霧の町から異世界に

大福がちゃ丸。

第1話 霧の町から

 俺の名は、山田祐樹、絶賛ニート中、いや自宅警備員と呼んでほしい。

 食って寝て、外に出るのはコンビニに行くくらい。

 そんな毎日。

 友達も居ない、親には屑だのゴミだの無駄飯ぐらいだの育て方を間違っただの言われている、死なないけどね。

就職? あほらしい、募集がある仕事なんてそれこそゴミだ、時間の無駄だし。


俺は、他の屑どもに邪魔されないで、一人で出来るクリエーティブでお洒落な仕事したいんだよ、俺には才能があるに決まっているんだ、世間はわかってない。


 今日も、コンビニに行き、スナック菓子を買って帰る。

「あ~、異世界にでも行ってみてーなぁ」

 思わず口に出して言ってしまう。

 辺りは陽も落ち始め薄暗くなってきた。


 退屈な毎日が嫌で、マンガやらライトノベルやらで人気の”異世界転生”とかしてみたいと思っていた。

 ご都合主義だろうが何だろうが、見知らぬ世界、見知らぬ場所、剣と魔法、神様からもらった特殊能力で、怪物どもをなぎ倒し、ヒロインたちとイチャコラする。

 波乱万丈、わくわくする展開、そんな作品を見て楽しんでいた。


 そんな事を考えながら歩いていると、ふっと、肌寒くなりブルっと体が震える。

「え? なんだこれ?」

 周りの家の壁を見るのもやっとくらいの、濃密な霧。

 この時季の寒暖差で、こんなにも霧が出来るものだろうか?

 ゆっくり歩いていく、事故にでもあったらたまらない。

「トラックにでも引かれたら、異世界に行けるかもしれないな」

 馬鹿なことを考えながら、歩いていく、そんなことはあり得るはずはない。


 どのくらい歩いただろうか?時間の感覚がない。

 いい加減家につきそうなもんだけど、道はあっているんだろうか?いつの間にか、木々が周りを囲っている。

 こんな場所は、家の近くにはないはず。

 木がみんな一抱え以上ある太い木だ、しかも、みんな螺子くれ黒くて光沢がある、葉は真っ白だ。

 こんな木、見た事がない、いや、この世の物とは思えない。


「……いや、これホントに……」

 ぶるっと体が震える、寒さからだけじゃない、気分が高揚している、そうだこれは。

「異世界! キターーーー―――!」

 大声で叫んだ、思い憧れた異世界だ!


「これはあれだな、ステータス・オープン!!」

 何も起きない。

「えぇっと、オープン! ステータス! イベントリ!」

 何も起きない。

「くそ! じゃ、チート能力とかどーだ! 聖剣でろ!」

 出ない。

「んじゃ、LvMAXとかステータスMAXだろ! おりゃ!」

 近くにある、木を思いっきり殴ってみる。

「痛ったぁ!」

 鈍い音がして、拳を痛めてしまった、しかも擦りむけて血が出てる。

「はぁ、何も無しか……神様とかにも会ってないしな……」

 俺は、何かに導かれてここに来たわけではないらしい。

 赤くなった手をさすりながら、座り込む。


 静かだ、周りは霧と木々しかない、自分の出す音以外、何も音が聞こえない。

 急に不安になる、訳の分からない現象に巻き込まれて、訳の分からないところに来てしまったんだ。

 何か出てきたらどうしよう、手持ちはスマホと財布くらいで、武器になりそうなものもない。


「いや、まだワンチャンあるだろ」

 丁度よさそうな、大ぶりの枝を探し出し、杖代わりにして歩き出す。

 いざとなったら、こん棒がわりには使えそうだし。


「あれだよな、襲われてる美少女助け出して、そこから話が始まるみたいなことがあるかもしれないし」


 転ばないようにゆっくりと、濃密な霧の森の中を歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る