宝石の原石

 

 天音に今日は少し遅くなるとメール、特に理由を聞かれる事もなく『はーーい』と返信がすぐに来る、か、可愛いな~~


「てか、それどころかじゃない、僕と天音の今後がかかっているかもしれないんだ……」

 別れさせられるなんて出来るわけがないのは知っている、だって僕と天音の間に入り込む余地なんて無い、僕は天音を愛している、天音だって僕の事を、そんな二人を、僕と天音を別れさせる事なんて誰にも出来ないんだ。


 だからこそ、縁にそれをしっかりと伝える必要がある、僕には彼女が居るって伝え、クラスの皆にもそれを伝えて欲しい、そして祝福して欲しい。


 僕は気合いを入れ縁を説得するべく言われた喫茶店に乗り込む、店員さんに待ち合わせと伝えると、何か変な愛想笑いをされ奥に案内される。


「ヤッホーー」

 奥まった個室の様な席に縁は座っていた、そして僕を見るなり能天気に手を振る。


「ヤッホーーじゃないよ、あ、アイスコーヒーで」

 店員さんに注文を伝え縁の前に腰を下ろす。


「なんかその座りかたとか仕草とかさーー、男子と二人でお茶をする感じじゃないんだよね、本当に……渡ヶ瀬君まだおちんちん付いてる?」



「お!」


「夏休みに取っちゃったんじゃない?」


「ば、な、何を!」


「ほら~~その怒りかたも可愛すぎるよね~~いたいけな少女みたい、いやん、なんか苛めたくなる~~」


「僕は……男だよ! ちゃんと間違いなく……」

 見せてやろうか! 付いてるぞ、一応……


「ほらまた間があった、前はもっと怒ったのに~~」


「それは……」


「ふーーん、それは? 彼女のせい?」


「え?」


「渡ヶ瀬君の、か、の、じょ……妹さんだよね、義理の妹さん、天音ちゃん」


「そ、…………そうだよ」


「お、遂にはっきり言ったね、そうか~~」


「縁の妹と天音が同じ学校だとは思わなかったよ」


「まだ正式に妹じゃないけどね~~」

 縁はそう言うと一口コーヒーを飲む。


「お待たせしました」

 僕の前に注文のアイスコーヒーを持ってきた女性店員、僕が顔を見上げると、真っ赤な顔になり、慌てて一礼して立ち去って行く……な、なんだ?


「あーーあ、またいたいけな小娘を毒牙にかけて」


「は?」


「今の店員さんにね、待ち合わせで後から信じられない位綺麗な顔の男の子が来るからって言っておいたの、興味津々だったでしょうね、あははははは」


「あはははじゃないよ、なんだよそれ」

 だから変な愛想笑いをしていたのか……


「渡ヶ瀬君、本当に自覚しないんだなってさ、あなたってどれだけ奇跡の人かわかってないでしょ?」


「奇跡って、ただ顔が女の子っぽいだけだろ?」

 本当に嫌いなんだ、いや嫌いだったんだ、男の僕にいつも可愛い可愛いって、でも天音は僕の顔じゃなく内面が好きって、そして今は全部好きって、だから最近はこの顔も嫌いじゃ無くなった、天音が好きな物を僕が嫌いになれるわけがない。


「そうね、まあ、今まではね、えっと何て言うか……そう、磨かれていない宝石、原石って感じかな? だから渡ヶ瀬君に告白をしていた人って、恋愛の百戦錬磨と言うか、自分で磨いてみたいって感覚の人だけだったんしょうね、こうランクの高い人っていうのかな? その原石を磨ける人だけが渡ヶ瀬君に告白してた、でも、夏休み明けの渡ヶ瀬君は、原石じゃなく宝石になっていたって感じね」


「結局宝石なんだろ、僕は人間だよ!」


「まあ、そうね、でも私達は宝石になりたくてもなれない、だから身に付けたいって感覚になるのよね」


「それこそ僕は物扱いじゃないか僕はそれが嫌で告白を断っていたんだ!」


「まあそれはそれで磨けない私達は皆スッキリしていた、だから今までは渡ヶ瀬君に遠慮をして綺麗な石を遠くから眺めていたのよね、でも今の渡ヶ瀬君は輝いている、原石ではなく宝石に、誰もが欲しがる存在になっちゃったのよね」


「そ、そんな……」


「そしてそれを独り占めする存在が現れた、今まで皆で見守っていた宝石を横からさらっていった人物が、それが渡ヶ瀬君の妹さん、性格には義理の妹の天音さんね」


「…………」


「本当にこれから大変な事になるわよ、今まで渡ヶ瀬君が振ってきた人達、さらに協定を組んで見守っていたうちのクラス、学校中の隠れファン、近隣校にもファンは一杯居るし、勿論渡ヶ瀬君の彼女の居る、私達の出身中学にもね」


「そ、そんな……」


「もう私じゃ押さえきれない、クラスの女子だって無理だもん」


「そんな……えっとじゃあ……どうなるの僕と天音は?」


「まあ渡ヶ瀬君はこれから告白ラッシュで毎日女子から男子から追いかけ回されるわね、そして天音ちゃんは妹って立場を利用して渡ヶ瀬君を落とした卑怯者って陰口を叩かれ、最悪苛めに」


「そ、そんなバカな!!」


「最悪よ、あくまでも最悪の想定だから」


「それにしたって……」


「アイドルと付き合うって言うのはそれだけ大変なのよ、女の恨みは怖いからね」


「縁は?」


「え?」


「縁はどうなんだ? 縁はどう思っているんだ今の僕を、彼女の出来た僕をどうしたいんだ? 何でこんな忠告をするんだ?」

 そう、僕はそれが聞きたい、縁は何が目的なんだ? それ次第ではこれ以上喋る訳には行かない、縁は僕の味方なのか、それとも……



「私は…………」




 

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