第11話 ん?

 救護院の状態もだいぶ落ち着いた。一晩寝かせたことでルシアちゃんも復活したし、後は任せて大丈夫だろう。

 てなわけで、治療はルシアちゃんに任せて今日は王城へ。



 迎えなど要らぬ! と空を飛んで行く。

 馬車に乗っていた時には見えなかった景色がはっきりと見える。


 俺達が逗留している宿のある南門付近の広場で合同葬儀が行われていた。

 何だか煌びやかな衣裳の男が祈りを捧げている。服装からして偉い奴だろう。

 葬儀を取り仕切るってことは教会の人間だろうが、救護院では一度も見たことが無い。

 街の人が俺に気付いて指さすもんだから、そいつも俺に気付いたようだ。目が合ったが、嫌な感じだった。ありゃ生臭坊主だな。

 ベ、と舌先を出してそのまま通り過ぎた。今は葬儀より王城だ。


 

 ごちゃごちゃとした迷路のような庶民居住区と違って、やはり貴族の居住区は一軒一軒の敷地が広い。よくわからない像がある家、ぴかぴかと目に痛い家、植物に覆われた家など実に個性的で面白い。

 貴族街を囲う柵の上で一休みしていたら門衛らしきおっさんがすっ飛んできたのでからかってやった。



 王城へ向かう前に、ぐるっと回って北門へ。

 北に面した防壁は所々壊れていて、完全に崩れ落ちてしまっている箇所もある。まぁ、昨夜俺が攻撃された場所なんだが。

 瓦礫についた血痕が痛々しい。


 北門の向こう側は遥か地平線まで草木一本も生えておらず、剥き出しの地面が続いている。

 改めて明るい場所で見ると凄まじい。よく俺無事だったなぁ……。

 もう爆発鶏にブレスを吐くのは絶対にやめようと決意したのであった。




「おぉぉ~い!」

「ん?」


 こっちに向かって手を振っているおっちゃんがいる。その声に俺の存在に気付いた周りの人々も皆して俺に向かって手を振り出す。

 俺はその集団の前に降り立った。



『復旧作業か。ご苦労』

「ありがとうございます。聖竜様もお元気そうで何よりです」


 おっちゃん達は今日は武装しておらず、布を頭に巻いたりツルハシを持ったりしている。

 周りを見ると、瓦礫を撤去する人、レンガを運んでくる人、積み上げている人など様々だ。

 そして、彼らを指揮している鎧姿の人物や、作業に参加はせず門の外側に一定間隔で並び立つ武装した人々がいる。彼らを指して尋ねた。


『あの者たちは?』

「ああ、彼らは王立騎士団の方々ですよ。作業している所を襲われたらひとたまりもないんで、ああして警戒してくれてるんです」


 手伝わないのか、と聞きたかったのだが、あれはあれで役割を果たしているらしい。

 ただ突っ立っているだけに見えるが、おかげで作業に集中できるなんて感謝の気持ちを言われた。


「そして、あそこで作業の指示を飛ばしているのは騎士団長のエミーリオ様」


 しかし、騎士団なんてあったのに、何で爆発鶏との戦闘で冒険者や住民が駆り出されていたんだ?

 疑問符を飛ばしまくっている俺に苦笑しながら教えてくれた。

 騎士団っていうのは、国王の号令で動く戦士の集まりで規律がとても厳しいのだと。国をモンスターの脅威や他国の侵略から守るために働いているのだそうだ。その給料は税金から国が支払い、働きによっては恩賞もあるらしい。

 爆発鶏の時も、戦闘に参加していたことはいたが、国の防衛の要である防壁や王族の警護が最優先だとかで、どうしても動き出しが遅くなるんだと。


 一方おっちゃん達冒険者というのは、ダンジョンで取れる素材やモンスター討伐、国家間を行き来する商隊の護衛などで生計を立てているそうで。国から生活を保障されない分、国に縛られることもない。ちょっとした入国税を支払うだけで出入り自由なんだと。

 だからモンスターの襲撃があった時は色々な縛りがない分いち早く駆け付けられる。爆発鶏の時は敵が強すぎて突破されそうだったから、住民も怪我人の移動や物資の搬送に駆り出されたそうだ。


 おっちゃん達は休憩時間なのか、更に教えてくれた。

 ここ、セントゥロという国のダンジョンは高難易度で有名で。それ目当てに多くの冒険者が集まり発展したらしい。

 聖女をダンジョンの最奥まで送迎することは冒険者にとって最高の栄誉らしく。最奥に行くために腕を磨くのだと。

 爆発鶏の騒ぎがなければ、おっちゃん達もレベル上げのためにダンジョンに潜ってたって。


『ん? 聖女はもうダンジョンから出てきたぞ?』

「それなんだよ。そうなると、次の聖女の代まで数十年単位で待たなきゃならんと思うだろ?」

「あのダンジョンはまだ生きていてな。どんどん成長を遂げて凶悪化している」



 ダンジョンコアを見つけ出してその成長を止めること。それができなくてもモンスターを間引きしてダンジョンから溢れてこないようにすること。

 それが冒険者たちの使命らしい。特に、ダンジョンコアは最奥に籠る聖女にすら見つけられないと来ている。ダンジョンコアを破壊すれば、聖女を送迎するどころじゃない栄誉となるだろう。

 と、口々に語るおっちゃん達。その様子は完全に熱に浮かされているとしか言いようがないくらい興奮していた。



『ふむ……俺様の推測では、歴代聖女はコアを見つけているぞ?』

「えっ? で、では何故破壊しないのです?」

「そうですよ! 破壊してしまえばダンジョンはただの洞窟。モンスターを生み出すこともなくなるってのに」


 おっちゃん達が俺の推測に食いつく。

 たぶんだが、と前置きして。


『コアはな、最奥の神殿。女神が眠るとされるその場所に祀られている女神像だ。聖女には壊せんだろうよ。あれを壊せるのは女神への信仰心薄い者だけだ』


 聖女になるくらい信仰心厚い者に女神像を破壊することはできないだろう。ましてやそれは、女神が眠るとされるもの。女神そのものなのだ。

 仮に壊して、コアじゃありませんでした、なんてなったら大変だ。

 あのダンジョンを創ったのは暗黒破壊神だと言うが、なかなかいい性格をしているようだ。

 まぁ、俺なら壊せるけどな!


 俺がダンジョンコアの場所を伝えると、おっちゃん達はがっくりと肩を落としてしまった。


『今、女神は目覚めている。聖女が覚醒したのがその証拠であろう。であるならば、眠りにつく前に変わりの水晶か何かを用意していけば壊した所で許してくれるのではないか? 次の代の聖女がたどり着けなくなる前に、対処する必要があると思うぞ?』


 落ち込むおっちゃん達があまりにも見苦し……げふんげふん。可哀想に思ってそう伝えると、やる気に満ちていた。そうそう、その前に北門を修復しないとな。

 頑張れよ、と声をかけて俺は王城へと向かうのだった。

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