第49話

 邪教の信徒の隠れ家、その最奥にあった悪趣味極まる小部屋。

 部屋を出たクラマ達は別の部屋に移って、パフィーが落ち着くまでしばらくそこで待機した。



> クラマ 運量:9200 → 9222/10000(+22)

> クラマ 心量:187 → 182(-5)

> イエニア心量:473 → 452/500(-21)

> パフィー心量:247 → 210/500(-37)

> レイフ 心量:400 → 372/500(-28)

> イクス 心量:395 → 392/500(-3)



「パフィー、本当に大丈夫?」


「ええ! 心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ」


 そうして気を取り直した一行は探索を再開した。

 探索を終えた隠し部屋から出て、通常の地下4階へ。

 そこから先は地道に足で探していくことになった。




「……いやあ、なかなか見つからないねえ」


 しかしそう簡単にはトゥニスの足跡は見つけられなかった。

 探索を始める前に行ったクラマの運量サーチで、この階層をくまなく探せばトゥニスを発見できることは分かっている。

 クラマ達はそれを信じて、ひたすら探索を続けた。


 残っているいくつもの罠を回避して、遭遇そうぐうする様々な獣を撃退し、何度も休憩を挟みつつ進んでいく。

 途中で地下5階への階段も発見したが、スルーして4階の探索に戻った。



> クラマ 運量:9222 → 8344/10000(-878)

> クラマ 心量:182 → 129(-53)

> イエニア心量:452 → 390/500(-62)

> パフィー心量:210 → 169/500(-41)

> レイフ 心量:372 → 314/500(-58)

> イクス 心量:392 → 339/500(-53)



 やがてクラマ達は、以前に見た爪トカゲ生産プールの近くに来る。

 そこで当てのない探索に変化が訪れた。


「ねえ、なんだかこのあたり罠が多くない?」


 レイフの指摘。

 彼女の言う通り、この付近に来てから罠の量が急激に増えた。

 先頭のクラマは長棒で罠を探りながら答える。


「そうだね。明らかに罠が密集してる」


「という事はつまり……」


「うん。この近くにいる可能性が高い。気をつけて行こう」


 クラマの言葉に3人は頷いた。

 一同は警戒を強めて通路を進む。



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 その様子をワイトピートはモニター越しに眺めていた。

 ニィッとワイトピートの口の端が歪む。


「フフ……とうとうここまで来たか。もう目と鼻の先だね」


 ここは施設内をモニターできる監視室。

 爪トカゲ生産プールが隣にあるので食料には不自由せず、なおかつ扉は生体認証が必要なので獣や冒険者に襲われる心配もない。隠れるにはうってつけの場所だった。

 そこでモニターを眺めて笑みを浮かべるワイトピートに、部屋にいるトゥニスが話しかける。


「なぜヒウゥースの追っ手よりあいつらが先に来るんだ。お前、ヒウゥースの追っ手が来るからここも長くもたないと言っていたじゃないか」


 トゥニスの言う通り、ワイトピートはここに来た当初そう言っていた。

 ヒウゥースはダンジョン内の完全な地図を所持しており、中の仕掛けも熟知じゅくちしている。すぐに隠れ場所はあばかれる……はずであった。

 トゥニスの指摘に対して、ワイトピートは両手を広げて肩をすくめた。


「さて、なぜだろうか。想像はできないこともないが、分かったところでどうにもなるまい。かいなき妄想もうそうよりも今は、来客の応対について考えようではないか」


「そうだな……どのみち追っ手が来たら、こいつらがいる限り逃げられない」


 そう言ってトゥニスが横目でちらりと見た先。

 10日前から一向に容態ようだいの良くならない死にかけの2人が、毛布にくるまって苦しげにうなっていた。

 クラマに殺されかけた2人の男。

 彼らは魔法使いをようしていないため、治癒ちゆうながすこともできない。

 以前トゥニスが話した通り、この2人がワイトピート達にとっての大きな足枷あしかせとなっていた。


「なに、この場所を選んだのはモニターで監視できるという理由だけではない。ここから裏道を通って、近付いて来る者達の背後を取れるからさ。きみにはその役を頼もう。私はここで彼らを出迎える」


「分かった。あの双剣の男が来ていないのなら、それで何とかなるだろう」


「うむ。念のため、これも持っていきたまえ」


 ワイトピートはブローチつきのマントをトゥニスに手渡した。


「これは?」


「自分の出す音を少なくする魔法具さ。奇襲がしやすくなるだろう」


「他にもいろいろ溜め込んでそうだな」


「はは! それはそうさ。冒険者から奪った品はヒウゥースにゆずることになってはいたが……そんな向こうばっかり得をするルールをわざわざ守ってやることはない。もっとも、今まではほとんど使えなかったがね」


 ワイトピートらは冒険者を襲う際には救助隊の装備をしていなければならず、襲撃時に持っていけるものは限られていた。

 そして、魔法は使用すると近くの人間に感知されてしまう。

 感知されないほどの遠くから使用していても効果が持続し、なおかつ救助隊の装備の中に忍び込ませられる魔法具というと……残念ながら今まで冒険者から奪ったものの中で、そんな都合の良いものはなかった。


 しかし、ワイトピートにとってはそこは大した問題ではなかった。

 かつて帝国軍特殊部隊に所属していた彼は、対魔法戦闘を心得こころえている。

 彼にとって戦闘における魔法とは大規模戦で行使されるものであって、少数戦闘の場で戦局を左右するものではなかった。

 特に奇襲する側にとっては、全く恐れるものではない。

 彼自身は魔法使いではないが、詠唱を聞けばある程度の効果を予測することができる。そのように訓練を受けている。

 奇襲が成功すれば、相手が詠唱できるのはせいぜい一度きり。

 奇襲を許し、パーティーが半ば崩れた状態では、魔法の一発で形勢逆転することは難しい。

 なぜなら、ワイトピートが詠唱から魔法の効果を予測できるからだ。

 さらには奇襲が成功したという前提ならば、負傷した相手の仲間を盾に使うこともできる。

 ゆえに魔法は逆転の一手にならない。


 ……以上の理論を実践し、ワイトピートはこれまでにあらゆる冒険者を狩ってきた。

 しかし仮に、少数戦で奇襲される側が魔法を効果的に使えるとしたら……仮に、奇襲が通用せず、さらにワイトピートの追撃も完璧にしのげる優秀な前衛がいたら……?


 すなわちそれが、クラマ達のパーティーだった。


 とはいえ、これだけ条件がそろっていたクラマ達でさえ敗北したのだ。

 自らは魔法を用いずに、魔法使いを倒す。

 ワイトピートはその方法を確立していた。


「フフ……しかしこの私が、魔法具を使って戦う時が来るとはね。ははは、よりどりみどりだ! 年甲斐としがいもなく心がおどるね」


 いくつもの魔法具を手にして、子供のようにはしゃぐワイトピート。

 その様子を見てトゥニスはため息をついた。


「私はもう行くぞ。遊んでいないでお前も準備しろ」


 そう言って彼女はクラマ達の背後をとるべく裏道への扉をくぐって行った。

 トゥニスの足音が段々と離れていき……やがて聞こえなくなる。

 それからしばらく経ってから、ワイトピートは静かにひとりごちた。


「そうだね。では、私も準備を始めるか……」


 そうして、ワイトピートは床の上で苦しみにあえぐ2人の部下に目を向けた。



----------------------------------------


> クラマ 運量:8344 → 8219/10000(-125)



 いくつもの罠を抜けた先に、その扉はあった。

 壁面とあまり変わらぬ、白と緑のサイバーチックな扉。

 取っ手はない。ドアノブもない。

 クラマは骨鍵を取り出した。

 扉を開ける前に、背後の仲間たちを見る。

 イエニア、パフィー、レイフ。

 クラマの視線に対して、彼女たちは一様に頷き返した。

 扉に向き直ったクラマは、そっと扉に骨をあてた。

 固唾かたずを飲んで見守る一同。


 そして扉は開かれた。


 開いた扉の先から光が漏れる。

 中からホールのような大部屋が姿を現した。

 その、入口から向かってまっすぐ正面に、男はいた。


 ワイトピート。


「ようこそ! よく来たね諸君、歓迎しよう!」


 心の底から嬉しそうな声が響き渡った。

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