兄の物語[93]時間マウント?

「バルガス、解ってるでしょうね」


「わ~かってるっつ~~~の。そう何度も言われなくても喧嘩しねぇっての……向こうから喧嘩売ってこねぇ限り」


ペトラたちとしては、これまでもう何度も注意してきたか分からない。


にもかかわらず、バルガスは何度も何度も……数えきれないほど絡んできた冒険者たちと喧嘩に発展した。


「……本当に解ってるのか怪しいわね。というか、向こうから喧嘩を売ってきたとしても、上手く流すのよ」


「えぇ~~~~~。俺に向けて喧嘩売って来たなら、それは買わなきゃあれじゃねぇかよ。それに、自分以外をバカにするような喧嘩の売り方されたら、お前らだってつい買っちまうだろ」


「「「…………」」」


普段からバルガスが喧嘩しないか心配してる三人だが、そんなバルガスの言う通りクライレットとペトラとフローラも、自分以外のことをバカにされれば……容赦なくその喧嘩を即買い決定し、しっかりと勝利を収めてきた。


「と、とにかく! 自分からそういう事はなしないように」


「へいへい、解ったよ」


自分から相手に絡んだことはないと言いたげな顔のバルガスだが……過去に、余計な一言を口にし、それが相手の逆鱗隣りをなぞって喧嘩に発展した例がある。


当然、クライレットたちはそういった例を覚えてるため……やはりバルガスに対するそういった信頼は殆どなかった。



「おっ、クライレットたちが来たぜ。今日も訓練か?」


「ご苦労なこったな」


「バ~~~か。俺らとは違くて、あいつらはガチでAランクを目指してんだよ。そんな連中が休みの日も強くなるのに時間使ってんのは当然だろ」


「んだよ、お前あいつらのファンなのか?」


「別にファンとかじゃねぇけど、単純に凄ぇし……あいつら、普通に良い奴だろ。リーダーのクライレットは貴族のガキだけど、全然威張った態度とか取らねぇしよ」


「「「それは確かに」」」


四人が冒険者ギルドに入ると、ギルドのロビーにいる同業者たちの視線が集まる。


これにはもう四人も慣れているため、特に気にすることなく受付嬢に声を掛ける。


「すいません。用があって、十時までにギルドに来たのですが」


「あっ、はい! かしこまりました!!」


クライレットたちが、十時までに冒険者ギルドに来た。

本日出勤の受付嬢たちはその意味を理解しており、直ぐに四人を部屋に案内した。


「こちらです」


「ありがとうございます」


今日、Bランク昇格試験の説明を受ける者たちが集う部屋に入ると…………まだ、誰一人としていなかった。


「おっ、どうやら俺らが一番乗りみてぇだな」


「二十分以上も前に到着したからね」


「……つか、やっぱり早過ぎたんじゃねぇの?」


「喧嘩っ早い受験者がいた場合、そういうので喧嘩を売られるでしょう」


「あぁ~~~~……だ、な。似た様な記憶があるわ」


過去の昇格試験だけではなく、大規模な討伐を行う際にギルドの部屋で集まったりする時……そういった場面で、何度か面倒な絡まれ方をした過去がハッキリと掘り起こされた。


「早い時間に来るって、そんなに偉いことかって思うけどな。そりゃ集合時間までに間に合わねぇのはあれなんだろうけどよ」


「バルガスにしてはまともな事を言うわね」


「俺だって常識ぐらい弁えてるっての。つかさ、そういう時間でグチグチとマウント? 取ってくるやつほど、普段から集合時間より早く来てんのか、ってツッコみたくなるんだよな~~~」


(……それは解らなくもないわね)


人は見かけによらない。

それを表すパーティーのリーダー……そのリーダーの弟を見たことがあるため、否定は出来ない。


しかし、時間関係で絡まれた面倒な連中たちを思い出す限り、普段から集合時間前より最低でも十分前には到着してる様な者は誰一人いなかった。

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