雨に濡れたいときもある

花井有人

『梅雨入り』。 これから、雨が続く――。

「ねえ」

「あ?」

「聞いてよ」

「何を」

「映画行くって言ったじゃん」

「昨日な」

「うん。でも中止になった」

「なんで」

「相手誘ったけど断られた」

「……」

「すごい勇気だして誘ったのに」

「忙しかったんだろ」

「違う、ヒマだって言ってた」

「じゃ、お前嫌われてんだよ」

「ひどくない?」

「慰めてやるとか言って欲しかった?」

「言えよバカ」

「うるせえブス」

「もういい」

「あっそ」


「おい」


「おいって」


「ムシすんな」

「なに? 今忙しいんだけど?」

「前田と話した」

「もういいよ、嫌われてるんでしょアタシ」

「嫌われてねーよ。一度ダメなくらいで諦めんな」

「いいってばもう」

「秘密の話な」

「え?」

「お前、前田の友達の遠藤知ってる?」

「うん」

「遠藤、お前が好きらしい」

「……」

「だから、前田は遠慮して断ったんだと」

「じゃあ、私より友達を選んだんだ」

「男はそういうもんだ」

「嫌われてないの?」

「うん」

「……ありがと」

「ポカリ一本な」

「オッケー」


「ちょっと」

「ンだよ」

「遠藤くん、アタシのこと好きじゃないって」

「は?」

「前田くんに聞いた」

「知るかよ、もう愚痴なら聞かんぞ」

「アンタさ」

「知らねーっつってんだろ」


「ちょっと」


「無視しないで」


「ねえ」

「……なに」

「前田くんに、告白した」

「ふーん」

「どうだったか気にならない?」

「どうでもいい」

「フラれた」

「……オレに言われても」

「前田くん、他に好きな子がいるって」

「それは知らなかった」

「アタシ、前田くんのこと、どれだけ好きかちゃんと伝えた」

「そっか」

「前田くん、友達に遠慮してるとかじゃないって言ったよ」

「悪い。ちょっと忙しいからまた後で」

「ごめん」

「……なんで謝った?」

「アタシ、アンタのこと都合よく利用してた」

「別に愚痴聞くくらいでそこまで重く受け取った事ねえよ」

「ごめんね」

「謝んな」


「久しぶり」

「久しぶり」

「明日ヒマ?」

「まぁ、特に何もないけど」

「映画いこ?」

「それ、前田と行くつもりだった奴だろ」

「うん」

「……いいけど」

「じゃあ明日十時に駅で待ち合せね」

「あいよ」

「前田くんと、ケンカ、してない?」

「なんで? してねーよ」

「そっか」

「何気にしてんだよ、ブス」

「ほんと、ブスでゴメン」

「やめろ」

「ごめんね」

「やめろっつてんだろ」

「アタシ」


 ブブブブ――――。


 スマホが震えた。

 着信だ。

 アタシは打ちかけていたメッセージを送ることができず、通話に出た。

 相手は開口一番、こう言った。


「諦めようとしてた」

「……」

 アタシの声は嗚咽にしかならず、言葉を紡ぎだせなかった。

「前田が好きなんだろ」

「……」

「オレは諦めようと、してたんだよ」

「……」

「男はそういうもんなんだよ」

「ごめんなさい」

「お前に惚れられるような男には、なれなかった」

「だって、アンタ、いつもアタシのことブスっていう……」

「お前が前田のことばっか話すからじゃねえか」

「初恋だったのに――」

「ほんとな……。実らねえよ、初恋はさ」


 梅雨の時期がやってくる――。

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雨に濡れたいときもある 花井有人 @ALTO

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