第8話
「えっぐ。ぐずっ。」
アミティちゃんは僕の隣で号泣していた。犯人は僕ではないと身の潔白を主張しておこう。犯人はアーラさんである。
村の人達に挨拶を終えて教会にやってきたアミティちゃんは、森に勝手に入った件についてアーラさんにカミナリを落とされたのだ。
見てるこっちが「その辺にした方が……」と思うくらいの怒涛のお叱りだった。
「それだけアーラさんも心配してたってことだよ。」
「それはぁ、分がっでるけどぉ。うぅ、怖がっだのぉ。」
アミティちゃんは僕のかけた言葉にヒックヒックと泣きながら答えた。
アミティちゃんが目を手で拭うそばから次から次に涙が溢れる。
それも仕方のない話だ。僕でもあの剣幕で怒られたとしたら声をあげて泣いてしまう自信がある。
しかし母親には優しくしてはいけない時もあるのだろう。悪いことをしたら怒らなくてはいけない。そこら辺がちゃんとしているのは、アミティちゃんを見ていてもわかる。
母親からといえば、アーラさんは人間でアミティちゃん獣人だ。異世界ではよくあることなのだろうか。こういう問題は地雷を誤爆させてしまうことが多いので突っ込むにも突っ込めない。
「ここら辺でいいでしょう。」
アーラさんは村の端までやってくると何もない地面を足の裏でずりずりと撫でた。
そしてつぎの瞬間地面がボワンと光ったかと思うと村人達が出入りしていたシェルターの石バージョンが目の前に現れた。
は?は?は?
「はああぁ!?なんだぁこれ!?」
流石に今回ばかりは僕も絶叫した。
は?なんなんだこれは。
周りを見ると、ローガンさんは僕を見て爆笑してるし、アミティちゃんは驚いている僕を充血して潤んだ瞳で見上げて首を傾げていた。
突如現れたシェルターに疑問はないようだ。
そしてアーラさんは僕から顔を背けて手で口元を覆っていた。一体どうしたんだろうか。
よく見ると体が小刻みに震えている?押し殺し切れなかった笑い声が僕の耳まで届いた。
「これはっ、家を建て、建てる時のい、一般的な魔法ですっ。ふふふっ。すいません。笑いが堪えられなくてっ。ぷっ。ふふふ」
話している最中も堪え切れないといった様子で度々笑いが吹き出した。
髪の間から覗く耳と、手で隠されていない頰の部分は赤く上気していて、笑いの間で酸欠のように荒い呼吸音が聴こえる。
これは明らかに確信犯である。ローガンさんもアーラさんも僕の反応を十二分に楽しんでくれたらしい。
「変態さん、急におっきな声出してどうしたの?びっくりしちゃったよぉ。
それにママも何笑ってるの?」
「な、なんでもありませんよアミティ。ふふ。」
僕の大声に驚いて涙も引っ込んでキョトンとしているアミティちゃんの疑問に、アーラさんは息も絶え絶えに答えた。
僕の味方はアミティちゃんだけだよ……。これでアミティちゃんにも笑われていたならば、アミティちゃんに代わって僕が号泣してしまうところだった。
アーラさんは深呼吸を何度も繰り返して息を整えようとしているらしい。
「いやぁ~すげぇ声だったな。後ろの村の奴らも何人か足を止めておめぇさんのこと見てたぜ。」
ローガンさんは僕を笑っていることをぼく本人に隠そうともしない。
「本気でビックリしましたよ。心臓が止まってたらどうしてくれるんですか。」
「いやぁ悪い悪い。つっても俺もいきなりするとは思ってなくてな。こりゃ姐さんがワリーや。」
「ふぅ。すいません。タローさんが魔法を見慣れていないということを#すっかり忘れていました。__・・・・・・・・・・・__#」
ようやく息が整ったらしいアーラさんはようやくこちらを向いた。ほおはまだわずかに赤らんでいる。
白々しいことを言い出したが、本当なのか疑わしいことである。僕は胡散臭そうに彼女を見た。
「ママ顔あかーい。」
アミティちゃんがぴょんぴょんと跳ねながら、アーラさんのほっぺたをツンツンと突いて楽しげに笑っていた。ってジャンプりょく凄すぎだろ!アミティちゃんの身長はアーラさんの腰より少し上くらいだというのに。明らかに幼女の跳躍力ではなかった。さすが獣人ということだろうか。もしくは魔法か何かなのかもしれない。
そんなアミティちゃんをアーラさんはペシっと叩いて地面に足をつけさせた。
「ぶー。」とアミティちゃんから不満の声が漏れるとアーラさんはキッとアミティちゃんを睨む。
アミティちゃんはそっぽを向いて知らんぷりを決め込んだ。大物である。
「んん。村の中で見たと思いますがこれがこの世界での一般的な居住の一つです。
本当は金属性で、地下も作るのですが、金属を使うと少し時間がかかりますからね。
家ひとつ分の金属も今村にはないと思いますし……当分はこれで我慢してください。」
「え?ってことはこれって僕の家なんですか?」
「ええ。それ以外に誰の家だと思ったんですか?」
確かに家を作るとしたら、ホームレスなのは僕だけである。
「僕は、この村に住んでいいんですか?」
こんな魔法も使えない僕が。
「言い忘れていましたが私はこの村でシスターのようなものをやっていまして。迷える仔羊を導くことは当たり前のことなのです。
それに、困っている人を見捨てるような人はこの村には居ませんから。」
「おう。食うに困ってるわけでもねぇしな。ま、自分にできることはおいおい探していきゃあいいだろ。気長にしてろよ。」
「もー。変態さんにはわたしがいるからだいじょーぶって言ったでしょー。」
3人ともぼくに温かい言葉をかけてくれる。
「お世話に、なります。」
僕は涙を堪えながら深く、深く頭を下げて下げた。
「ええ。こちらこそ。」「よろしく頼むぜ。」「よろしくー。」
顔を上げればみんなが僕に笑顔を向けてくれていた。
「それでは色々とあって疲れているでしょうからまた明日、朝に起こしにきますね。村のことを説明したいですから。」
「はいはい!じゃあわたしが変態さんを起こしに来てあげる!」
「じゃあアミティ、頼みましたよ。」
「うん!また明日ねー変態さん!」
僕を迎えに来てくれる役にアミティちゃんが立候補してくれた。それだけで僕は感無量である。
「また明日ね、アミティちゃん。他の皆さんもそれじゃあ。」
僕が手を振って別れを告げるとアーラさんは会釈をして、ローガンさんは手を振り返してくれた。
アミティちゃんは後ろ向きに歩きながらぶんぶんと腕が取れるんじゃないかと心配になるくらいに手を振っている。またアーラさんに怒られなければいいが。
「アミティ。」
とアーラさんがボソっと言うだけでアミティちゃんはくるりと前を向いて気をつけをした。そのやりとりを後ろから眺めて僕は笑う。
僕は家の中に入ると渡された毛布に潜り込んだ。
現代人としては、布団の中でスマフォをぽちぽちするのが日常であった為直ぐに寝れるか不安だったのだが、アーラさんの言う通り疲れが溜まっていたようだ。
横になった瞬間から瞼が急激に重みを増して、僕は心地よい
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