曲がり角のツユクサ
あの角を曲がると普段出会えない奇跡に遭遇する。
両手を握って貰ってぶら下がりながら笑う子どもだとか、
少し歩いた先にある公園の砂場で作ったお城だとか、
空腹に苛まれてたどり着いたできたての味噌ラーメンだとか、
下を見てたら電柱にぶつかって見上げた時に見えた飛行機雲だとか、
肌を照り付ける太陽の下に佇む屋根のついたバス停だとか、
屋台でもない移動販売で買った水浸しのラムネだとか、
幼いころに仲良しだったおばあちゃんの住んでた家の庭に生い茂るツユクサだとか、
生まれて生きてきた時間を全部食べて生きるあのツユクサは
君が生きてきた言葉を辿って僕を此処まで運んできたんだ。
白線の上でしか生きられない時間も
六畳間の暗闇に星を灯して見上げた時間も
定期券の向こうへ行きたがって悔しがった時間も
テスト用紙の裏側に描いた紫陽花をブロッコリーと笑った時間も
あの曲がり角の先に芽吹くツユクサが全部巻き戻す。
遠ざかる君を必死に追いかけて振り払うように拭った汗、
僕の一歩の何千倍もの一歩を繰り返しながら君は窓越しに僕をただ見つめ続けて
二人は否応なく離れていく。
どんなに遠くても観測を止めず応答を止めずに居る人工衛星のような僕らの生命と
呼応する二人の言葉が信号になっていつか、ツユクサの花弁の様な鮮やかな青色をたたえて繋がって。
ただ互いのぬくもりが10cmを越えずに居たことを
何も言わないあの角がずっと憶えている。
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