僕と天音が付き合うまで その3(僕と私の理想の相手はネトゲの中にいる)

 家に帰るとまずは部屋に入りPCの電源を入れゲームを起動する。

 そして彼女がインしているか確認する。そこまでがいつものルーティンワーク。


 彼女が居ればそのままおしゃべりや、一緒にゲームをする。居なければ離席中と表示してコーヒーを入れに行ったり、本を読んだり、宿題をしたりしている。


 そう、僕はネトゲプレイヤーではあるが、ガチ勢ではない。

 適当に楽しむだけで良かった、そしてここ『MMORPGアートオブドラゴニア』は、僕みたいな緩いゲーマーでも楽しめる環境なのだ。


 今日彼女は居なかった……なので僕はとりあえず部屋を出て台所に向かう。コーヒーを入れて彼女が来るのを待つためだ。


 台所に行く途中にある玄関の前を通った時、丁度義妹が帰ってきた……


「ただい…………ちっ」


 僕を見るなり怪訝な表情を浮かべた彼女は、足早に部屋に向かって行った……今舌打ちしやがった。


 僕と妹は仲が悪い……去年親が再婚した。そこで突然妹と言われて、はいそうですかとお互い受け入れられなかった……


「なよなよしてる……おんなみたい……」

「メガネブス……」


 会った瞬間お互いの第一印象をポロっと言ってしまい、それ以降険悪になる……


 だって分厚いメガネで暗そうな奴に初対面で女みたいって……、僕の一番気にしている事を言いやがった……


「くっそう、思い出したらムカムカしてきた」

 僕はコーヒーを入れ部屋に戻りゲームの画面を覗くと友達の所にインのマーク、そして僕のキャラの前でハートマークのエモーションを一杯に出して可愛く座っているキャラがいた!!


 今のムカムカが一瞬で吹き飛ぶ!

 コーヒーをこぼしそうになりながら慌てて席に着きキーボードを叩く。


『リン~~こん~~ごめん、今離席してた』


『ルナ~~こん~~、私も今インしたところ~~昨日ぶり~~会いたかったよ~~』


『うん僕も~~』


 そう……キャラ名「リン」彼女が僕の理想の人……知り合って2年になる。


 インの時間を考えると恐らく学生だろう、但し男女か?、どこに済んでるのか、一切分からない。


 なんでもストーカーにあったらしく絶対に言わない。そして僕もその話しをされてから聞かない様にしている。


 ストーカーに会うんだから女の子だよね? 多分……


 彼女とは毎日話しをしている。お互いあまりプライベートの話しはしないけど、テレビの話、ゲームの話、音楽の話、ファッションの話、そしてオタ話、そんなたわいもない話しをとりとめなもなくしている、してくれる。


 僕は学生と言っているので、学校の悩みを少し言ったりしていた。

 そして彼女はそれを一緒に悩み相談に乗ってくれていた。


 彼女は凄く優しく、思いやりがあって、誠実だった。

 僕に告白してくる娘は僕の容姿だけしか見てない、僕を見てくれない……


 僕は外見なんてどうでもいい、中身が大事と思っている。そして僕の中身を好きになって貰いたい……



 そして僕は顔も容姿も年齢も性別さえ知らないリンに恋をしていた。



『リン、今日はどうする?』

『今日は光の島に行きたいの』


『光の島ってこのあいだアプデされた所だよね』

 最近アップデートされた場所、それほど強い敵とかは出現しないがとにかく美しい、光が溢れている島。島の頂上から見える景色が凄く良いらしい。


『うん、そこにルナと行きたいの』


『じゃあ行こう』

 僕はドラゴンを召喚する。ガチ勢ではない僕と彼女が少しずつゴールドを貯めドラゴンの卵を買い1年かけて育て最近ようやく乗れるようになった。 ひそかに僕は彼女との子育てを想像していた。


 このゲームはガチ勢じゃなくても楽しめる。

 そのうちの一つが景色! 異世界に居るような雰囲気を醸し出すこの景色は好きな人と一緒に旅行気分になれる。


『見てえルナ~~、イルカの群れが見える~~~』


 彼女は楽しそうだ、そんな彼女を見ると僕も楽しくなる。暫し二人で空中散歩を楽しむと光に溢れる島が遠くに見えてくる。



 光の島、木々が全て水晶で出来ており、島全体が光輝く、島の真ん中にある山の麓に洞窟があり、ダンジョンの入り口になっていた。


 ここに降り立つ者は殆どがそのダンジョ目当てなんだが、僕と彼女はそこへは行かずに山頂に歩いて行く。


『凄い……綺麗……』

 水晶のトンネル、光の乱舞……グラボのファンが唸りを上げる。


『凄いね』

 そんな景色を二人で歩き山の山頂にたどり着く。


『わーーーー、島全体が光ってる』


『虹が見えるね』


 そこから見える景色を二人で座って暫し眺めていた。


『あのね、今日で2年たつんだよ、覚えてる?』

 リンがそう言った……もちろん覚えてる、始めてこのゲームで出会って遊んだ日の事を……


 僕とリンは始まりの町でキャラの動かし方が分からず何度もぶつかった。その度にご免なさいとお互い謝っていた……そしてどうやったら上手く行くかその場でチャットをしながら協力しあい、二人で練習しあった。



 それからは特に決めては居なかったが、いつも同じような時間にログインしていた。その度に会って話しをする様になり、いつしかゲームで遊ぶより、彼女と話すのがメインになっていた。


『もちろん覚えてる、記念日にしようって去年言ったもんね』


『うん』


『リン1年間ありがとう、そして来年もよろしく』

 僕はリンに指輪のアイテムを贈る。


『用意してくれてたんだ~~ありがとう、私もこれを』

 リンは僕にメガネをくれた、メガネ?


『これキャラの顔がアップで見れるようになるアイテムなの、もっと私を見てほしくて』


『そうなんだ、ありがとう』

 僕はメガネを装備してリンのキャラの正面に立つ、画面にアップで可愛いリンの顔が画面に映った。


『リン可愛い』


『ありがとう』


 そこそこ自在にキャラが作れるこのゲーム、リンはポニーテールで小さい顔に綺麗な目、そしてこのアイテムでしか見えない小さな泣きボクロがあった。



 この泣きボクロの君が僕の理想の人、でも中身は誰かはわからない……男か女かも……




 ####




「あーーもうイライラする!」

 私は学校から帰って部屋に駆け込み布団に鞄を投げつけた。


「どんだけ私の事嫌ってるの、顔見るなり怪訝な表情して」


 第一印象は凄く良かった。ストーカーにあって男嫌いになっていた……、兄と言われた彼は女の子の様な顔立ち、優しそうな人だった。


 でも、つい……女みたいって言ってしまった。そうしたら……


「メガネブスってしょうがないじゃない本当に目が悪いんだから!」


 物凄く悪いので度がキツく分厚いレンズのメガネ、コンタクトにしたらと言われ買ったけど、目に物を入れるという事が怖くて出来なかった……何度やっても目を瞑ってしまう。


「私だってかけたくて眼鏡をかけてるわけじゃないのに! 本当嫌いあんな奴」


 そう言いながらパソコンの電源を入れる。

 カリカリとハードディスクの音がなりパソコンが立ち上がる。


「SSD欲しいな~~」

 立ち上がるのにイライラする。あの人がいるかもしれないと思うと……この数分が待ち遠しい。

「でもグラボ増設したばっかりでお金ないし……」


 最近空を飛んだりすると画面がカクカクする。そんなときのチャットのラグが嫌だった。彼とのお喋りは私の生き甲斐、心のオアシス、嫌なことも全部忘れられる。


 パソコンが立ち上がると、少し待ってゲームを立ち上げる。こうした方がかえって早く立ち上がる、2年の経験がそうさせた。


 ゲームが立ち上がり、オープニング画面、そんなの良いから早く! 真っ先に見るのは友達の欄、誰がインしているか分かる。


「いた!」

  ルナツーが彼のキャラ名、言いにくいから略してルナって呼んでいる。


 ルナがインしているのを確認するといつもの場所に向かった。


 いつもの場所、二人の待ち合わせ場所、町外れの木の下にルナはいた。


「離席中か」

  私はルナのキャラの前で待つ、ハートマークのモーションを出して彼のキャラ、ルナの前に座る。


 ルナとゲームで知り合って2年、ストーカーにあってあまり外に出なくなった私は誰かと喋らないと、このままだとまずいと思いオンラインゲームをやってみた。わけもわからずにインストール、そしてキャラを作った、自分の名前が天音あまねなので、リンというキャラ名にした。


  なんか天の音って鈴の音って気がしない? リンリンってなる鈴の音。


 インストールまでは出来た、ゲームも立ち上がった。ただキャラの操作がわからずに右往左往していたらルナとぶつかった。


 それから一緒にゲームをしている。


 ルナは学生との事、知っている事はそれだけ……

 でもルナの趣味や人となりは全部知っている、凄く優しく、凄く誠実。


 私は一気に嵌まった、ゲームにもルナにも……

 それから2年、最近は、ほぼ毎日ルナと会話をしている。全然飽きない、それどころかもう生き甲斐に近い……


 そんな事を考えつつ画面を見ていると、ルナのキャラの頭上から離席中のマークが消える。

「きた!」


『リン~~こん~~ごめん、今離席してた』

 チャットでルナが話しかけてくる、私もそれにすぐに返信する。


『ルナ~~こん~~、私も今インしたところ~~昨日ぶり~~会いたかったよ~~』

 会いたかった、毎日毎晩会いたい、ずっと話していたい。


『うん僕も~~』

 そう返信が来る、嬉しい、泣きたくなるほど嬉しい……

 ルナの一言一言が心にしみる、気持ちが楽に楽しくなる。ストーカーにあって以来男の人が怖い……でもルナと話しているとそんな気持ちが忘れられる。



『リン、今日はどうする?』

 ルナが言ってくる、このゲーム基本はモンスターを倒しアイテムやお金をゲット、経験値や装備を上げていく普通のゲーム、ミニゲームや装備品の製作なんかも出来るのでモンスターを倒さなくても遊べる。でも私は景色を見たりしている方が好き、そして一番好きなのは勿論ルナとのチャット。


『今日は光の島に行きたいの』

 私は即答する、今日何をするかは事前に決めていた、ルナと景色のいい場所に行ってお喋りをする、そして……



 ルナはドラゴンを召喚、二人でお金を出しあって育てた私たちの子供? 共同作業?、ふふふ!


  レベル上げに苦労したけど最近乗れるようになり、空の散歩を楽しめる。でもそのお陰でグラボの増設という出費が……


 竜の上で空を飛びながらの空中散歩、現実では絶対に出来ないデートに心が踊る。


 段々見えてくる光の島、少しだけ緊張する……ルナは覚えていてくれているんだろうか……


 島に到着、事前に調べていた島の真ん中にある山の頂上に向かって歩いていく。


 水晶で出来た木のトンネル、キラキラ輝いて私たちを照らす。綺麗、凄く綺麗……


 それほどかからずに頂上に到着。


『わーーーー、島全体が光ってる』

 凄く綺麗なグラフィック、現実では見れない世界、そこにルナと二人でいる事の喜び。


 しばらく二人でその景色を見ていた。

 そして少し緊張しながらキーボードを叩く……


『あのね、今日で2年たつんだよ、覚えてる?』

 一昨年私とルナはこのゲームで出会った。初めてログインした時に出会った……そして去年1年経った時、この日を二人の記念日にしようと言った、毎年お祝いしようねって。


『もちろん覚えてる、記念日にしようって去年言ったもんね』

 そう言ってくれる、覚えていてくれた、嬉しくて泣きそうになる。



『リン1年間ありがとう、そして来年もよろしく』

 ルナがそう言ってくれた、そしてさらに取引のランプが光る。認証ボタンを押すと指輪がアイテム欄に入ってくる。


 記念日の為ににアイテムの用意までしてくれていた。もう堪えきれずに泣いてしまう。

 泣きながらブラインドでキーボードを叩く、ルナとの会話をスムーズにしたくて練習した甲斐があった。


 私はメガネを贈る、なんて事はないアイテム、相手の顔をアップで見れるだけ……

 でも見てほしかった、私の顔、なるだけ似せて作った顔をメガネを取った私の顔……



『リン可愛い』


 ルナは可愛いって言ってくれた、私の本当の姿に言ってくれている様に思った。


 私はルナに恋をしている。その事を今はっきりと気がついた。


 ネトゲの中に私の好きな人がいる。でもそれは誰だかわからない……男か女かそれさえも……


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