『ふぞろいなお線香』

やましん(テンパー)

  『ふぞろいなお線香』

 いま、お線香を、あなたが三本お供えしようとしていると、しましょう。


 一本が、ぐにゃっと曲がっていたら、やりにくくてしょうがないです。


 また、一本が、途中で折れたりしていると、これもまた、やりにくいし、いやですよね。


 そうしたものを、他の箱によけながら、何箱か使ってしまうと、あとには、曲がったり、ちぎれたりしたお線香が、残ります。


 つまり、ぼくは、その一本なのです。


 おまけに、ぼくは、曲がっているうえに、途中で折れてしまっています。


 いつ、燃やしてくれるのかなあ、と思いながら、外れものの小箱に収まったままなのでした。


 もう、5年くらいにはなるかと、思うのです。


 いやいや、10年だったかも、しれません。



 やがて、面倒見てくれていた、後継ぎさんが亡くなり、その奥さんは、もう滅多に来なくなり、ぼくたちは、ほったらかしになりました。




 ある晩のこと、何かがお空から降ってきました。


 それが、何だったのかは、ぼくたちにはわかりません。


 でも、おうちは一遍に燃えあがったのです。


 そこで、ぼくたちも、燃え上がりました。


 力の限り、燃えあがったのです!


 ぼくたちにだって、燃える力があるんだ!


 もう、これでもかあ! そう、いうくらい、必死で燃えました。




 そうして、燃え尽きたのです。



 とうとう、ぼくは、その使命を果たすことが出来ました。




 灰になって、あたりを見回すと、そこはとてつもない、広大な廃墟でした。


 人間は、その持てるすべてを、お線香にしてしまったようでした。



 でも、ぼくは、ちゃんと、役目を果たしたのですよね。


 そうなのでしょう?



     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  きっとね。













 




 



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 『ふぞろいなお線香』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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