温泉旅行 その1


「まさか本当に行くとは」

 母さんが「二人で行ってきたら?」と言って渡された温泉ホテルのペアチケットを見つめながら僕は天音にそう言った


「ネットの懸賞で当たったてさ、良いタイミングだったね朋ちゃん」


「てかお母さん完全に僕の事女って認識になってない? いくら兄妹だって血が繋がっていない僕らを旅行に行かせるとか、あり得ないよ……」


「その格好で男って認識を持つ方がおかしい、今日も超可愛いよ朋ちゃん!」


 僕は白のノースリーブのワンピースしかもミニ、天音にこないだ買わされ今日着せられこれで旅行に来ている……


 ちなみに天音も薄い水色のワンピース、「お揃い~~♡」って言って買っていた。


 母さんには「ああ、何て可愛い美人姉妹なの~~ワンピースも良いけどでもやっぱり着物、来週のお祭りが楽しみ楽しみ」と今日の旅行よりも来週の着物の事を言っていた。


 相変わらずの着物馬鹿である。


「あ、そうそう、お部屋に露天風呂が付いてるって一緒に入れるね朋ちゃん」


「…………ええええええええええええええええええ!」

 ちなみに電車に乗りながら僕と天音は常に手を繋いでいる。まあ恋人同士なんだから変じゃない、変じゃないよ、僕が男の格好だったらね……


「でも考えてみてよ朋ちゃん、私達兄妹でしょ? しかも見た目女の子同士だから、姉妹って思ってくれるでしょ? 変な疑いを持たれる心配無いし、そもそも中、高生カップルでお泊まりとか下手すると補導される可能性だってあるんだよ?」


「いや、まあそうだけど、キスもしてないのにいきなり旅行に混浴って……」

 

 そうだよ……天音は女の子同士でちょっと旅行にって思ってるだろうけど……僕は……どどどどどどど、どうしよう……き、緊張してきた。


「朋ちゃん手が汗ばんでるよ、暑いの?」


「う、うん、そうだね、夏休み後半とは言えまだまだ暑いからね」

 手汗は暑さじゃかかないんだけどね、僕はそう言って誤魔化した。


 窓の外はすっかり田舎の風景、田んぼの緑が目に優しい。

 生まれて初めて出来た恋人と生まれて初めての旅行……しかも1泊、否が応でも緊張する。



 そろそろ目的地に到着する所でこれからどうするか天音に訪ねた。


「どうする、まだ早いけどホテルに直行する?」

僕がスマホでネット検索をしながら天音に聞いた、今僕達は特急に乗って鬼怒川に向かっている。


「うーーん、そうだねえ、ああ、ここに行く?」

 天音は僕に写真を見せる……へえええ


「なんか聞いたことあるよ、良いね、行こうか」

 僕がそう言うと天音は笑顔で握っている手に力を込めた。



 鬼怒川駅の一つ前の駅で下車し、僕達は東○ワールドスクウェアに来た。

 世界の有名建造物がミニチュアとして建てられていて、1日で世界旅行が出来る場所との事。


 チケットを買い中に入ると日本、ヨーロッパ、アメリカ、アジア等、各ゾーンに分かれて各国の有名なミニチュア建築物が並んでいる。


 まずは現代日本ゾーンに向かった。


「へーー結構リアルだね、人も居るし」

 25分の1に統一されて作られている為にそれぞれの大きさの違いが分かる。


「スカイツリーってやっぱり大きい……」


「うん、東京タワーと比べると全然違うね」

 僕と天音は手を繋ぎ各建築物を見てまわる。家からここまでずっと手を繋ぎっぱなし、電車で物を取ったり、スマホを見たりするときに一瞬放すけど、磁石の様にまた繋ぐ、その繰り返し……


「朋ちゃん写真取ろう、そこに立って」

 スマホを構える天音、うーーん一緒に撮りたいんだけどなー。

 

 僕がミニチュアの横に普通に立っていると天音がスマホをから顔を上げて言う。


「違うよ朋ちゃんもっと手をこう足をこういう感じで、ああ、そうそう」

 いわゆるコンパニオン立ちと言う奴を僕に指導する。


「きゃああああ、可愛いいいいい、朋ちゃん可愛い過ぎるうううううう」

 天音は大はしゃぎ、でも天音の楽しそうな姿を見るのは僕も嬉しく、ついつい乗せられて色んなポーズをとっていると何処からか話し声が……


「ねえねえ、あそこの娘、超可愛くない? タレント? アイドル? 手前で写真撮ってる娘も可愛いよね、アイドル同士なのかな」


 ひそひそとそんな話し声が聞こえてくる。


 本当……僕の事はどうでも良いんだけど、天音は可愛いんだ、滅茶苦茶可愛いんだよ! 最近コンタクトに慣れてきたらしく、僕とデートする時はいつもコンタクトにしているので、昔僕が天音の事をつい「メガネブス」って言ったその面影は今は全くない。

 そう僕と天音最初からこんな幸せな状態ではなかった。


####



 僕と天音はネットで知り合い恋に落ちた。お互い顔も見えない、容姿も分からない状態で恋に落ちた。

 そして二人は兄妹で既に一緒に暮らしていた。漫画みたいな偶然……いやここは敢えて運命って言っておこう。


 でもネットと違い義理の兄妹関係は最悪だった。

 初対面で交わした言葉はお互いの容姿を傷付ける最悪の言葉だった。


「なよなよして女みたい」

「メガネブス」


 売り言葉に買い言葉とは言え、今思うと僕は最低な事を天音に言ってしまった。


 天音は僕と出会う前、ストーカーに遭った、いや遭ったらしい。

 らしいと言うのは今もあまり当時の事を話したがらない為だ。


 天音はそのショックで極度の男性不振となり、引きこもりがちに、さらにネット漬けになった。

 そして目も極端に悪くなり分厚いメガネを掛け、ついでに自分の可愛さも隠すようになってしまっていた。


 そんな天音に僕は初対面で暴言を……でも仕方ないんだ、僕だって傷付いたんだ。

 

 僕はこの容姿、この女の子みたいなこの容姿が嫌いだ。

 可愛い可愛いと言われる事に辟易していた。


 自慢じゃないが学校では男女から告白される。でもそれは僕の容姿を見て、僕の外見だけで告白してくる。

 僕の嫌いなこの容姿を見て告白してくる。そんなの断るに決まっている。


 でも断れば断る程、僕はより告白され、そして周囲からは嫌な奴として見られ僕は孤立していった。


 僕は内面を、この容姿じゃない僕の内面を見て欲しかった、そして好きになって欲しかった。


 そんな僕と天音、二人を結びつけたのはネトゲだった。相手の容姿が見えない、でもチャットやメッセージでお喋りは可能、僕と天音は容姿ではなくお互いの心で内面で恋に落ちた。


 

 天音は引きこもりの上、拒食症も併発していて出会った時はガリガリに痩せていた。僕は好きな人に会いたいと相談され……まあそれは最終的に僕の事だったんだけど、僕に会う為に天音の男性不振と拒食症を直す協力をする事になった。


 まず男性不振を直すべく僕は女装をする事に……いや仕方ないんだ、僕が男の格好をするだけで天音は喋れなくなるから……

 仕方なく女装で男の僕に慣れていって貰おうと、そしてご飯を作って天音に元の姿戻って貰おうと協力した兄として協力する事になった。


 その甲斐があって天音は僕が女装している時は普通に喋れる様になる。

 そして作るのが得意な僕の料理を食べてくれるようにもなり、一時期と比べてだいぶふっくらとなった。


 今は僕みたいな偽物ではなく、本物の美少女で一緒にいると僕だけじゃなく回りからも天音が可愛いって声が結構聞こえる様になった。


そんな事を経て僕と天音は付き合う事になり、今初めてのお泊まり旅行に来ている。




####



 写真を撮り終えると天音が僕に近付き再び手を繋ぐ。


「また朋ちゃんが可愛くて人が集まって来ちゃったね~~」

 天音は自分が可愛いって自覚はない、僕がいくら可愛いと言っても、僕と比べて謙遜する……


「天音の事も可愛いって言ってたよ」


「あははははは、朋ちゃんと比べられちゃったかな? 皆がっかりだね~~」


「そ、そんな事ない! 僕なんかより天音はずっとずっと可愛い!」


「朋ちゃん……」

 僕は天音を見つめる、天音の瞳がうるうるとしていた。可愛い、天音超可愛い


「何々? 二人見つめあって撮影? きまし?」

 ああ、またか……何かすると直ぐに注目される……僕達はそそくさとその場を後にした。


 外にいるといつも注目されてしまう。この間なんて母さんと天音と僕の3人で着物を着て銀座を歩いていたらめちゃくちゃ写真を撮られ、テレビの取材まで受けてしまった。


 ちなみに僕は今もそうだけどウイッグを付けてメイクもしている。


 銀座の時はメガネもしてかなり変装していたので多分バレていない。天音も普段はかなり度のキツイメガネをしているのでバレていないみたい。


 今日は遠出なのでそこまで変装はしていない。下手に写真を撮られるとネットで拡散されてバレる可能性があるので騒ぎになる前に逃げる事に……


「また朋ちゃん可愛すぎて注目されちゃったね~~」

 嬉しそうに天音が言う……違うよ、本当に可愛いのは天音……僕は本当は男……ウイッグやメイクでごまかしている偽物、そう言いたかった。いや……いつも言っている。


 天音は僕を男と認識していない、元々僕達はネットで出会ったのも原因の一つだろう。

 いつになったら天音は僕を男として認識して貰えるんだろう、ひょっとしてこのままずっと……


 僕はそんな不安な気持ちで天音を見つめていた。



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