第19話

 二回目のケツの穴認証を終えたマタオは、必死で笑いを堪えているキラユイとカオルを連れて、体育館に入った。


「トラオ様ぁー!! 取り逃した生徒を捕まえてきましたー!!」


 マタオが裏口付近でそう叫ぶと、壇上に居るトラオは、彼の方に視線を向ける。


「ほう、二人ですか、これで恥の神具の必殺技を使えそうですね」


「ああ、条件は整った。ようやく我らも外に出れる」


 トラオと恥の神具はホッとした様子で言った。


「よくやりましたー!! ではその二人を連れてゆっくりこちらに来て下さい!」


「はーい! 分かりましたー!」


 マタオはキラユイとカオルの手を引っ張るようにして、壇上に向かって歩いた。


「おや? あれは裸の戦士たちの報告にあった、加速の神具の女子生徒二人じゃないですか?」


「フッ、バカを言うな、だとしたら捕まっていないだろ」


 トラオの疑問に恥の神具は鼻で笑いながら答えた。


「ええ、普通に考えればそうなんでしょうが、しかし彼女たちのセクス存在エネルギーを正確に感知するまでは分かりませんよ。ただでさえあなたの感知範囲は狭いのですから」


「フンッ、悪かったな、そもそも我の場合は感知範囲よりも能力の有効範囲の方が広いため、そこまで所有者のセクス存在エネルギーを感知する必要がないのだ。感知するよりも早く恥を回収し、裸の戦士にしてしまえば、所有者と神具の種類を判別するのはその後で十分だからな。


 恥の神具は少しムッとして反論した。


「だからさっきも言った通り、あの二人のどちらかが加速の神具の所有者であろうと問題はない。むしろ良い手駒が増えるだけだ」


「まあ確かに、それもそうですね」


 トラオは恥の神具の説明に納得したが、封印の神具は限りなく感知されないように、必要最低限のセクス存在エネルギーを消費しながらマタオたちを守っており、加速の神具にいたっては全く能力を発動していない状態なので、恥の神具からしてみれば感知範囲外で彼らのセクス存在エネルギーを判別するのは不可能だった。


「あーその辺でいいですよ、まだ恥を回収していない人に近づかれても怖いので」


 トラオは座っていたソファーから立ちあがると、裸の戦士たちが待機している一番後ろの列辺りでマタオたちに止まるよう指示した。そこは恥の神具の能力が届くギリギリの距離である。


「えーと、君は確か、二年生の吉良きら君だったかな?」


「はい、二年一組の吉良マタオと申します!! これからもトラオ様に尽くせるように頑張ります!!」


 マタオは元気に答えて、キラユイとカオルを一歩前に出した。


「ほう、やる気があってよろしいですね、あなたの名前は覚えておきましょう。では恥の神具、さっさと彼女たちの恥を回収して下さい」


「ああ、すでにやっている」


 恥の神具は能力の有効範囲に入ったキラユイとカオルの視線を、トラオの股間に張り付いている自分に誘導した。


「そういえば必殺技を使う時って何と言うんでしたっけ? かけ声みたいなのありましたよね? 私はアレを早く叫びたかったんですよ」


 トラオはすっかり次のフェーズに移行した気になって言った。


「重要なことを忘れるな。技名わざめいの前にシング・シングだ。うん? ちょっと待て、この二人おかしい、恥が回収できていないような……」


「シング・シング!! 二人超加速ダブルブーストッ!!」


「なっ!?」


 岩井トラオより先に必殺技を叫んだのは、マタオの左手を掴んで加速の神具の能力を発動した白州カオルだった。


「うわっ、周りの動きおっそ、まるで止まっているみたいだ。白州さんナイスタイミング!」


「マタオさんこっちに顔を向けないで下さい」


「え? なんで?」


「フフッ、まだケツの穴認証のイメージが脳内に焼きついていますの」


 カオルはクスクスしながら言った。


「なぜ笑うんだい? 僕はみんなのためにベストを尽くしたんだよ? バカにするのはやめてくれるかい?」


 マタオは恐ろしいほどの真顔で問いかけると、あえてカオルに顔を近づけた。


「アハハッ! お腹が痛いですわっ」


「ちょっとさ、早く走ったほうがいいよ、そんなに余裕はないから」


 必殺技を発動している加速の神具は、馬鹿なことをやっているマタオとカオルに呼びかけた。


「分かったよ、僕はもう前しか見ない、行くよ白州さん」


「あーおかしい、はいはい」


 そして二人は走って壇上に繋がる短い階段を駆け上がった。岩井トラオと恥の神具はスローモーションのままソファーの前に立っている。


「よし! イケるぞ!」


 マタオは岩井トラオの目の前まで来ると、勝ちを確信した。


「これで終わりだー!!」


 彼は右手を伸ばしてトラオに触れようとした。しかし次の瞬間、カオルと繋いでいた左手がガクンと沈み、「キャッ!? 身体が……」という言葉と共に、その場に引き止められる。


「えっ!? 白州さん?」


 異変に気付いたマタオが驚いて振り返ると。ぐったりして倒れている彼女を発見し、愕然とした。加速の神具の能力も解除され、通常の速度に戻る。岩井トラオと恥の神具はいきなり目の前に現れたマタオとカオルに驚きつつ、即座に距離をとった。


「なんだこいつら!? いきなり現れたぞっ! 神具の所有者で間違いない! 早く捕まえろ!!」


 恥の神具はそう叫ぶと、所有者のセクス存在エネルギーを二人から感じ取って、すぐに壇上の後ろで待機させていた裸の戦士たちに二人を拘束させる。


「くそっ! 離せっ! おい加速の神具! 作戦通りなのに一体どうなっているんだ!?」


 マタオは裸の戦士たちに身体の自由を奪われながら、状況が理解できずに叫んだ。


「ごめん、思ったよりカオルの限界が近かったらしい、多分ベロキスの時に使った十倍速のせいだ。もう僕を使えるだけのセクス存在エネルギーが残っていない。活動停止だ」


「えっ!? セクス存在エネルギーがなくなると活動停止になるのかよ!? 聞いてないぞ!」


 マタオは新たな事実を知って驚愕した。


「だって聞かれてないし、カオルを怖がらせちゃってもアレだしね」


 加速の神具は悪びれずに言った。


 マジかよこいつ、おい封印の神具、加速の神具が言っていることは本当なのか?


 マタオはたまらず右手に視線をやって心の中で尋ねた。 


 ……はい、本当です。


 封印の神具はめちゃくちゃ言いにくそうに答えた。


 何でそんな重要なことを黙っていた? お前も聞かれてないとかふざけたことを言うつもりじゃないだろうな?


 すみません、口止めをされていました。


 なに? 誰にだ?


 ……そ、それは言えません。


 言えない? ……まさか。


 マタオは封印の神具と離れたことにより、服を脱いですっかり裸の戦士の一員として、トラオを護衛しているキラユイに視線を向けた。


 一番慣れているはずのアイツがなぜ自分で神具を使わないのか不思議だったが、やっぱりそういうことか。何が俺たちを信じているだ、ふざけやがって。


「まあ仕方がないよマタオ、僕たち神具は所有者のために存在しているわけじゃないからね。あくまでも自分の目的のために所有者と利害関係を結んでいるだけだよ。それにどちらにしても所有者でいる限りはマタオたちだって僕らを使わざるを得ないでしょ? 必要としているから神具の所有者になれるわけだからね」


 加速の神具はマタオの心情を読み取って、諭すように言った。


「お前なっ!」


「ま、マタオさんやめて……わ、私は、ベロキスで十倍速を使ったの、こ、後悔していませんわ……キラユイさんのベロの感触と唾液の味はあの世にいっても忘れません……ぐはっ」


 カオルは力を振り絞ってそう言った後、意識を失った。


「……最後の言葉は他にもっとあるだろ」


「大丈夫だよマタオ、休んでカオルのセクス存在エネルギーが回復すればまた加速できるよ」


「そういう問題じゃないっ!」


 マタオは加速の神具に怒鳴って、目の前のトラオと恥の神具に視線を向けた。


「クソッ、最悪な気分だ」


「フフッ、愉快なお仲間ですね。大丈夫ですよ、白州カオルは意識が戻り次第、裸の戦士にして、こちらで利用しますので、そのままここに寝かしておきましょう」


 トラオは不敵に笑いながら言った。


「しかし妙ですね、なぜあなたたちの恥は回収できていないのでしょう?」


「うむ、明らかにおかしい。そっちの女が加速の神具の所有者であるのは分かったが、なぜここまで我に近づいて正気を保っていられる? こいつら何か隠しているな」


 トラオと恥の神具は不審に思いながら裸の戦士に拘束させているマタオに近づいた。


「うん? ちょっと待て、なんかそいつからも所有者っぽいセクス存在エネルギーの気配がするが、おい、なぜ右手を隠している……」


「あっ、どうも恥の神具さん、捕まえに来ちゃいましたー。てへっ」


 マタオの右手と合体している封印の神具は、岩井トラオと恥の神具に視認されたと同時に言った。


「あ!? あんぎゃあぁぁー!! ふ、封印の神具っ!? 来ちゃいましたって!? な、なぜお前がここにいるっ!?」


 恥の神具は悪魔でも見たような様子で叫んだ。


「何を驚いているんです? 吉良マタオの右手がどうかしたのですか?」


 岩井トラオはマタオの右手を調べようとして手を伸ばした。


「やめろっ!! それに触れるなぁーー!!」


 恥の神具は凄い勢いでトラオに吠えて、間一髪彼が封印の神具に触れるのを阻止した。


「あーびっくりした、そんなに大声を出さなくてもいいじゃないですか、何を必死になっているのですか?」


「バカッ!! よく見ろっ!! トラオも所有者だから認識できるだろ! そいつの右手と合体している紙切れが!!」


「紙切れ? そんなものありました? あー、なんかボヤッと見えてきた、封印って書かれているやつですか?」


 トラオはメガネのレンズを指でこすりながら言った。


「そうだ! それは封印の神具といって、トラオが触れると我が封印されて使えなくなる。神具に関する記憶も全て消されるぞ」


「なんですって!? 神具を封印する神具? そんなものが存在するんですか?」


「ああ、こいつらが裸の戦士にならないのは、封印の神具の能力で我の能力を無効化していたからだ。さらにこいつはセクス存在エネルギーのコントロールも恐ろしく上手いからな、ここまで感知できなかったのも仕方がない」


 恥の神具はトラオに封印の神具の能力を説明した。


「なんですかその苦しい言い訳は、後で反省会を開きますからね。まったくもう、しかし困りました、ということは彼を裸の戦士にできないのですよね? そしたらどうしましょう?」


 トラオは腕組みをしながら股間に付いている恥の神具に問いかけた。


「どうするもなにも殺すしかなかろう、そうすれば所有者である吉良マタオはこの世界から存在自体が抹消されるし、封印の神具も地上から消える」


 恥の神具は自分の葉っぱの先をヒラヒラ揺らしながら、岩井トラオに提案した。


「……うーん、しかし妙ですねえ、殺すのは構わないですが、なぜ吉良マタオは封印の神具を所有できたのでしょうか?」


 トラオは疑問を抱きながら恥の神具に言った。


「それはこいつに神具を封印しなければならない理由があるからだろう? 神具は必要としている者に引きつけられ、所有した者にしか使用できないからな」


 恥の神具はトラオの疑問に即答した。


「ええ、それはあなたから聞いて知っていますが、その理論だと封印の神具を所有する前に吉良マタオは神具の存在を知っていることになりますよね? なぜなら神具の存在を知らないのなら、そもそも神具を封印するという発想が出ないわけですから、当然封印の神具は所有できません。私の言っている意味が分かりますか?」


 トラオは考えをまとめながら、恥の神具に言った。


「た、確かにっ!? それはそうだな。普通は所有した神具から説明を聞いて神具という存在を知るわけだから、順番が逆になっている!? そうだ思い出した、だから封印の神具は人間が所有するのは厳しかったはず」


 トラオと恥の神具は不思議そうにマタオを見た。


「吉良マタオが神具を封印しなければならない状況に置かれているのは間違いないでしょうが、何か例外があったのでしょうか?」


 トラオはマタオの顔をジロジロ見つめながら言った。


「どうなのです? 吉良マタオ、あなたはどういう経緯で封印の神具の所有者になったのですか? 殺すかどうかはそれを聞いてから決めます」


 マタオはトラオの問いに困惑した。

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