第21話

「へえ、宝物庫から逃げてきたとは聞いていましたが、そういう経緯だったんですか。そのキラユイというアシスタントが盗もうとした世界せかいの神具とは何ですか?」


 岩井トラオは憤慨しているマタオとは対照的に、初めて恥の神具から聞く話に興味が湧いて尋ねた。


われも噂程度でしか聞いたことがないが、神具の頂点に立つ神具と言われている。作者とアシスタント以外は見たこともないし、詳しい能力も不明だ。どうやら我らと一緒に世界の神具も地上に出てきているらしいが、奴の姿を見た者はおらん」


「ほう、ではその世界の神具も所有者を求めて地上に出てきているというわけですね? そんなヤバそうな神具を所有する人間ともし出会ったらどうするんですか?」


 トラオは心配して恥の神具に尋ねた。


「所有だと? ははっ、ないない、いらぬ心配だ。噂だと世界の神具は人間には使えんらしい。想像を絶する能力だろうから、神具の中で一番所有条件も厳しいだろうしな」


 恥の神具は笑いながら言った。


「そうですか、なら安心しました。しかし今の話を聞いて思ったんですが、そんな大事な神具が地上に逃げてしまっているなら、作者やアシスタントは回収しようとするんじゃないですか?」


「ああ、だがさっきも言ったように作者たちは地上では存在できないからな。おそらく今頃はこっちの様子を観察しながら頭を抱えているだろう。まあコア世界から手持ちの神具で干渉しつつ、気長に待つことしかできんだろうが」


「……なるほど、繋がってきたかもしれません。この状況を整理すると、つまり作者側が吉良マタオに何らかの方法でコンタクトを取り、神具の回収を依頼したのではないでしょうか? そう考えると全ての辻褄が合います。どうですか吉良マタオ?」


 トラオはすでに正解の答えにたどり着きそうだったが、実際は自分でも半信半疑だったため、カマをかけるようにして言った。


「……えっ!? い、いやぁー、なんのことだかさっぱり分からないなぁー、僕は別に両親を生き返らせてもらったり、妹を元気にしてもらう代わりに神具の回収を引き受けたわけじゃないぞ」


 マタオはトラオから目を逸らしながら誤魔化した。しかし普段が真面目なので嘘が下手だった。


「……吉良マタオ、詳細は不明ですが、今ので大体分かりました。あなたが家族想いのお兄ちゃんであることも、なぜ封印の神具の所有者になれたかも」


 う、嘘だろ!? なんで分かったんだ?


 マタオ様がおバカだからですよっ!! なんでバラすんですか!! 


 めったに怒らない封印の神具は彼の心の中で激怒した。


 え? 僕のせいなのか? ちゃんと嘘をついたはずだが。


 下手ぁー!! ど下手もいいところですっ!! キラユイ様を見習って下さい!!


 ……す、すまん。そんなに怒られるとは思わなかったよ。


 マタオは嘘をついたら怒られる教育を受けてきたので、複雑な心境で答えた。


「ふむ、しかし緊急事態とはいえ、そういった理由で作者たちが神具の回収を普通の人間にやらせるとは考えにくいがなぁ、確か地上で起こった自然な死や怪我に直接介入するのは禁止されているはずだし、それなら別に吉良マタオでなくても不幸な奴にエサをぶらさげれば、誰でも封印の神具が所有できることになってしまう。そこまで所有条件を緩くできるわけがない……うん? ちょっと待て、あっ!?」


 恥の神具は何かを思い出して声を上げた。


「どうしました恥の神具?」


「そ、そうか、吉良マタオと吉良ユイって、お前らもしかして温泉旅行に行く途中、車ごと崖に落ちたあの家族か!?」


「あ?」


 マタオは急に興奮して聞いてくる恥の神具を不審に思いながら返答した。


「ああ、そうだけど、それはさっきも岩井先生が説明してただろ? 転落事故に遭ったって」


「吉良マタオの言う通りです、何を今さら驚いているんですか?」


 トラオもマタオに同調しながら恥の神具に言った。


「……いや、違うんだ、そうか、地上で起こった自然な死ではないからか、だから封印の神具も……なるほど、そういうことだったのか。吉良マタオ、我は知っているぞ、宝物庫に閉じ込められていた時、あるアシスタントが自慢げに話していたのを聞いたことがある。お前たちが交通事故に遭ったのは……」


「はい、おつかれさん」


 恥の神具が真相をマタオに話す前に、いつのまにか岩井トラオの背後にまで忍び寄っていたキラユイは、隠し持っていた封印の神具の切れ端を彼の肩に貼った。


「えっ!?」


「あっ!?」


 トラオと恥の神具は状況が理解できないまま、思わず驚きの声をあげたが、封印の神具の切れ端の効果により、恥の神具は能力を無効化され、岩井トラオも身動きが取れなくなった。他の裸の戦士たちも全員その場で気絶する。


「待てっ! 封印する前に教えろ! なぜお前は恥を回収したのに我らに反抗できる? セクス存在エネルギーもお前からは感じなかったぞ! 切れ端とはいえ、我の能力を防ぎながら背後まで近づいたのなら、さすがに気配がするはずだ」


 恥の神具は早口でキラユイに言った。


「あん? あー理由は簡単や、ワシには恥という感情が無いんや。元々無いんやさか、封印の神具の切れ端に守ってもらう必要もないし、能力使ってないんやさか、ワシからセクス存在エネルギーを感じ取れるわけがないやろ。封印の神具の能力を発動させたのはトラオの肩に切れ端を貼った後やし」


「なんだと!? 嘘をつくな、恥が無いなどありえない、どんな人間にも多少なり恥は存在するはずだ! 現にお前から回収した恥も我の中にあるぞ!」


 キラユイの説明に納得がいかなかった恥の神具は反論した。


「おー、そやさかワシは人間と入れ替わったアシスタントや、お前がさっき回収した恥も、このうつわに残ってたもんでワシの恥やない。クズで悪かったのう」


「お前まさかっ!? その下品な喋り方は、き、キラユ……」


「さいなら」


 キラユイがそう言うと、マタオの右手から封印の神具がするりと抜け出し、岩井トラオの肩に貼り付いている切れ端と合体した。そして恥の神具は封印の神具に完全に覆われて封印されると、宝物庫に転送されるのだった。

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