第2話 霧深き森の中から
しばらく歩いても、黒い螺子くれた木々の森の中を抜け出せない、霧は少し晴れてきたようで、木々の間からぼんやりと光が漏れている。
相変わらず、周りからの音は聞こえない、自分が草を踏み小枝を踏み折る音しかしない。
こんな時、ラノベとかだったらどうだろうか。
しばらく歩けば、人が使っているような道に出て、馬車が盗賊に襲われてて、その馬車にその国のお姫様乗っていて、盗賊を倒した後、感謝されて恋仲になったり。
「チート持ってない時点で、盗賊とか勝てる気しないわぁ……」
だいたい、異世界に行ってチート無しとかないわー。
では、エルフの美少女が、ゴブリンとかオークとかに襲われていて、「くっ、殺せ……」の状況で、助けに入って。
「いや、無理無理、今は助けるどころか共倒れだわ」
盗賊どころか、ゴブリンとかにも会いたくない。
やっぱ、聖剣とか魔剣とかほしいな。
それを手に入れて、「世界を救くう勇者様です」とか言われて、魔物とか倒しまくって……。
とりあえず、武器も何にもないもんなぁ。
「助けてくれる、エルフの美少女とか出ないかね~」
スレンダーで、髪サラサラの美少女がいいなぁ、あとエルフで巨乳とかありえんわ、巨乳はダークエルフだろ、ダークエルフ肉食ってそうだし。
肉食いてーな。
後は、魔法だよな。
雷とか火炎魔法とかかっこいいよなー、魔力とかすごい有ったりな、今は使えなさそうだから、習わないといけないかも。
魔法学園とかあるんだろうか?
「あなたは学園設立以来初めての魔力量です!天才か!」みたいな流れで、大活躍とかな、後、冒険者と二束わらじで「あいつすげーよ」とか。
可愛いヒロインとかいて、いちゃこらしたいな、10人くらいでハーレムとかな。
後はあれだ、俺が襲われていて、偶然冒険者の美少女が助けに来て……、最初はツンツンしてるけど、後でデレてメインヒロインになるとか。
妄想を膨らませて、にやけながら歩いていると、少し霧が晴れてきたような気もする。
少し晴れてきたと言っても、まだ霧が覆っている、体がしっとりと濡れて体温を奪っていく。
久しぶりに結構歩いたせいで、息が切れて膝が痛くなってきた。
少し運動くらいはしとけばよかったかな?ぽっちゃり体系だしな……うん、ぽっちゃりだよな、デブではないよ……手とか後ろに回らないし正座できないけど、100キロ超えてるしタプタプしてるけど。
どこか休む場所も探さないといけない。
不意に枝を折るような大きな音がして、何かに叩かれたように肩に痛みを感じた。
「っつ!」
倒れそうになりながら何とか体制を立て直して、そのまま振り向くと、そこには太い螺子くれた棒を持った、人の形に似ている何かだった。
真っ白い肌をした、体は赤ん坊くらいなのに、まるで蜘蛛のように手足の長い、頭が異様に小さい、真っ赤な大きな目で、口を大きく開き黄色い鋸の刃のような小さい牙をむき出しにして、ピョンピョンと跳ねている変な生き物がいた。
細いあばらが浮き出た体には、ほぼ体毛が無くわずかに残っている毛が気味の悪さを増している。
草を分けるような音がして、さらに二匹出てくる。
3匹とも、体を揺らし、歯をむき出し金具がきしむような声を出して威嚇している……いや笑っている?獲物を前にして、嬉しそうに。
足が震える、心臓がバクバクと音を立てる。
殺される!そう思った瞬間、後ろを振り向き全力で走り出した。
何度も転びそうになりながら、懸命に足を動かした。
アイツらは、叫び声を出しながら追ってきた。
息が上がってきた。
体がうまく動かない。
体を動かさないと、アイツらに殺されてしまう。
殺されてたまるか! 気力を振り絞って走ろうとした。
足元から落ちる感覚がして体に風が当たる、どうやら落ちていくようだ。
いつの間にか、森を抜けてその先が崖だったらしい。
このまま落ちて死んだ方が、アイツらに殺されるよりはましかな?
俺、こんな所で死ぬのか……下から音がする、ぼやける目で見ると、川だろうか?
助かるかもしれない、かすかな希望を持ちながら、俺は意識を失った。
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