第7話 仄暗き穴の底から

「あぅう」

 か細い声を出して、俺は目を覚ました、体が痛い、おもに全身が。

 どこだここは? どうしたんだっけ? 確か……。


 大穴に落ちたんだ! 


 何かカサカサした物に埋もれているようで、必死になってもがいて抜け出した、天井が高い。


 上から落とされた供物が積もって乾燥していたようで、それがクッションになって助かったようだ。

 何年分だろうか、何百年単位かもしれない。


 ほっとしたと同時に、ピピ達に対する色々な感情が湧いてくる。

 殺されそうになった事実、死んだかもしれない事実、悲しみと怒りとがまぜこぜになって、涙が出てくる。


「くそ! くそ!! くそ!!!」

 俺は汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら怒鳴る。

 元々、俺を助けた訳ではないんだろう、見た事もない珍しい生き物を神様の供物に捧げるために生かしておいた、だけだと思う。

 それでも、それでも。


 しばらく泣き叫んで、少し落ち着いた俺は、周りを見渡してみた。

 ドーム状? いや球形の部屋なのだろう、丸い天井に俺が落ちてきた穴の他に、ポツポツと明かりがあるせいで、周りは仄暗い。

 部屋の3分の1ほどは乾燥した供物で埋まっている、気候のせいだろうか? 空気が乾燥していてよかった。


 出入り口はないかとさらに目を凝らすと、中ほどに高さ4m幅2mほどの長方形の横穴が開いている、その穴に続く急な階段もある。

 カサカサになっている堆積物をかき分け、泳ぐようにして何とかそこまで移動し階段をよじ登った。

 その横穴は、さらに下に行くためのゆったりとした螺旋階段のようになっていて、壁にポツポツと明かりがあった。


「行くしかないよな」

 独り言をつぶやいて、息を切らしながら幅の広い階段を下って行く。

 この明かりはどうやってるんだろう? 外からの明かりを取り込んでいるのか?

 ここは何の目的で作られたんだろう? 下に行きつけば何かわかるかもしれない。

 できれば、ここから出る方法が見つかれば良いのだけど。


 この階段もおかしい、ピピ達が使うのには幅が広すぎる、日常的に使う訳じゃないからいいのか?


 そんな事を考えながら、下についた。

 そこは、半円球状のドームのようになって、かなり明るく照らされていた。

 その中心には、半円柱状で透明のカバーが付いている、そうSF映画などでよく見るアレに似ている。

「コールドスリープ装置?」

 長さ3mくらいのそれに近づいて、中を覗き込んでみる。


 そこには、寺院に有ったあの不気味な像と同じ姿の生き物が横たわっていた。

「うぇ」

 変な声を出して、思わず後ずさってしまった。

 もう一度気合を入れなおしてのぞき込む。


「ミイラだ、これ」

 カラカラに干からびた、2mほどの大きさの異形の生物、おそらくもう動かないだろう……動かないよな……たぶん。

 ぐるりと周りを調べてみる、何かを繋げるであろうコンセント状の物が複数ついていたけど、それだけだ何も繋げていない、この装置? 自体もう動いていない、つまり棺桶だな、これ。


 恐る恐る蓋を開けてみる、簡単に開いてちょっと拍子抜けした。

 首のあたりに首輪のようなものがあり、そこから下は色が変わっている、服って事か? ぴっちりのボディスーツか? 触手にはいくつかの金属質の腕輪の様なものが付いている、体にはサスペンダーの様な太いベルトを着けていて、その腰のあたりには大き目の何かの装置の様なものが付いている。


 レイガンとかライトセイバーみたいな、武器がないかと探ってみたけどなさそうだ。

 ……そんなものがあったってどうするんだ、ピピ達に復讐でもするのか、こんな穴の中からも出れないじゃないか。

 そうだ、まずはここから出ないと、この棺桶を入れた所があるはずだ。


 考えろ、考えろ、どこだ? ここに通じる横穴以外、他にはそれらしい所は無かった、ここもそうだ、降りてきた階段以外なさそうだ。


 隠し扉? 可能性は有りそうだけど、探さないといけないな、他には?俺が落ちてきた穴? 他には無いよな、どうやって? 梯子? 無理だろ、ロープで降ろした? 降ろせてもどうやってここまで持って来た? ピピ達が持って来た? いや、仲間の遺体なんだから、彼らが持って来たんじゃないか? 戻るときはどうやったんだ? 引き上げてもらう? 自力で上がる? どうやって。


 一つの考えが思いつく、元の世界では「くだらない」と笑われるだろうけど、オーバーテクノロジーを持っている彼らなら、もし、だとしたら……、よくSFとかにある……。


「ごめんなさい!」

 俺は一言そう言うと、もう一度彼の遺体を確認しだした。

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