それぞれの実力
「それで、そっちの子は…見た事無いが?」
「白虎でーす、ヨロ」
その言葉に若干停止するクロウ。無理も無い事だろう、先代を殺したのは彼なのだから。
「ああ、お前と先代の白虎の件はむしろ好意的に受け止められている…お前は義理を通して白虎は力が足りなかった、我々の世界ではよくある事だ」
「そそ、アタシのパパだったらしいけど、生まれてから一回も会った事無いし気にしてないっしょ」
「お…おう、なんか…うん」
と、2人がフォローをするがクロウにとって一切フォローになっていない。かつて戦った白虎とやはりというか面影があり、なおかつ彼女の父親である男を殺してしまった負い目がある為に少々距離感を計りかねるのは仕方ない事なのだろう。
これなら命を狙いに来てくれた方がマシとまで思ってしまうクロウであった。
「まぁまぁクロウはん、白虎はんも朱雀はんも気にしてへんみたいやし、1人だけ気負うてても馬鹿らしい話やろ?」
「そりゃそうなんだが…」
葛乃葉から説得されて尚、煮え切らない様子のクロウにリーリャも思わず口を出してしまう。
「クロウさんは力が足りず敗れる事は恥だと思いますか?」
「まさか、大体白虎と戦って力が足りてなかったのは俺の方だ、今ならどうか分からんがあの時は圧倒的に運と相性に救われた」
「なら、それが答えとちゃいます?どっち勝ってもおかしない戦いでクロウはんが奇跡的に勝利を拾った。義理も通した。明日命あるかもわかりませんような業界で、命取られるの覚悟で大本に筋通しに行ったんやったら、それが一番の供養ちゃいます?」
少なくともウチやったら宝刀パクってしてまうかもしれへんね?とクスクス笑う葛乃葉。彼女に同意するように白虎の娘も続いた。
「そういう事、アタシが言うのも何だけどもっとシビアに生きて良いんじゃね?それでも気になるならコレ終わったら良い店奢ってよ、それでチャラにしてあげるっしょ!」
「……なんか、色々気を使わせてスマンな」
頭をポリポリとかきながら照れくさそうにするクロウを見て、思わず笑顔を見せる白虎。
「オジサマエモい!ねね、この後けつかっちん?」
「ケツカッチン…えーっと、リーリャ?」
「予定ある?って聞いてるんだと思います…多分?」
「ってかそっちの子外人!?かわゆっ!チョーテンアゲなんだけど!それにそのフリフリ服おしゃんじゃね!?何処で買ったん!?ロ○ト!?よき!こんなメンディー依頼秒で終わらせて皆でカラオケ行こ!」
「アホか、コレ終わったら本部に報告に戻らにゃならんだろうが」
急にテンションを上げ始めた白虎の頭を軽く小突く朱雀。その様子にクロウ達3人もイザナギも結構苦労してるんだなぁ、と思わず顔を見合わせた。
「うぇ…テンサゲなんだけど、オバサマもウチも働き詰めだしちょっとサボってもバチ当たんないっしょ?なんなら直接伊邪那美様に許可もらう?」
「それはマジで洒落にならんからやめろ」
「ま、どっちにしろしばらく戻れそうに無いんだけどねぇ」
朱雀が肩を落としてそうつぶやくと、思わずクロウが問いただした。
「と、言うと?」
「雑魚ばっか一定間隔でワラワラ湧いてくるんだけど、親玉出てこないの、マジチキってるわー」
「ちなみに先行で到着した弱小の企業連中は逃げたか死んだかだ、雑魚程度なら私達2人でもどうとでもなるが大本が断てんと撤退もできんのが現状だ」
その言葉にはて、と首をかしげる葛乃葉。
「なんや話聞いとったら、消えへん逢魔の大型バージョンみたいな話やねぇ」
「だがこのフェーズと規模で雑魚の無限湧きは流石に今までと訳が違う」
「せやったら、何かしらカラクリがあるんちゃいます?」
「我々も今それを考えて居た所だ、だが雑魚の処理をしながら此処を隈なく探すのも一苦労だろう」
やれやれと首を振る朱雀、だが…。
「……いや、そうでもないぞ?リーリャ、葛乃葉」
「はいはい、ウチはこっから北側探すからリーリャちゃんは南側おねがいできますやろか?」
「この辺り古戦場後みたいですから、私1人で足りますよ?」
「ほな任せてもよろしおす?式はいざという時の為に温存しときたいんよ」
「了解です、Танец костей」
そうリーリャが一言つぶやくと、そこら中から人骨がボコリと地面を突き上げて出現。そのまま周囲を見渡すような仕草を見せると再び地面に引っ込んだ。
「儀式も無しに口頭だけでこの数の骨を操るなど…!?」
驚愕の表情を見せる朱雀、通常ネクロマンサーが操る術というのは事前に用意した遺体等に加工を施し、自らが動かしやすいように設定。其処にプログラムという名の術式を刻み、さらに微調整を繰り返してようやく出来上がる物なのだ。
それをただ其処に埋まっているだけの骨を一時的とはいえ大量に操作し、視界をつなげて周囲を探るなど少なくともそのような事など、出来たとしても脳がオーバーフローを起こし死ぬのが目に見えている。
「言って無かったが今この中で一番強いの多分リーリャだぞ」
「まぁ!私の右手を消し飛ばしたクロウさんからそう言っていただけるなんて光栄だわ!」
「リーリャだって俺を骨でハリネズミみたいにしただろ?」
「あら、そうだったかしら…忘れてしまったわ」
そう微笑み、スゥと自らの腕の付け根をクスクスと笑いながらなぞるリーリャ。彼女にとって片腕を失った思い出は教訓であり、より高みに上る為の切っ掛けであったと考えている。
そういう意味では彼女はクロウをリスペクトしているし、クロウもリーリャを侮ったりはしない。それはある種の信頼関係にも似通っており、戦闘力という点においてクロウがもっとも信用しているのはリーリャなのだ。
「あら、ウチもソコソコやれるつもりなんやけど…妬けるわぁ」
「少なくとも死力のリーリャと戦うのだけはやめとけ、葛乃葉が無事でも日本が先に沈むから」
「そんなに?」
「買いかぶりすぎですよ?それで…索敵の結果なんですけど、怪しい物は特にありませんでした」
リーリャは幼いながらも術式や隠形においてはクロウを大きく上回っている、まぁクロウが術式を嫌う傾向があるのも理由の一つではあるが。だが、少なくとも彼女が怪しい物が見当たらないと言うならばちょっとやそっとで何かが見つかる訳では無いと思った方が良いだろう。
「となると目視では発見できないのか?」
「相当高度な隠形を使っているなら可能性はありますけど、高度なら高度で逆に位置を絞り込める筈なんです」
そう、逆を言えば何も分からない位置が探している位置になるのだから、ある程度の絞り込みが可能になる筈なのである。
「それが出来ないという事は…そもそも原因は内部には無いのか?」
クロウは自らの知識と経験を総動員させて考えてみるも中々答えが浮かばない。
「ま、なんにせよ悩むんはアレ捌いてからの方がええんとちゃいます?」
葛乃葉がそう指差す先には波のように溢れ出る怪異達が列を為していた。視界一面を埋め尽くすような光景…普通であれば絶望的なのだろうが、その場に居る彼等にとっては木の葉を払う程度の物でしかない。
「やれやれ、婆さんに白虎も連戦続きだろ?俺等が受け持つからしばらく休んでくれ」
「おっと、殊勝じゃないか、お言葉に甘えさせてもらうよ」
クロウは近場に置いてあった乗り捨てられ、雷に飲まれて焦げたたバイクに手を触れると、その異能を使用する。
「……おーおー…マジか」
思わずそうつぶやく朱雀。だが、無理も無い事だろう。
クロウの異能が放った光の後、そのバイクは生まれ変わった。前方に2門のガトリングを備え、艷やかな黒に輝くカスタムバイク。それは中心部のバイクこそ捨てられていた物ではあるが、完璧に別物と化している。
「んじゃぁ、ちょっと遊んでくる」
コンビニ行ってくるぐらいの勢いでバイクに飛び乗りフルスロットルで走り出すクロウ。強化スーツ機構をフルに使い身体の反動と筋力のみで高々と飛び上がると、その雑多な百鬼夜行へと突っ込んだ。
バイクが降り立った瞬間。その周囲から光の爆風が巻き上がり、消し飛ぶ悪鬼達。まるで円形型脱毛症のような空白地を作り出すと、その中央で円陣を描くようにエンジンを轟かせ廻り出すバイク。
同時に轟くミニガンの咆哮。放たれる一発一発の弾丸が数十近い敵を貫通し、直撃した敵は一瞬で蒸発したかのように消し飛んでいく。わずかに指先や片腕を掠めただけで悪鬼の全身が消し飛ぶ程のその"破魔"の魔弾は、かつてのビルでは建物の破損を嫌ったクロウにより使われる事の無かった物である。
だが此処は開けた公園。周囲への気遣いは無用であり、足と火力を得たクロウは嬉々として敵をなぎ払い消し飛ばしていく。
尚、クロウはAT限定の車免許しか持っていないので完璧に無免ライダーである。時間が出来たら船舶免許と一緒に取ろうと思っているのはアリア以外は知らない事である。
「ハハッ!スーツの反応が良いな!」
気分が乗ったのか、エクステンドアームを展開しショットガンを撃たせると、まるで暴風のように敵中枢をえぐり散らして行くクロウ。ものの数十秒で敵が目減りしていき、殲滅も時間の問題と言った所である。
そんなノリノリのクロウを後方で眺める2人。
「ウチ等要らへんのちゃう?」
「南と東にも反応ありますよ?」
「あら、そんならそれぞれで対応しましょか」
「はい」
そううなずくと、直立不動のままに骨の波に乗って移動するリーリャ。広域殲滅は彼女の十八番であり、ましてや雑魚散らしともなればこの中で最も迅速に行える。だが1対1に置いても彼女は無慈悲な迄に強いのだ。
「Ушли в прошлое звезд」
パン、とその小さな手を打ち鳴らす。
「Заполненные с смертью」
パチン、とその華奢な指を響かせる。
「Спасение пришло」
そうして、幾千万の死が立ち上がった。
骨という骨が地面から湧き上がり、グシャリグシャリとぶつかりあい、人の形へと変化していく。スカスカの骨達は圧縮され本物の人間のような形へと変わって行く。
まるで肉まで骨になったような人間が50人程生成されると、それらは脇目も振らずに悪鬼の群れに飛び込んだ。
巻き上がる血飛沫。かつて大阪城に散った兵士達の亡骸が恨みを晴らすように悪鬼の首をねじ切り、手刀で切断し、蹴り潰し、殴り潰し、文字通りの一騎当千の働きを見せた。
即ち、その50の骨は5万の兵に匹敵する。恐るべきはそれが即席の三言で作られた兵士であるという事だ。
「うん、きっと生前良い兵達だったのね、動きが段違い」
にこやかに出来に微笑むリーリャ。はっきり言って彼女の懸賞金とその危険度は完全に乖離していると言って良いだろう。彼女を仕留めたければそれこそ軍隊ではなく核弾頭を数発程持ってきて執拗に叩き込んだ後、対異能の精鋭部隊による強襲を仕掛けるのが最も現実的な程だ。
軍隊に匹敵するだとか、そういうチャチな話ではなく彼女単体で国家に匹敵する。クロウはその攻撃に破魔が宿るが故に相性でゴリ押しする事が出来たが、通常であれば並の異能ではそもそも戦闘にすらならない。
なにせ彼女の作品は並の異能であれば一切の魔術やそれに準ずる防壁等を使わずとも、純粋な強度で異能の攻撃を耐えきる。
彼女は最新にて最先端のネクロマンサーであり、自らの技術に最新の術式・技術・技法を積極的に取り入れ変化や改革を恐れない。それは従来の価値観や技術を破壊し、新たな世代を作っていると言っても過言ではない。
それ程までの逸材が…彼女が何故クロウに付いたのか。クロウが何故断らなかったのか。初めから彼女は後ろ盾など必要無く、クロウもソレに気づいていた。
強者とは孤独である。彼女程の強者ともなれば他者との乖離は文字通り那由多の影に霞む程だ。だが、彼女がクロウが仲間を欲していると聞いた時に、彼女は居ても立ってもいられなかった。
強者故の孤独、強くありながらも弱い心、割り切っているのに割り切れない矛盾した曖昧な一般人としての感情。2000という数を犠牲にすれば確実にそれ以外を救えると踏んだ彼女。その年相応の心を痛めながら心を鬼にして殺して救った少女は…自らを滅する為に来た光り輝く太陽の黒点、その瞳に自らを見てしまったからだ。
クロウとリーリャはある種の写し鏡なのだ。
だからこそ、彼女はクロウの下に居る。クロウの声はリーリャの声、リーリャの声はクロウの声。表裏一体でありながら、矛盾した歌を互いに歌ってそれが自らの歌だと気恥ずかしそうに顔を隠す。
故に、互いが互いを強く信頼している。自分自身を信頼できない程彼等は弱くは無いから。
「クロウさんみたいに遊んでいる訳じゃないもの、少し手早く終わらせるわ」
クロウは玩具で遊んでいる、それは全方向の敵を朱雀と白虎に流す事無くクロウ自身で…あるいはリーリャと2人で潰せるからだ。
だがリーリャはクロウに雇われている。雇い主が遊んでいても、下は働かなくてはいけないのは企業の辛い所だろう。言いたい事もある、だがリーリャは飲み込んだ。いや…そもそもその程度の失礼など2人にとってさしたる問題では無いのだ。
だが一つ言えるとするのであれば、今現時点においては彼女はよっぽどクロウよりも大人なのであろう。
「おしまい」
パチンと、その細く白い指を響かせると50の骨が連結し、人の形から異形の怪物へと姿を変え…歪に伸びすぎた腕の一振りで彼女が受け持った周囲全ての怪異を潰して見せた。
「お疲れ様、それにしても…」
彼女はわずかに違和感を覚える、自らの異能が冴え渡っている事に。細かく調べると初めはクロウの下についたという精神的な物なのかと思ったが…どうやら精神が与える能力への理論値以上の差が現れている事に気づく。
「……手がかりになるかしら?」
可愛らしく首を掲げながら、再び骨の波で朱雀と白虎の下へと移動するリーリャ、どうやらクロウと葛乃葉もそろそろ終わるらしい。
「葛乃葉さんも凄いのね」
葛乃葉。リーリャは彼女も又クロウと彼女に近しい物であると感じている。それは本能から来る物であり、おそらく葛乃葉とクロウも気づいているのだろう。
「本当に、良い職場だと思うわ」
蚊の泣くような小さい声で、彼女はそうつぶやくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます