これといった特徴もない一介の少年が人魚にされた女王を助ける話。

七条ミル

第0話

 街には国の色が出る。この国の「色」、それは女王が異様なまでに国民に近いことである。街の人々はそうやって自分たちに接してくれる女王を無条件に信頼する。

 無条件に信頼、というと何か裏で悪いことをしているのか、と思われることもあるが、別にそういうわけではない。いわば、非の打ち所のない女王なのである。

 たとえば、毎日市場で働いている者たちの名前を女王は覚えているし、市場で働く人たちは女王の命により、「エマ姐さん」などと呼ばされている(女王と近しいから本人たちはもっぱら上機嫌だが。)だとか、時々居酒屋で酒を飲むこともある。とにかく、街の人間に極限まで近づこうと努力する、とてもいい女王なのである。

 ただし、そんな女王を疎ましく思う人間も少なからず居るものである。具体的に言えば闇市の人間たちだが、「幼女を売っているところ」を見られれば確実に闇市はつぶされる。闇市の人間たちはとても女王を疎ましく思っていた。

 ただし、それは本当に一部の人間である。国の大半の人間は女王が大好きであった。

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