第5話

ごきげんよう、皆様…私は北条 麗奈ほうじょう れいな。先程ムキになって一人部屋に戻ってきたが…

「はぁぁ…」

あまりにも退屈だ…自然とため息が。お父様は仕事、大学でも媚びを売りに来る人間ばかり…唯一構ってくれて、同等の人間として扱ってくれるのがあの馬鹿執事。(でもお嬢様と執事という職柄の関係をちゃんと考えないのはどうかと思うけども…)さっきはついイライラしてしまったけれど、本気で怒っている訳でもなく。8割ぐらい怒って…まあまあ怒っていたかもしれない。

明日は私の誕生日なんだから、そんなにイライラするのは嫌だけれど…お父様は仕事で帰れないらしい。仕方のないことだけれども、でも、一人の誕生日は嫌だった…

「馬鹿執事も明日は休みだし、そんな日まで付き添わせるのは流石に気がひけるっていうか…」

口に出してみるが、寂しさは余計に増す一方。欲しいものが、お父様の財力で手に入っても…


記念日を一緒に祝ってくれる人なんていない


とりあえず、隼人が帰ってきたらすぐに夕飯を作らせて帰らせないと…あいつも忙しいだろうし。


カランコロン、と玄関についている鈴が鳴る。軽い音と共にガチャリと扉の開く音がする…今日はいつもより帰りが早いのね…

「おかしい」

あいつが帰ってきたら一番に私の部屋に来るはずだわ。お父様かしら?もしかしたら私の誕生日を祝いに早く帰ってきてくれたのかも…でも、私の部屋に来る気配はない。

「誰かしら?もしかしたら仕事の方かも…それか隼人が食材しまってるかもしれないし…夕飯何か聞きにいこうかしら。」

トントントンと軽やかに階段を駆け下りる。

「隼人?夕飯はまだかしら?」

リビングへの扉から顔を覗かせる。でもそこにいたのは…


隼人じゃなかった…黒の目だし帽を被った男が、部屋を物色していた。くるり、と私の方を見る男…

「これはこれは、北条お嬢様じゃないか…へへっ…」

ニヤリ、笑うとつかの間、男は私の方へと手を伸ばす。

「ひっ、やめて、来ないで…!」

急いで逃げるが、大人の男には勝てないことも分かっていた…

「こいつはいい金になるぞ…」

ニヤニヤと笑い私の腕を掴む。

「嫌だ、お父様……」


駄目だ、相手の力が強い…わざわざ来なければ良かった…ずっと部屋にいれば…

「私の名前はお呼びになられないのですねお嬢様。」

不意に皮肉な声が、聞こえた次の瞬間、男の顔面に綺麗にパンチが繰り出される。

「汚ならしい、そんなのでお嬢様に吊りあうとでも?」

横には隼人がにこりと黒い笑みを浮かべて、指をバキバキと鳴らす。

「顔面パンチかみぞおちへの回し蹴り、どちらが宜しいでしょうか?まあ、貴方にはフルコースで差し上げますけどね。」

バキッ、と音がしたあとに男は廊下へと吹き飛ぶ。

「一昨日来やがれクズが」 

男の背中を踏みつけて一発殴り付けると、くるりと私の方を振り返り

「お嬢様、警察呼んでくださいよ。こんな汚ならしいのをこの屋敷に置いときたくないので。」

今にも唾を吐きそうな顔でこちらに話しかけてくる隼人。

「いや、もう少し私を心配してくれないの?こいつに拐われそうになったのよ。」

「お嬢様なら大丈夫かと思ってましたので。まあ、最初に帰ってきたときにお嬢様の叫ぶ声が聞こえたのでまだ危害は加えられていないのかと…」

いつもならぶん殴ってるところだけど、今日は許したげる…だって、いつも綺麗なスーツはシワだらけだし、靴は玄関に放り出されているから…私を心配で急いで来てくれたのが分かるから…


「いつもありがとうね」

隼人に聞こえたか分からないけど、小さく呟いてみた。

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