兄の物語[92]したくてしてる訳ではない

「クライレットさ~~ん、ギルドから手紙が届いてます」


「ありがとうございます」


クライレットたちがアインツワイバーンを討伐し、ドーウルスに戻って来てから約十日後……四人が泊っている宿に、ギルドから一通の手紙が送られてきた。


「早く空けようぜ!!!!」


「落ち着きなさい、バルガス。とりあえず部屋に行きましょう」


手紙に書かれてある内容は、ある程度予想出来る。


しかし、その内容を他人に知られるのは……あまり好ましくない。

ペトラが神経質なタイプという訳ではなく、バルガスもその気持ちは解らなくないため、素直に従った。


そして部屋に戻り、クライレットは素早く封筒の封を開けた。


「………………どうやら、Bランクの昇格試験を行うにあたって、試験内容が決まったらしい」


「ッ!!!!!!」


まだ、クライレットは試験内容をギルドが決めた、としか口にしてない。


にもかかわらず、バルガスの体からは溢れんばかりの闘志が零れだした。


「ちょっ!! 落ち着きなさいって言ってるでしょ!!!! このバカ!!!!」


隣にいたペトラは思わず転びそうになり、珍しく大きな声で暴言をぶん投げた。


しかし、よっぽど試験内容が決まったという報告が嬉しかったのか、全く暴言が気にならなかった。


「ペトラもちょっと声が大きいよ~~~」


「うぐっ! ……それもそうね。それで、クライレット。他には何が書いてあるの」


「二日後に午前十時までにギルドへ来てほしいとのことらしい」


「……もしかして、試験内容は書かれてないのか?」


「うん、そうだね」


送られてきた手紙に試験内容が書かれてない。

それを知ったバルガスは……テンションがガタ落ちし、露骨に落ち込んだ。


「めんどくさいわね、このバカ……今までも、試験内容はギルドの部屋で教えられたでしょう」


「それはそうかもしれねぇけどよぉ~~~~。はぁ~~~~~~……なんでサクッと教えてくれねぇんだろうな」


「平等性を保つ為じゃないかな」


「平等性? 別に他の連中にも教えれば良い話じゃねぇか」


「かもしれないけど……受験者の縁とかを考慮すれば、対策出来る範囲が変わるかもしれないでしょ」


クライレットたちはドーウルスで活動を始めてまだ一年も経っていないが、元々グレイスたちというAランク冒険者の知り合いがおり……ゼルートの家族ということもあって、実はひっそりとドーウルスの領主もクライレットたちの事を気に掛けていた。


Bランク冒険者のガンツとも面識があり、クライレットたちの絡んできた者たちを徹底的に潰すのではなく、時折諭すこともあって……同世代の冒険者たちと親しい者がいない訳でもない。


「出来ること、ねぇ。そんなに変わらねぇとは思うけど……まっ、二日後には知れるんだもんな。それまでの我慢だな」


「そういう事だね。それで、僕たち以外の受験者は他に三人いるらしいよ」


「私たち以外にも三人ね。豊作、って自分で言うのもあれだけど、そう言っても良さそうね」


当然ながら、ランクが上がるごとに昇格試験を受ける資格を得られる者の数は減っていく。


「そうだね…………さて、バルガス」


「ん? なんだ、クライレット」


「先に行っておくけど、他の受験者と喧嘩しちゃだめだよ」


「おいおいクライレット~~~、俺はそんなにガキじゃねぇぞ」


心外だ、といった表情を浮かべるバルガスだが、四人の中で……四人とも他の冒険者と衝突した経験はあるが、衝突回数は圧倒的にバルガスが多い。


それは紛れもない事実だった。


「うっ、そんな目で見るなよぉ。俺だって、喧嘩したくて喧嘩してる訳じゃねぇんだぞ」


「あら、本当かしら? とても信じられないわ」


「うっせ!!! そりゃ戦りたい奴はいるけどよ、普通に模擬戦か試合で戦れりゃ良いと思ってるに決まってんだろ」


(まぁ、嘘ではないだろうね。喧嘩を楽しんでる部分はあるだろうけども)


全員が合格すれば、これからも付き合いのある同レベルの同期になるかもしれない。

それを考えれば……クライレットとしては、あまりそういった流れになってほしくなかった。

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