤魔化そうとするキラユイを不審に思いながら言った。
「……な、なんのことでしょう? 私には何も聞こえませんでしたが」
封印の神具は、威嚇する野良犬のように睨んでいるキラユイを確認して、小さい声でマタオに答えた。
「おかしいなぁ、恥の神具は何かを伝えようとしていた気がしたが、僕の勘違いか? まあ確かに、キラユイの言う通り敵の言うことなんか気にしていても仕方がないか」
マタオは予想以上に体力を消耗しているのを感じながら言った。
「そ、そんなことよりや、カオルを早う保健室に連れて行かんとっ!」
キラユイはカオルのことなど全く心配していなかったが、話題を逸らすために気遣うフリをして言った。
「ああ、そうだったな。しかしこの状況はどうするんだ? みんな全裸で気絶しているからいいものの、目が覚めたらシャレにならないぞ」
マタオは体育館の惨状を見て言った。
「大丈夫や、恥の神具を封印したさか、今回の件もなかったことになる」
「なかったことになる?」
「まあ見ててみい、そろそろ動き出すで」
キラユイがそう言うと、裸の戦士として気絶していた教員と生徒たちはムクリと立ち上がって、そのまま無言で静かに歩いて体育館を出ていく。
「ど、どうなっているんだ? 岩井先生まで体育館を出て行ってしまったぞ」
マタオは状況が理解できずに言った。
「そやさか、恥の神具のやらかしたことがなかったことになるんや」
「みんなは覚えていないのか?」
「そうや、神具関係の記憶は抹消される。ほんで教室に戻って服を着たら、そこから日常がスタートや。この件を覚えとるのは神具の所有者と、ワシみたいな関係者だけや。所有者だった岩井トラオ本人でさえ、恥の神具を封印したさか何も覚えとらん」
「……もう指摘する元気もないよ、なら白州さんを保健室に運んで僕らも教室に戻る……あれ身体が……」
そこでマタオは倒れて意識を失った。
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