訪問者達3
「だから、任せろつったろ?」
「流石ッス」
その停止した爆心地を眺めながら、アルハドはため息を溢す。タケナカが一帯が吹き飛ぶと言ったのは、アルハドとタケナカの持つ短期的な未来予知で、葛乃葉が介入する事により一帯が吹き飛ぶと判断しての事だ。
そして話をつけるというのは、今から本物の葛乃葉相手に交渉を持ちかける訳であるが…。
「オイ、起きろ」
パチン、と、指の音が響くと、ギギギ…と錆びた音を鳴らしそうなゆっくりさで、首を動かす葛乃葉。
「ッチ、アルハドかいな…怪我せんうちにコレとかんかい」
顔見知りの姿を見つけて、僅かに冷静さを取り戻した葛乃葉が、悪態をつきつつも僅かに殺気を収める。少なくとも真正面からなんの準備も無しにやりあって、勝てるとは思っていないのだろう。
「遭遇戦ならまだしも術中にハマった上で言われてもな?つーか、んなクソ威力の蹴りを町中で炸裂させりゃ、どうなるか分からない程マヌケな頭でもねぇだろうが」
「なら、何処ぞの荒野にでも其処のクソ売女とウチを送るんやな、その淫売は蹴潰さにゃ流石に気がすまへん」
「何があったか聞いた方がいいか?」
「何もクソもあらへん、ウチの顔して男に媚撒いて腰振っとるゴミを処分しよう思っただけの話や」
「実の母親に随分なものの言い草だな」
「殺すぞッ!?こんな娼婦崩れがウチの母親やと!?口からクソ垂れんのもええ加減にせえや!!こんな…っ…こんなッ!!!ゴミカス以下のタンカスがウチの…ッ!!っがあああああああああああああああッッッ!!!!!」
葛乃葉の周囲の空間が僅かに歪む、どうやら重力操作にて時空間に干渉して束縛から逃れようとしているが、中々上手く行かないらしい。
「驚いた、マジで多彩だな…タケナカと2人がかりで抑え込んでなかったらヤバかったぞ」
「ウス、というか兄貴気を抜くの早すぎッス、葛乃葉さん今兄貴が気抜いた瞬間狙ったッス」
「おう、俺の偉大さを噛み締めてくれ……ま、冗談は置いといてだ。葛乃葉、オメェも落ち着け、身内の恥を自分の力で濯ぎたいってのはスゲーよく分かる。俺も同族がクソみたいな事やらかしたら即殺しに行くからな?だが、コイツが今此処に居る理由を考えろ」
「理由やと!?んなもん社長の味見に決まっとるやろが!?」
「まぁ、9割はそうだろうが残りの1割は?」
「……ッチ、これからの事を語りに来たんとちゃう」
舌打ちをしながら、項垂れる葛乃葉。同時に一安心と肩を撫で下ろすアルハド。
「おう、そういうこったな、分かってんだったら態々俺に言わせんな」
「普通に来てりゃ文句も言わんわい、けどな、態々ウチの顔作って男にケツ振るようなクソ親、殴るな言うのがムリやろが」
「まぁ、そうッスね」
思わず同意するタケナカ。実際自分と同じ顔の別人が、好き勝手しているのはあまり気持ちの良い物では無いのも確かだろう。
「あー…顔さえどうにかなりゃいいのか?」
「なんかあるんか?」
「まぁ、持って2日だろうが…」
そう言って彼が取り出したのは、中国のかぶり面であった。
「…なんやそれ?」
「見ての通り中国かぶり面だが、内側にえげつない封印が施されてるっつー代物だ。前に俺を殺しに来たバカが被せようとしてきたが…まぁ数秒だけでも俺の力を封じる力はあったのは確認済みだ」
「えっ、被ったん?」
「んなもんで力封じれる筈ねーだろって余裕ブっこいて、自分から被ってちょっとピンチになってたッス、伊達に中国がアニキと同年代じゃないのを思い知らされてたッス」
「……一応バカでも正面から挑んでくるような勇者には、敬意を払うのが俺のポリシーだ」
「アンタも大概サービス精神旺盛やな…」
呆れ半分、通り越して尊敬半分の視線を飛ばす葛乃葉。なんやかんや、彼の王としての立ち振舞や、強者としての覚悟はそれなりに尊敬に値すると思っている。
「で、まぁコイツをこう……ババアに装着すると」
そう言いながら、停止した葛乃葉の母にかぶり面を装着させるアルハド。
「プッ…ククク、無様で中々ええなそれ」
笑いをこらえ切れず顔を背けながら笑う葛乃葉。どうやらツボに入ったらしい。
「だろ?まぁ、これで勘弁しとけや…そんじゃ、ちょっと戻すぞ」
そうして、世界が巻き戻る。
◆
「伏せろ!」
アルフォンソが防御用の魔法障壁を展開しながらしゃがみ、限界まで防御強度を高める。……だが、その破壊は何時までたっても訪れなかった。
「……あれ?」
薄っすら目を開くと、其処に居たのは座り込んでアルフォンソを覗き込む葛乃葉であった。
「堪忍、ちょっと頭に血が上ってたみたいやね」
普段のねっとりとした演技じみた口調ではなく、本心からの謝罪を見せて、頭を下げる葛乃葉。
「あ、ああ…なら安心だ。とりあえず傷の治療と……その服は着替えた方がいい」
「ん、せやね」
焼き付いた強化スーツを引きちぎり、全裸になりながら2階へと向かう葛乃葉の尻を見送った後振り返る。すると、今度はアルフォンソの視界に、被り面の葛乃葉が倒れているのが入った。
「アルハドさん、アレは?」
「おう、葛乃葉の母親らしい、面識は無いが見ての通りの大妖怪って感じだ」
「見ての……見ての通り?」
如何にもマヌケな感じで気絶しているが、他者を見下すアルハドであっても大妖怪と認める程なのだ、その実力は確かなのだろう。
「うス、真正面からだとアニキでもちょっとヤバイッス」
「フン、力技に持ち込ませなきゃ余裕だっての」
逆に言えば力技ならば負けると認めたような物ではあるが、特に気にした様子も見栄も貼らないあたり、彼女の実力は本物だと言う事だ。
「まぁ、とりあえずソファーに寝かせた方が良さそうだ」
そう言ってアルフォンソは立ち上がり、倒れた葛乃葉の母に近寄って体を抱き上げると、先程まで死んだように動かなかったその手がスルリとアルフォンソの顎を撫でた。
「あん、近くで見たらやっぱりええ男、ねーぇ?ウチとええことせえへん?」
「はいはい、そういう事は頭の取って魅了術式使わずに言って欲しいもんだね」
心配して損したとばかりに、ポーイと雑にソファーに投げるアルフォンソ。だが彼女はキャーと楽しそうに笑いながら、ボスンとソファーに落下してケタケタと笑い始める。
「クフフ、久々の人里やから、はしゃぎすぎたかもしれへんね?えらいすんまへん」
「ったくだ、年寄りの冷水火遊びとか見たくもねぇよ、後で楓にも謝っとけよババア」
「はいはい、血吸い妖怪さんも、えらいすんまへんでした。ウチの事助けてくれたんやろ?」
「テメェこそ、あの場で動けただろうが」
つまり、彼女は自分の意思であの被り物を被ったという事である。それなりに反省の色を見せたと言う意味でもあるのだろう。
「敢えて黙っててくれたんやね、アンタが後2000歳程若かったら、ベタ惚れしてたかもしれへんわぁ…ウチは娘と違ってロマンスグレーの気は無いさかい、ごめんな?年食って良かった数少ない事は、ウチに文句言う年上が居なくなったのと、誰抱いても年下や言う事やね、クフフ」
「色情魔のババアとかちょっと気分悪くなるッス…アルフォンソさん、こっち来て一緒にバッファローゲームするッス」
バッファローゲームとは、指で頭に角を作り、それで胸板を突いて乳首を当てるゲームである。無論、男同士でやる事は無い。
「所で、葛乃葉のお母さんは一体何しにこっちに来たんですか?」
アルフォンソが完全にタケナカを無視しながら話しを進めようとすると、いつの間にか目の前に居た葛乃葉母にトンと唇を突かれる。
「
「あー…ヤシロさんは何しに此処に?」
「そうそう!クロウちゃん言う子がチ○チ○デカイって狐の噂で聞いたから、味見しに来たんよ!」
その瞬間、スパァン!ときれいな足払いがヤシロに入り、横腹をしたたかに地面に打ち付けられた。
「クソババアが」
「あー…葛乃葉さん?」
「はーい!貴方の葛乃葉ヤシロやでぇ?」
「……楓さん」
「そっちのババアが発情するからそれで。それに、何も今更名前読んだぐらいで気ぃ悪したりせぇへんよ」
「あん、ウチに似て気の多い子に育っ…ゴフッ!?」
ドゴォ!と葛乃葉の蹴りがヤシロの腹部に入る。実の親に対して加減成しの蹴りである。
「ちったぁ黙らんかいクソボケェ!話し一向に進まんやろがい!!」
「あーん、怖いわぁ、かんにんしておくれやすぅ」
「ソレウチのマネか!?殺すぞ!?今ここで死ぬかお前!?」
再び葛乃葉の怒りボルテージがアップしてきた所で、不意に2階から甘い香りが流れてくる。不思議と気を落ち着かせるその香りの主は…。
「上原さ…上原さん!?」
「フフ、驚きました?今朝目覚めたらこうなってたんです」
其処に居たのは、元の上原の雰囲気を残しつつ、妖精のドレスに身を包み、羽の生えた妖精女王と化した上原であった。
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