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「ねぇスカイさん」

「なに?」

 ファジーネーブルが最後の一口になった時、それまでぼうっとしていた堀川さんが言った。

「スカイさんはさ、昔からこんな感じなの?」

「こんな感じ?」

「昔から、ずっと変わらない?」

 期待した顔でも不思議そうな顔でもなく、堀川さんはぼんやりとした表情で訊ねる。

「ん~昔からって、いつからのことを言えばいいのか分からないけど」

 例えばこの世界に入った十八の時から比べれば、

「変わったよ」

「え、変わったの!?」

「そんなに驚くこと? 十八の頃から考えればそれから十三年経っているし、そりゃ変わるでしょ」

 未成年から成人にも変わったし、独立して自分の店も持ったし。

「スタイルは? 自分のスタイルは変えたの?」

「スタイル?」

 生き方、ってこと? んー、そうだな。

「全体的には変わったと思うよ。芯は変わらないけど」

「芯?」

「俺の作ったお酒でお客様に喜んで欲しいってことは、昔から変わらないから」

 見た目や意識は変わったけれど、そこだけは変わらない。

「それに、変わったって言うよりは成長した、かな?」

「成長?」

「ここに来るまで俺もいろんな寄り道してきたけど、結局は全部今に至るための成長の過程だったっていうか。振り返って見ると分かるんだ。芯さえぶれなきゃ失敗も全部成長だったんだって」

 それに気づけたのはちゃんとした大人になってからだけど。あれ、今もちゃんとした大人になれてはいない? 嘘でしょ。

「そっか」

 堀川さんは「ふぅ」と長く息を吐いてグラスを一気に飲み干した。それからまたファジーネーブルをオーダーする。

「そうだよね、どんな事があっても芯はぶれないもんね」

「何かあったの?」

「んーん。私は私らしく生きようって思っただけ。メジャーデビューもすぐそこなんだから。楽しみにしててよね」

「言われなくても」

 途端に元気になった堀川さんは吹っ切れたように笑った。いつもの、少しあどけない表情で。

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