少年期[1017]芸がない

(本当に姿、気配……匂いまで隠すのが上手い、なっ!!!!)


背後から迫る爪撃に対し、ルウナは拳撃を上手く当ててなんとか対応。


そこから追撃したいルウナではあるが、イレースタイガーは奇襲が失敗したと解ると、また直ぐに姿や存在を隠した。


(……虎でありながら、なんとも情けない戦闘スタイルと思うべきか……それとも、非常に野性的かつ理性的な戦闘スタイルと賞賛すべきかっ!!!!)


今度は正面から魔力による爪撃刃が放たれた。


ルウナの腕力であれば弾き飛ばすことも可能だが、全力で前方に転がり、爪撃刃に当たらない様に回避。


すると、先程までルウナがいた場所に、鋭い爪撃が放たれていた。


「っ…………」


また対応されてしまった。

だが、イレースタイガーは苛立つことなく、やけになって真正面から挑むことはなく、再び姿と存在を隠し、森に紛れた。


(なるほど……これは、中々に嫌らしいな)


イレースタイガーほどの攻撃力を持つ敵からの攻撃を予想し、対応するとなれば相当精神が擦り減らされる。


最初の一撃でカウンターを取り、上手く逃げられない様に脚の骨でも折ることが出来れば最良だが、イレースタイガーはパワーと隠密だけが取り柄の鈍間ではない。


(しかし…………なんとなく解ってきた、なっ!!!)


今度はルウナの頭上から飛来。


紙一重のタイミングで回避に成功し、ルウナは回避しながらも脚で斬撃刃を放った。


「ふむ。下手な体勢で放った斬撃刃では、無理だったか」


血が零れれば、それだけで匂いによって居場所を特定しやすくなる。

だが、イレースタイガーは瞬時に全身に魔力を纏うことでルウナの脚による斬撃刃をなんとか防ぐことに成功。

そして……また姿、存在を消した。


(判断速度も速い、か……いやはや、本当にスリルがある戦いだな)


個人的には、どうせならもっとバチバチに戦いたいという思いを持つルウナ。


しかし、イレースタイガーが放つ爪撃は、そこまで防御力が高くないルウナが食らえば……死にはせずとも、手痛いダメージを食らってしまうのは確実。


だからこそ、姿存在を隠して仕掛けてくるイレースタイガーとの戦いは、正面からバチバチに戦り合う戦いとは別のスリルがある。

当然……ルウナにとって、それは闘争心を更に燃え上がらせるガソリンでしかない。


「っ!!! 疾ッ!!!!!!!」


「っ!!!!????」


今度は背後から襲撃。


今回も無駄のない脚運びからの攻撃だが……ルウナはイレースタイガーに負けない反応速度で躱しながら、脚に炎を纏い、爪撃を繰り出した右前脚に叩きこんだ。


「芸の無さが仇となったな」


感触的に、骨を砕いた。

まだ完全な勝利は手に入れてないものの、ルウナの顔に薄っすらと笑みが零れた。


何度か襲撃を受ける中で、ルウナはイレースタイガーが必ず自身の死角から攻撃してくることに気付いた。


再度魔力による爪撃刃を放たれては対処で精一杯となってしまうが、イレースタイガーがフェイクを使用せず背後から攻撃を仕掛けてくれたことで、カウンター一択という選択肢が取れた。


これまで放たれた攻撃が、どれも右前脚から放たれた爪撃ということも覚えており、ルウナのカウンターは見事に刺さった。


「っ!!」


「……ふっふっふ。やはりスキルも大事だが、肉体も大事だ、なッ!!!!!!」


まだ自分の力を信じて姿、存在を消して森に紛れたイレースタイガーだったが、右前脚の骨が折られたことで、微かに足音が聞こえるようになった。


獣人族であるルウナは嗅覚だけではなく、聴覚も優れている。


聞こえた足音は本当に微かな音ではあったが、焦りから上手く殺意を消せず、それもあって今度は左前脚から爪撃が繰り出されると読み切り……骨を炎蹴で粉砕。


「ッ!!!???」


「終わりだッ!!!!!」


「ゴっ!!!!!?????」


最後に体を一回転させ、勢いを付けて踵落としを脳天に叩きこんだ。


イレースタイガーは咄嗟に魔力全開状態で防御を固めるも、ルウナはルウナで炎を纏うだけではなく、脚力を強化する疾風のスキルも同時併用。


見事、脳天をカチ割ることに成功した。

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