お気に入りを一杯

カゲトモ

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「こんばんは」

かろん、とベルを鳴らして扉は開いた。街灯に照らされながら店内を覗いていたのは久しぶりに見た顔だった。

「いらっしゃい、堀川さん」

「おじゃましまーす」

 背の低い明るい髪の女の子が、そろりと歩いてスツールに腰かけた。ちょっと見ない間に随分と垢抜けた気がする。女の子はメイクで変わるから、それのせいかもしれないけど。以前の彼女は化粧っ気のない子だったから。

「大人っぽくなったね」

「そ、そうかな? 自分ではあんまり変わらない気がするけど」

 褒められると照れてしまうのは前と変わらないか。

「やっぱり都会に出ると垢抜けるのかな。雰囲気が変わったね」

「そう、かな? 私、変?」

「どうして? 変じゃないけど」

「本当?」

 本当に。おしゃれな女の子って感じ。前と変わった事と言えばメイクが濃くなったことと、ピアスの数が増えたこと? それから服装の系統を変えた?

「うん、ちょっと路線変更? みたいな、感じで、とりあえずは形からってことで服装を変えてみたんだけど、変かな? 似合わない?」

「いや、ハードロックっぽいもの意外と良く似合っているけど」

 以前も明るい髪でロック調ではあったけど、もっとカジュアルな感じだったから。今のヴィジュアル系みたいなメイクもその服装にはピッタリ合っている気がするけど?

「・・・そっかぁ」

 けれど堀川さんはため息交じりにそう言って、それからお気に入りのファジーネーブルをオーダーした。

「好きだね、ファジーネーブル」

「これは変わらないんだ」

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