桜散って、恋散って

モナムール

第1話

春の悲しさって何だろうってふと思う。

そうやって考えながら、

桜が舞う道を一人で歩いている。

彼女と出会ったのは去年の同じような春の季節のことだった。

ちょうどその頃の僕は大学生でのサークル活動に夢中になっていた。

彼女は容姿端麗で、おまけに頭脳明晰だったものだからサークル内だけでなく、学内では高嶺の花と噂されているくらいで、僕にとってはどこか遠い存在だった。

その日はみんなは早々に帰宅してしまった為に、偶々に僕と彼女の二人しかいなかった。

よく覚えているのだけど、その日は土砂降りで帰りたくないなあとか考えていると、ふと、彼女が苦しそうにしているのを見て、僕は慌てて大丈夫ですかと声をかける。

救急車を呼ぶか悩んだところで、彼女は小さな声で薬と何度も繰り返した。

僕は彼女の鞄から薬と、水を取り出して渡す。

「大丈夫かい」

と声をかけると彼女はゆっくりと深呼吸して弱々しい表情で、小さな桜色の唇を震わせながら、大丈夫、とまるで自分に言い聞かせるように繰り返すんだ。

僕はその日は彼女を駅まで送った。

それから僕たちの距離は近づいていったんだ。

一緒に食事に行ったり、映画を見に行ったり、とにかくいろいろなことを彼女と経験したんだ。


僕はいつのまにか彼女に溺れていのだし、また、彼女の方も僕に溺れていたのだと思う。



部屋に自然に彼女の靴とか、生活用品が増えていくこと、愛する彼女と抱き合うことの温もり、そういった彼女と、彼女に纏わるいろいろなことを知っていくにつれて、僕は彼女への愛を深めていった。


漠然とだけど、ずっとこのまま一緒だと思っていた。


でも、僕たちの別れの時は近かったんだ。

冬の寒さが遠ざかり、春が始まろうとする季節。

そこから桜散るまでの一か月近くの苦しみ抜いたことを思い出す。


僕たちは少しずつすれ違った。

僕たちは不器用で、想いをうまく伝えられなかったり、誤解したり、そうやって少しずつもどかしさは苛々に変わっていった。

僕たちは負の連鎖を断ち切れず、

互いを憎しみ合うまでになってしまった。


今までの愛の全てが憎しみへと変わり、

どうしたら不幸にできるのだろう、とか酷いことを一日中、考えていた。


でも、そういうのも疲れていって、僕らはいつのまにか精神的に、物理的に、距離が離れていって、もうどんな言葉も想いも、届かないくらいに遠くにいってしまった。僕も、彼女も。



春の悲しさは、

桜散ることなんだ。


春の悲しさは、

こんな形で恋が散ったことなんだ。


春風が吹き、僕は空を見上げる。遠くの何処かで電車が走る音が聞こえてきた。


空は薄く白い雲に覆われ、その下に広がっている騒がしくも、眩しい、東京。

ふと、終わった、と言葉にして、桜散る道の先を眺めれば、また、重たい身体に否応なしに別れを実感させられれば、涙が溢れて、僕は泣き崩れて。

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桜散って、恋散って モナムール @gmapyon

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