科学の発展による恩恵
以前であれば有能な新人の確保というのは中々に難しい物であった。無論、現在でも確かに難しい事は事実である。
だが、それでも幾分も優秀な人材を探しやすくなった一つの発明がある。それが…輪転道が開発したアナライザーの存在だ。
「ふんふん…レベル3と、この子はキープ」
高層ビルから地上を見下ろしながら一人アナライザーで行き交う人の実力を図っては、有望そうな人に追跡術式を付与していくアルフォンソ。だが…真面目に働いているアルフォンソと比べて、後方の付き添い2人は気だるげに逢魔に仕舞っていた机と椅子で優雅なティータイム(緑茶)をしていた。
「はぁー…ったく…ついてないわね私。どうして私が
「はいはい、アリサカちゃんも仮にも幹部さんの前で文句言わないの、一応上司なんだから」
「ブランズの言い方も大概だけどね、そんで?幹部様は良い人みつけたの?」
そんなアリサカを咎めるでもなく、ごく普通と言った様子で受け答えするアルフォンソ。
「今ので3人目、女の子は僕の方で接触するから男の子はキミ達の方で頼むよ」
「同性の方が警戒されないと思うのですけれど…?」
「なら、キミ達が3人全員に声をかけてくれた方がいい。男はカワイイ女の子には弱いし、女の子は同性なら少し話しを聞こうと思うだろ?」
そんなアルフォンソの言葉に少し驚いた表情で顔を見合わせる2人。尚、メイド全体からのアルフォンソの評価が低いのは、心が固まっていない最初の時点で付喪神達にナンパしすぎたからである。自業自得とも言う。
「……まぁ役割分担的には合理的ではあるわね、戦力で私達呼ばれた訳じゃないんでしょ?」
「ですね、さっそく屍鬼神兵を2体借り受けてもよろしいでしょうか?手早く済ませてきますので…」
「今日はまだ当たりをつけてるだけだよ、人材の吟味に関しては、以前から社長が口を酸っぱくして言われてるからね…終身雇用ならぬ臨終雇用のブラックだけどホワイトな職場目指してるらしいから」
命がけなのだから、せめて金銭面と福利厚生は充実させたいと言うのがクロウの考えであり、会社方針なのである。
どうやら最近は、屍鬼神兵も怪異達に警戒されているらしく(まぁ、下位の神や天使が出歩いているような物なので仕方ないが)逢魔に入った瞬間別の逢魔に逃げられる事も多いのと、リーリャの逢魔防壁と怪異の作った逢魔が反発し合う事例も増えてきている。その為、屍鬼神での対応が出来ない場面も出てきたので、屍鬼神無しでも現場で戦える人材がほしいのだ。
屍鬼神兵の強さの根底には、そもそも攻撃が通じない逢魔による絶対的防御機能が前提となっているので、方向性を変える事も少し難しい所があるとはリーリャ談。
現在屍鬼神兵の可動数は120、使い捨て前提であれば数千でも問題ないのだが…リーリャが片手間に修理含めての管理をできる最大数がコレなのだ。更にパターンの違うモデルを作って管理数を増やすのは面倒なので、その120をなるべく強化していく方向性を取っている。
忘れがちだが屍鬼神兵も死体、やはり定期的なメンテは必須との事である。
「今ふと気づいたのですが、当たりをつけるだけなら私達今回ついてくる理由はなかったのでは?」
「リーリャが単身での行動は避けろってさ、彼女も大概心配性ではあるけど…意見には同意かな」
「心配性、というよりは異様なまでに道満を警戒してる気がするわね。一回負けたからってそこまで…」
「リーリャから一本取れる事のヤバさを理解出来て無いね、相性の関係があったとしても…少なくとも自分一人で相手取るとか考えたく無い」
あえて口には出していないが、問題があれば彼女達2人を切り捨ててでも逃げなければならない責務がアルフォンソには存在している。それはクロウから口を酸っぱくして言われているという事もあるが、既に初期幹部の誰がが欠けても先行かない局面に到達しつつあるのだ。
大を取って小を切り捨てる。それを行わねばならないのは単純に皆の力が足りないから、もっと力があればそんな事をしなくても良い。結局の所…全ての命は力の元に平等なのだ。
「ん?」
僅かに目を細くするアルフォンソ、人波の中に一人…他者と一線を画する存在を見つけたからだ。
「業界人…か?」
アナライザーが示した推定レベルが10。葛乃葉曰く一般人と業界人を分けるレベルの差は10らしく、そこに到達するには少なくとも怪異を1体は仕留めている筈だと言う。
「ブランズ、あの子尾行できる?」
「どちらですか?」
「手前の交差点の右端でパーカー被ってケータイ弄ってる子」
「はい、問題ありません」
そう言うと、ブランズの姿が薄くなり、やがて霞のように消え失せた。隠業の一種ではあるが、日本系の術式とはまた少し違った物である。
「パーカーの子、気になるの?」
「レベルが10あったからね、何かしらの怪異を仕留めて異能の片鱗を出した可能性が高い。歩いてる時の雰囲気から言って素人、師匠が居ないのに一体仕留めてるなら十分採用範囲だね」
「それって凄いの?」
「銃の使い方を知らない猿が、急に目の前に銃を置かれて、銃の使い方を知ってる人間相手に撃ち合いで勝つ程度には凄いよ。少なくとも…僕も社長も銃の使い方を教えられ、万全な知識を与えられ、安全な状態で最初の一体を狩った」
ちなみに、ヒロフミは異能を使えず知らずの状態から、闘争における天才的なセンスのみで最初の一体を仕留めている。虎は生まれつき虎だから強いといった、身も蓋も無いソレが彼の強さの源と言えるだろう。
「それにしても、随分と潜在的な異能者候補の数が多い」
思わずアルフォンソが呟く。術理として確立された魔女とは言え、その殆どがアルフォンソのように極まる前に死に絶える。
彼としても複雑な気分だ。これが早くにあれば死者の数も劇的に減っただろうにと、失った友を偲びながらも、同時に自らの血縁に無理をさせなくて良い事に僅かな安堵を覚えていた。
「いままで見えなかった物が、見えるようになったから当然でしょ?」
アルフォンソの思いを知ってか知らずか、アリサカは淡々と答える。
「ああ、だけど…話によると天使の輪の所為でもあるみたいだ。アレは落ちる度に世界の次元を作り変える代物、落ちる度に人々は異能や怪異に近づいていく。ゲーム風に言えば…レベルキャップが更新されて、その分雑魚が強くなるってコレットちゃんが言ってた」
「あの子も大概謎よね、馬鹿なのに賢いし本気出したらリーリャさんでも勝てるか分からないって」
「現代のソロモン王だ、底の知れなさでは最初のメンバーとなんら遜色無いよ。リーリャは底なし、葛葉は底を見せてるように見せかけて、ヒロフミさんは未だに強くなり続けてる。社長に至っては敵に回したら地球の何処に逃げても1秒以内に殺しに来る」
「ちょっと!社長はそんなことしないわよ!?」
少し不機嫌になったアリサカに苦笑いしつつも、どうにも自分の力不足を否めないアルフォンソ。確かに彼等と戦っても早々負けないが、それは皆のやり口を知っていて、ある程度対策を練れるが故だ。
仮に、同格の相手が現れた場合、自分自身はどうなのかと考えてしまう。
「強さって、なんなんだろうな」
求める程に遠ざかる気がして、少々複雑に考えてしまう。
「そう言うのは年長者に聞いたら?」
「アリサカちゃん教えて」
「年長者って言っただろ殺すぞ!?じゃなくて!ヒロフミさんに聞いてみたら?」
「あの人怖いんだよねぇ…まぁ、一回聞いてみるかな」
そんな事を言いながらも、ブランズの動きを脳内で追いかけ街を見下ろすアルフォンソの瞳は、可愛い女の子を探している。
彼は気づいて居ないが、そんな強引なマイペースさが彼の強さなのだろう。
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