詩葉さんは別ノ詩を詠みはじめる

樫田レオ/ファミ通文庫

序章

すえつゆ もとのしずくや世の中の おくれさきだつ ためしなるらむ』

 葉の先に垂れる朝露も、根元に落ちた一滴いってきも、ただ後先が違うだけでいずれ消えることに変わりはない。人の命も、それと同じ。


 扉を開けると、湿ったベルの音が鳴る。店の外をのぞいた私の顔に落ちてきた雨滴うてきに、ふとこの歌を思い出した。

 母がいなくなって、間もなく一年が経つ。あの日も雨が降っていた。

『つゆくさ』

 母がのこしたこの場所で、私は今日も一人、その帰りを待ち続ける。

 一度は椅子に腰を下ろす。しかし、そんなはずもないのに誰かに呼ばれたような気がして、私は二階へと足を向けた。

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