第4話 ほら、言わんこっちゃない。
「許してください! 幼い弟が待っているんです!」
少女は涙を流しながら地面に額をつけ平伏する。
だが、俺はそんなことで許すつもりはない。本当にいるかどうかもわからないし。
いたところで俺には関係のない話だ。
『そのために他者は死んでも良いと?』
「他にどうしようもなかったんです!」
少女が言うには、襲ってきた連中は廃村の生存者なのだと。
モンスターと戦う術はなく、かと言って荒地を耕し農作物を育てるには時間がかかりすぎる。
それならば、と通行人を襲って糊口を凌ぐようになったのだと。
言われてみれば、鎌持ってたっけ。
「一応開墾し畑を作ってはいるのです。ですが、収穫にはまだかかります。それなのにまた別の集落から落ち延びた人が加わり、幼い子供からどんどん飢えて死んでいっています」
「娘、これだけあればしばらくは持つか?」
エミーリオが馬に括りつけていた肉を下ろす。ドサドサッと重い着地音を立てた包みを見て、少女は目を輝かせる。
生肉だから早めに加工しないとダメになるけど、その辺は大丈夫そうだ。
二度と通行人を襲わないと誓うのであれば、という条件を少女が飲んだため持たせてやる。
『甘いな、エミーリオは』
「そうですか? 治安を守るのも仕事だったので。聖竜様こそ、助けないと言っておいて助けてくださったではないですか」
してやったり感たっぷりの顔で笑うエミーリオに馬に乗せてもらって再出発。
この得も言われぬ敗北感は何なのだろうか。
しかし、分かっているのかね。いくら食料を大量に譲ったとはいえ、せいぜい数日分。集落の人数によっては1日だって持たないだろう。
飢えが原因で襲ったなら、翌日にはまた賊に逆戻りだ。
『この先、まだまだあのような者が出るかもしれないぞ。その時はどうするつもりだ?』
「その時は、その時です。引かぬようなら斬るまでです」
あっさりやられてた奴がそんなことできるのかねぇ、なんて言いながら進む。
それがフラグになるかと思いきや、やはりこの天気だと山賊達も引きこもるようで。誰に襲われることも無く次の集落に辿り着いた。
と思ったのだが。
「天罰!」
「ひぃぃっ! お、お頭~」
『――≪リージェ≫が経験値117883を入手しました――』
『――≪リージェ≫のレベルが25になりました――』
妙にギラついた目つきの男達の歓待を受けた夜。
あちこち血の染みとか崩れた塀とか堀を見てここもモンスターの襲撃を受けたんですねぇ、大変でしたねぇなんて話しつつ。あれ、女子供が一人もいないの何でだろって言った途端に襲われたのだ。
俺は積極的に人間を殺そうとか思っていなかったけど、襲ってくるなら話は別。経験値にしてやんよ!
どうやらこの村も襲撃があって放棄され、そこにガラの悪いこいつらが棲みついたっぽい。
昼間はあっさりやられてたエミーリオも、一瞬にして間合いを詰め次々と賊を屠っていく。
いつ剣を抜いたのかもわからなかった。さすが、勇者になりたかっただけのことはある。
『武器を捨て投降するなら命までは取らぬ!』
一応勧告してみる。お頭と呼ばれていた男を喪って統率の取れていない賊は次々と平伏した。
エミーリオが武器を取り上げ、その辺にあった縄で縛り上げて回っている。
さすが聖竜様、このような者達であっても命を奪わないとはお優しいとか聞こえたけど無視。
『済まぬ、エミーリオ。考えなしに捕縛してしまった』
「大丈夫ですよ、聖竜様。この先にある街は商売で発展しております。当然、警備の者も多い。そこで引き渡しましょう」
規模が大きいから、モンスターの襲撃対策もしっかりされているらしい。放棄されれるような事態になれば王都へも連絡がいく。道中通った放棄された集落と違い、間違いなく街として機能しているらしい。
しかし、だな。エミーリオは脱走兵だろ?
国王に忠誠を誓った騎士が、辞めます、はいそうですか、で国を出れるわけないだろ。しかも人伝だし。きっと追手がかかっているんじゃ……?
こいつら引き渡す時にエミーリオが捕まるとかありそうでシャレにならん。
のほほんとしたエミーリオの根拠のない「大丈夫です」を何度も聞きながらとうとう街についてしまった。
エミーリオの顔を見た門兵が大慌てで誰かを呼びに行き、その間引き留められる。
ほら、言わんこっちゃない。
「大丈夫ですって」
ニコニコと笑うエミーリオの前に役人のような人が持ってきたのは、占いなんかでよく使われるイメージのまん丸の水晶。
そこから光が出たと思うと、おっとり国王の顔がドーン、と映し出された。プロジェクターみたい。
『やぁ、エミーリオ君。やっぱり聖竜殿についていってしまったんだねぇ』
「ええ、後の事は頼むとウェルナーに伝えてもらいました」
『馬鹿野郎! いきなり辞めるって言って飛び出していく奴があるか!』
ウェルナー君もいるようだ。手続きがどうのとギャンギャン喚いている声が聞こえる。
ほら、言わんこっちゃない。
おっとり国王はいつもどおりのほほんとした口調だけど、ウェルナー君激おこだよ?
『まぁ、飛び出しちゃったものは仕方ないよねぇ。ルシアちゃんも結界を張り終わってすぐにここを出たから、早めに合流してあげてね~』
「御意!」
えぇぇぇ?! 良いの?! 何のお咎めもなし!? おっとりにもほどがあるよ?!
国王と連絡を取り合えるのはこれで最後っぽい。さすがに他国に入っちゃえば連絡手段はないみたい。
どっかの王城に入って通信水晶を使わせてもらえるなら話は別らしいけど。
ルシアちゃんが元気に旅立ったってわかっただけでも一安心だ。
そのうち勇者とも合流できるだろう。
あの娘ラブな国王がルシアちゃんに護衛の一人もつけてないなんてことあるはずないし、俺はこのまま逆方向へ行くよ。
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