兵器娘と戦火の街
KAZIKI-CGC
第1章 狂気の居場所
第1話 転生---最初の日
……………
遠くで爆音が響く。人々の叫び声も聞こえる。
それは恐怖の音。命が失われる音。だがそれを、私は子守歌のように聞いていた。
目を開く。入ってきたのは、生まれて初めての光。それは重く、薄暗かった。
徐々にぼやけが少なくなってくる。見えた景色は……
崩れた建物と黒煙、そして散らばっている屍。
私は破壊されきった沢山のモノに、囲まれていた。
--------兵器娘と戦火の街--------
私はSU-122-44。ソ連のT-44戦車の車体を流用した対戦車自走砲計画。
従来の対戦車自走砲と同じような形状で、正式化が少しずつ進んでいた。
しかし、車体後部に戦闘室を設けるタイプの計画に妨害され、不採用となった。
私はこの世に出る事は許されなかったのだ。
だが………
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視線を下に傾ける。そこには直径15cm程の筒がある。とても片手では持ち切れないような大きさだが、それに触れ、掴むとすぅっと吸い付くような感覚があり、軽々と持ちあげる事が出来た。
筒の先端にはマズルブレーキと呼ばれるものがつけられている。その形状を見て私は察した。これは私に装備される予定だった122mm砲だと。
まず立ち上がる事にした。そして歩き出す。
ここは何処だ。何が起きているのか。私は何故人の形をしているのか。それを知るため、動き出す。
暗い路地を歩く。近辺の建物は酷く破壊されており、砲弾が命中していると思われる崩れ方をしていたものもあった。
ふと、私は足を止めた。
そこは廃墟と化したビル。ガラス張りの自動ドアに、私の身体が映っていた。その姿に私自身驚愕せざるを得なかった。
…少女だったからだ。
自動ドアに近づく。勿論開く事はない。
鏡のように映った己の容姿を確認する。
…濃い灰色の髪。首の真ん中あたりまでの長さをしている。右側頭部には赤く、長いリボンが下がっている。
後ろ姿を確認すると首の後ろだけ腰までの長さがあり、これまた赤いリボンをつけていた。これについて好き嫌いを感じる事はなかった。
顔だちは…よく分からない。青色でつり上がった眼くらいしか判断がつかない。
身体は…普通の女のようだ。少し細いがそれらしい体つきをしている。年齢はこれまたよく分からないが、少なくとも20は行っていないと思われる。
服は長袖のポロシャツと太ももの真ん中あたりまでの丈の緑色のスカート。黒の膝上まである靴下と灰色のブーツを履いていた。
また、これらの上から胸甲と幾らかの装甲と思われる板を装備している。左腕は特に重装だった。あとは腰に黒いポーチがあるくらいだろうか?
…派手ではない。これくらいで丁度いいのだろう。
さて…問題はこの砲だ。外見は122mm砲でも今持っている砲の口径は明らかに122mmを下回っている。そのうえ弾薬を持っている訳でもない。
ふと自分の手を見た。そして何となく念じると…そこに丁度いい大きさの砲弾が生成された。驚いた…こういう形で砲弾を取り出せるとは。
弾数の類はあるのだろうかという心配もあったが今はいい。砲弾をよく見ると「122mm AP UBR-471」とある。そう、この砲に対応する砲弾の一つだった。大きさこそ縮小されているがモノは間違いなく配備される予定だった物だ。
別の砲弾…榴弾を出せないかと念じてみる。すると数秒かけて持っていたものが消え、若干形状の違う砲弾が出てきた。「122mm HE UOF-471」、ああ、なるほど。榴弾だ。
何度か繰り返してみて、持っているのは「徹甲弾」「硬芯徹甲弾」「榴弾」「煙幕弾」の四つである事がわかった。
試射は流石に出来ない…いや、する必要がある。どこかのタイミングでそれをするか。この砲を使用する機会が来る前に。
最初に居た所から離れ数時間は歩き回っていただろうか、空はとても暗くなっていた。だが、そのうちに比較的人の営みが盛んな場所にたどり着く事ができた。文字はロシア語で、私はそれを容易に読めた。
…が、言語を意識して初めて気づいた事がある。何故か思考している時に使っている言語は日本語なのだ。縁もゆかりもない地の言葉が扱えている事に異様な違和感を感じた。
私はソ連の産まれだ。なのに何故日本語を……?
しかし当然ではあるが答えはわからない。不便はないから今は考えない事にした。
さて、路頭では商人らしき人達が座り込んでおり、色々な物を売っている。貨幣での取引ではなく、物々交換による取引が盛んのようだ。
それを見て、ふと私は腰につけているポーチに意識が向いた。割と重量はある。
開いてみたところ、あるのは以下の通りだった。
・救急キット
・高カロリー糧食十食分
・水筒
・簡素な工具
・黒い布の袋
…これだけだった。貨幣などはなく、将来的には何かしらの資産が必要だろうと感じた。
黒い袋は非常に縦長であり、先端をヒモで縛れるようになっていた。砲を隠すためだろうと察して入れてみると丁度いい大きさであり、これからはこれに入れて持ち運ぶことにした。
特に今はやる事も無い…家を失った人々が集まっているビルがあり、その建物の傍でホームレスに混じって座り込む。一息つくと、急に空腹を覚えた。
ポーチから食料を取り出し、それの袋を開ける。出てきたのは棒状のクッキー…かじってみると強烈な甘さとバターの味が口の中いっぱいに広がる。
高カロリーと書かれているだけあり、脂っこい上くどい甘さがある。なるほど、一本食べるだけで腹も膨れる訳だ。
水筒にはあらかじめ水が入っており、それと一緒に胃に流し込む。平らげると確かに空腹感は消え、当分何も食べたくない感じがした。
…初の食事がこれとはな。まぁいい物が食べられるとは思っていなかったが。
しばらく人の流れを眺めているうち、軍装をしている四人の集団が見えた。結構長い事見ていたが軍人は初めてだ。辺りを見回しながら歩いている。
…一人と目が合った。何故か奴らを見ていて良い気はしない。
その一人は仲間と何か話をしていて…こっちに向かってきた。
「…なんだ貴様らは」
これが私の初めて出した声だった。音程は低めではあるが間違いなく少女のものだ。
それに軍人たちのリーダーと思われる人が反応する。
「よう嬢ちゃん、いいものやるから俺らと遊ばね?」
…下手な勧誘だな。人と会話するのも初めての私でもわかる。
「私とか?何をしたいんだ」
「そりゃいいことよ」
「いいこと…か。じゃあ何をくれるんだ?先にそれを貰えるなら行ってみてもいいが」
何の気なしにそう言ってみたところ、こいつらは欲望の顔をした。本当に何がしたいんだ?
「残念ながら今は持ってないんだな、すぐ近くに詰所があるからそこまで来てくれたらすぐわかる。食料や衣服、色々あるぞ」
…手を顎にやり少し考え込む。今は大丈夫でも数日もしたら食料事情を考えねばならない。それに衣服も今着ているもの以外無い、甘い誘惑ではあるが見るだけ見てもいいかもしれないと思った。
それに……私の今の力も試せるかもしれない。
「わかった、行ってみようじゃないか」
砲の入った袋をかつぎ、立ち上がってそう言った。
道中色々と話をされたが、適当にあしらった。
しばらく歩き、ついた所は人気のない廃墟。中は暗い。…背後に二人回っているのを気にかけつつそこに入る。
すると案の定背後のドアが閉まり、鍵をかけられた音がした。そこで私は足を止める。
先頭を歩いていたリーダーがしばし先まで歩き、こちらに振り返る。
「へっ、引っかかってくれるとはありがてぇなぁ、嬢ちゃんよぉ!」
…そうだった。私は少女なのだ。少し考えればすぐ理解できる、独りでいる少女を襲おうとする奴が居るのは当たり前の事だ。
「………」
袋から砲を取り出す。それを見て相手はおっと、と言いすぐ仲間に号令をかけた。痛めつけろ、と。
…リーダーの横にいた奴が鉄パイプを持ちこちらに殴りかかってきた。それに対して私が反射的に取った行動は…
装填などせず、装填機構の部分を持ち砲を下段に構え、おおきく振りかぶり、突っ込んできたタイミングで頭をぶん殴った。
敵は吹っ飛ばない。頭にマズルブレーキが陥没し、その勢いのまま地面に叩きつけた。頭と一緒に身体ごともっていった。
地面を見ると見事に鮮血が飛び散っていた。もう一度振りかぶり、叩き込む。すると頭がぱっくりと割れ、ゆるりと脳漿が出てくる。
…その時、何故か笑いが込み上げてきた。顔を下に向けたまま前を見ると、リーダーが青い顔をしている。こちらを見てさらに表情に恐怖が浮かんだのがわかった…
すぐに背後に向きなおり、二人のほうへ走り込む。近い方は腹を殴りぶっ飛ばし、もう片方に間髪入れず先ほどと同様に頭を叩き割った。
敵は動けない…この様相を見てしまったのだから。
腹を殴られたほうはその場でゲロっている。それを見てまたリーダーのほうへと歩みを進める。
変な声を出して後ろに下がってゆく…構わず追いかける。壁まで追い詰めた所…奴は拳銃を取り出した。
「うわあああああぁぁぁぁぁ!?」
リーダーは叫び、銃口をこちらに向けた。
しかしそれに恐れる事など無かった。たかが拳銃…私が元々戦車を流用した対戦車自走砲であるという事を奴は知らない。冷静に左腕についている大きな装甲板を向け、かがんだ。
すぐに銃声とカァンカァンという銃弾が跳弾される音が聞こえる。六発が撃ち込まれ…弾切れになったようだった。
その中で私は徹甲弾を取り出し…生成し、のほうが近いか?まぁいいとにかくそれを持ち、装填した。ガシャンという音とともに底が閉じる。
さて、立ち上がりリーダーを見る。弾倉が空になったのに気づかないのか、まだ引き金を引いている。
……さて、初の砲撃といくか。
「…死ね」
血塗れの砲の先端を向けられた敵は、最後の時に何を思うのだろうか。
ズドォンという音とともに砲が大きく後退する。手が滑る…が、離れる事は無い。これは駐退機の役割をしているようだ。
…しばらくして煙が晴れる。崩れた壁に赤い華が咲いていた。
「…はっ、はははっ!あはははははッ!!」
笑いが止まらなかった。楽しい。人を殺すことが、楽しい。計画案でとどまり、生み出されることがなかった私は、こうして人を殺す事に快感を覚えている!
身体が欲求を満たす。そうだ、私はこうするために生まれた!兵器は人を殺すためのものだ!この感情は何も間違っていない!
私は、人の形で生まれ、一日も経たないうちに自分の狂気に触れた。だが恐れる事はなかった。寧ろ、今はそれを謳歌してた。
ここは何処か。何が起きているのか。私は何故人の形をしているのか。
そんな事がもうどうでも良くなってしまった。
これからの生…焦がしていこうじゃないか!!
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さて ここまでの彼女の動きは明らかに「狂っているだけ」である。
ここから先どうなるのかは、次回からのお楽しみに。
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