2Die6Life
鰍
第-3章神様は味方してくれない。
-3.1プロローグ
-3.1
少年は弱い。
弱いくせに正義感が強く、守りたいものを精一杯守ろうとした。
転んでも、何度でも立ち上がり自分なりの正義を守ろうとした。
しかし、守れなかった 、少年は奪われることしかできなかった。
理不尽な現実を見た少年は眺めるだけで体も思考も動こうとはせず、ただぼーっと現実を傍観している。
結果、少年は人の形を型どった器だけを残して何もかも失った。
少年は恨んだ、この理不尽な世界を、弱い自分を。
少年は弱い自分を鎖で拘束し、薄暗い檻に閉じ込め反省をした。
何がいけなかった?
弱い。
無力。
存在。
強くなるには今の自分は枷同然だ。
強くなるには大事なものは邪魔になる。
強くなるには強者を喰らうしかない。
強くなるには弱いものは不要だ。
少年は刀を持ち強い者を喰った。
喰って喰って喰いまくった。
いつしか少年の体に黒いモヤの様な物がまとわりつき、額から黒い角が突き出す。
髪は腰まで伸び、全身の皮膚は甲殻の様なものに覆われ、爪は鋭く伸び少年の姿は人の形などどこえやら。
────そして人々に鬼と恐れられた。
雨上がりの空 雲の隙間から光が鬼を指す。その光は鬼を通り越し足元の水溜まりを輝かせる。
鬼はその水溜まりを覗くと弱かった頃の少年ではなく、怒りに満ちた顔の鬼でもなく、
悲しい顔をした鬼がいた。
少年は鬼に聞いてみた。
強くなれた感想は?
…………………何か…違う……。
纏わりついてた影が消え、鬼の顔の横を1粒の涙が肌を滑る。
するとそこに、
少年の前に現れたのは縮こまって泣きべそをかく幼い子供だ。
「人鬼発見!」
騎士達がそう叫ぶと少年の視界に映っていた子供は霧のように消える。
瞬時に敵と認識した鬼の周りに再び影がかかる。鬼はは腰に掛けてある刀を抜く。
────刹那、騎士達は首から血を流し倒れ、立っているのは首の横に剣を構えた少女とその少女の首に刀を突きつけた鬼だけだった。
油断していたとはいえ、少女は初めて攻撃を受け止め、全身に骨が軋むような鈍い衝撃を伝える。
重い、初めて受け止めた斬撃の感想はそれだけだ。
鬼はすかさず斬撃を繰り出し、勝負は瞬く間に終わってしまう。
得物を弾かれ腰をつき倒れたのは鬼だ。少女は鬼に剣を向ける事なく鞘に納めると鬼は叫ぶ。
「なぜ殺さない!俺はお前に負けた!弱者は強者に蹂躙され、殺され、全てを奪われる。それがこの世の……!」
「私は貴方を殺さない。貴方は私を殺せない。それに、こんなのに勝って得られるのなんて虚しさだけよ」
少女が背を向けると鬼は胸に仕込んだ短刀を無防備な少女の首に刃をたてる。
「なぜ動かない」
「貴方は私を殺せない。だって、貴方は優しいもの」
少女はすぅっと鬼の涙を拭う。
「この雫が何よりもの証拠よ」
瞬間、鬼の周りにあった影と共に少年に宿った鬼が剥がれ、舞い散る花弁のように少年から剥離した。
鬼の姿ではなくなったとはいえ鬼として過ごしてきた数年間は少年の身体にちゃんと歳月が刻まれてたせいか、少年の面影を僅かに残し、成長した立派な青年になっていた。
「貴方が今まで何人殺めてきたかなんて私は知らない。でも貴方が変われる人だということを私は知っている、信じてる。………ふぅ。もしもぉ、仮にまだ罪を重ねそうになった時はぁ…………」
少女はポッケからペンとメモを取り出し幼児が書いたような地図を青年に渡す。
そして、「いつもここにいるから」と青年に告げると少女は歩いて荒野を去っていった。
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