クゥシという男

ニオ視点①

01 魔法兵団の推薦者

 帝国魔法兵団。シートルランドの帝国兵団の中で、特に魔術を得意とする兵士団。その名の脅威は自国は当然ながら隣国にも影響を与えている。魔法を扱えるだけでも特殊な人種のと言えるのだけど、特にそんな人種の中で選りすぐりを揃えた魔法兵団。共和国なら最高の守護部隊。敵対国なら最悪の戦闘部隊。必要とされているのは目に見えている。そして何より提示された給料が良かった。

 そんな訳で、私はこの帝国魔法兵団に推薦という形で入ることになった。

「それでは第24期推薦で入った2人を紹介します」

 司会の女性の言葉と共に、私と、そして私とは反対端の人が立つ。私達新兵は横一列に並んでおり、70人近く先にいる私と同じ推薦された人の姿は見えなかった。

 それにしても推薦が私以外にもう1人いるとは思わなかった。兵士の推薦方式は昔からあったみたいだが、その推薦基準は物凄く厳しく、私も学生時代に魔導武道大会で圧勝という実績があっての推薦。私の隣の彼女も、去年私に負けて大会準優勝。かなり別格の強さを感じたが、それでも一般入団だ。

 それに第一、この魔法兵団の入団試験ですら厳しいのだ。本当なら入っても50人。10人も受からないなんて年もよくある話。そんな中、今年は70人。豊作だったのか、それとも人員不足で基準を下げたのか。それは後々分かるとしてだけれど、さて私と同じ推薦ちゃんはどんな人で……。

 私と同じで中央に向かって歩いて来る、反対側の人の姿を黙視。すると意外な人物で少し驚いた。

 男……。間違いなく男。身長は極端に高くはないが低くもない。見た目も若く見える。確かに男なら推薦で聞き覚えも見覚えもないかもしれない。しかし男で推薦なんて相当珍しい。

 大体、この国の5人に1人しか男がいなくて、それに男はどちらかというと肉体派で、魔法を扱える人なんてほとんどいない。

「まあ魔法が扱える男ってだけで、推薦基準をとしては申し分ないわけね」

 私はその男と並び、70人の方を向く。私達2人と合わせて72人。よく見ると、ちらほら男の姿も見える。という事は、今期の男のトップと女のトップな訳だ。きっと年齢からすれば私が一番若いのだけども。

 司会というか、おそらく先輩である女兵士が手を動かし説明に入る。

「さて24期生の諸君。今回の3年ぶりとなる推薦者の紹介に入る」

 24期生への紹介もあるけど、実際には後ろにいる記者部隊や兵団の役職に対しての説明がメインなのでしょう。

 私の肩に司会の手が置かれる。

「彼女は知ってる方も多いですが、あの魔導武道大会で輝かしい成績を上げたニオさんです」

「よろしくお願いします!」

 私は歓声の中で礼をする。

「そして彼!御年16歳の天才魔導士クゥシさん!」

「私より2つした?」

 思わず声が出てしまった。周囲も驚きでざわついている。

「よろしくお願いします」

 彼は深々と礼をする。堅実なタイプの人なのかもしれない。礼を終えた彼は、私の方を向いて顔をうかがってきた。

「よろしくニオさん」

 彼は私に向けて手を差し伸べてくる。そんな手に私も手を差し伸べる。

「よろしく。えーっと……クゥシくん」

「クゥシでいいです。ニオ先輩」

「そう」

 ニオ先輩。悪くない響きに、少し頬が緩んでしまう。

 自己紹介が終わった所で、司会の女兵士が席に戻るよう誘導する。

「さて今日の24期生入団式は終了!明日より、新兵恒例の魔導武道大会が始まるので皆さん準備をお願いします。解散!」

 その言葉と共に新兵たちは散り散りに動き始めた。立ち尽くす者、仲慎ましく入団を喜ぶ者、その場を立ち去る者など様々。

「ニオ!あなた一般試験に居ないと思ったけど、やっぱり推薦だったのね」

 突然声をかけて来たのは、私の同級生のリップだった。リップは魔導学校の3年間の仲のいい同級生。

「リップも入団おめでとう!私が推薦なのは当然よ。問題は彼」

 推薦の男の姿を見渡して探したが見つからない。

「彼ならあそこよ。凄いわよね。学校飛び卒して入団したらしいわよ」

 リップの見る方を向くと、そこには取材メディアの溜まり場があった。彼は明日以降の武道大会についてコメントをしていた。

「飛び卒ねぇ……って1年で魔導系の学校を?」

「私達と違って、そんなに名門校ではないけどね。卒業するまで入団しないって魔法兵団に話したら、上の力で無理やり卒業させたらしいわよ」

「とんでもない子ね」

 少し魔導武道大会が楽しみにって来た。女性と違って男性は、魔導士の人口の少なさから大会が無いからあの男の力が未知数なのは当然。是非とも実践でどれほどの魔力なのか試してみたい。

「それにしても、リップってあの男に対して詳しくない?」

「だってかっこいいじゃない!天才魔導士!私よりも2つ下!普通、誰でも狙いに行くわよ」

 リップは目をキラキラ輝かせている。

「ふーん」

 私はそんな彼女を後目に帰り道を歩きはじめる。

「ちょっとぉ!クゥシくん見に行かないの?」

「楽しみは大会まで取っておくのよ。男だろうが天才だろうが、軽くひねってあげるわ」

 本当に魔導武道大会に対して楽しみになってきている。


 しかしその魔導武道大会で、クゥシと言う男の天才と言われた由縁を知る事となるのだった。

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