第2話 不倫? 不倫の朝帰りなの?

 その人たちに気づいたのは、私がファミレスに避難(両隣が建て替えのための工事を始めたので、うるさくて避難)した次の日。

 解体作業の進行具合でもなんだか張り合っていて、ばかばかしい。と思いながら来て、カウンターに座り、いつものようにコラム付けする記事を読もうとした時、まだ、九時になっていない、ほとんどが、仕事なさげな有閑倶楽部の方たちが朝食をとっているような、そんな平日の朝。

 その人たちはやってきた。

 カップルというにはよそよそしくて、二人ともスーツを着ているので、これから会社へ行こうというのだろう。上司と部下? そんな感じだろうな。女性は会社の事務スーツのようだ、襟に白い淵のついている奴で、タイトスカートだ。

 ドリンクバーご使用らしく、あたしの目の前を通った。あたしは、ここでは某通信講座を勉強していることになっている。普段はPCを使用しているけど、さすがにファミレスに持ってくるわけにもいかないので、携帯で記事を読み、夜帰ってからコラムを書くつもりだった。でも、さすがに、ずっと携帯をいじっている客を置いておくのもというので、サンプルで取り寄せた教材を持ってきて、まぁ、記事の下書きを書くついでもあるので、見た感じ、年いって頑張って勉強しているんだろう。というていには見えるだろう。

 ということで、そのサンプルの本を持ち上げて二人を見た。暗記しているていで(笑)。

 男のほうは五十に入ってないかな、いや、最近の人は年齢不詳だからなぁ。特に、きれいな人ってのはよくわからない。二人とも、きれいな感じではあるけど、女のほうは精一杯隠している者から察して、四十半ばかな、もし、三十であれだと、ちょっと考えたほうがいいかも。後ろから見えるそのわきの肉。(人のことは言えませんよ、ええ、いえませんけどね)

 男がグラスを持ってコーヒー?  と聞いたら、女は首を振って、

「ハーブなの」

 とくすっと笑う。

 一瞬寒気を感じたのは、この女に対してなんか恨みがあるとかなんだろうか? いや、別に知った人ではないんだが、別にいいじゃないか、四十女が(決まったわけではないが)ハーブティーを飲もうがどうでも。

 女はカップを手にしてハーブ用のポットに慣れた手つきでダージリンとオレンジペコを入れた。

「おしゃれだね」

 ……うーん。

 男の言葉にあたしは本を下に置いて俯いた。

 笑いがこみあげてくるのはなぜだ? ……そうか、ドラマを見ているような気がするからだ。あの二人って、もしかして朝帰り? 不倫で朝帰りとか? これからご一緒出社??? ほかの人に見つかった時には、ちょうどそこで会って、時間があったんでファミレスでお茶してたんだって感じ?

 あたしはまた顔を上げた。

 彼らはバイキングメニューではなくドリンクだけを注文したようだった。

 BGMは朝のさわやかさを強調しているのに、あの二人の間がやけに夜っぽく見える。

 彼らの席は、以前喫煙席だったのを、全席禁煙にしたため、できた少し周りと隔離できる様なガラス張りの空間になっている。そして、そこだけヤニ対策に張った壁紙が茶色で、夜の雰囲気になっている。様に見える。

 何かを話しているが、笑えるような話ではないらしく、かといって、別れ話のような感じでもない。

 女が時々頷き、何かを言うと、男は一度頷く。

 それを繰り返すうちに、男が腕時計を見た。

 立ち上がると、スマートに伝票と取り上げる。と、女にそれを差し出しながら先を歩き、

「経費で落とすように。それから、今日の午後の接待、」

 と足早に目の前を歩いて行った。

 女は黙って伝票を受け取りながら、分厚い手帳を開き何やら対応していた。

 完全に上司と部下か。本当に朝早く来たから一杯飲もう。という感じかぁ。

 まぁ、もし、不倫の朝帰りなら、目立つファミレスには来ないわなぁ。

 そう思ってみれば、あの男の人、このあたりにあるなんかの会社の社長だったような、よく解らんが、社屋の落成式で餅を撒くんで来てください。って挨拶来たような。このご時世に珍しい、というと、珍しいから話題になるでしょ? と言ってたなぁ。

 まぁ、不倫だのって話がそうそう転がって、それに遭遇するなんて、こんな田舎じゃないかぁ。

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