兄の物語[85]タダ酒

「アインツワイバーンを討伐しました」


街に戻ったクライレットたちは直ぐにギルドへ向かい、アインツワイバーンの討伐を報告。

勿論、魔石とアインツワイバーンの牙や鱗を提出し、嘘ではなく本当であると証明。


ここで、未だにクライレット達の事を嫌っており、どうせ別の魔物の素材をそれっぽく見せてるだけだろ……と考えるのは、もう正真正銘の救いようがないバカ。


「こ、これは……ほ、本当にアインツワイバーンの、魔石、ですね」


「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」


ギルドの受付嬢は鑑定のスキルを有しているか、冒険者が提出した素材を観る時は鑑定の効果が付与されたマジックアイテムを使用する。


中にはスキルなどなくとも、これまで見て触ってきた魔物の素材であれば、どんな魔物の素材なのか直ぐに把握出来る受付嬢もいる。


「えっと、素材の買取の方は……どういたしますか?」


「鱗や内臓の買取をお願いします」


魔石、牙、爪以外の素材を売却。


売れば大金になるのは間違いないが、鱗や内臓などだけでも相当な金が入ってくる。


「兄ちゃんたち!!! よくやってくれたな!!!!! お前ら、これから呑むぞ!!!!!!!」


「「「「「「「うおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」


何人もの冒険者を殺してきたアインツワイバーンが討伐された。


それを聞いた冒険者達……だけではなく、ギルド職員っちまでもが宴会の準備を始めた。


「……クライレット、どうするの?」


「どうするも何も、どうやら僕たちが主役の用だし、既に日は落ちかけてる」


「タダ酒呑めそうだし、良いじゃねぇかペトラ!!!!」


「タダ酒タダ酒~~~~」


「はぁ~~~……そうね。タダで呑めるなら、それはそれで良いわね」


冒険者たちが奢ると宣言したわけではないが、クライレットたちの席には主にベテランの冒険者たちが何度も訪れ、杯が空いていると解れば、直ぐにエールを追加注文して奢っていた。


「やっぱアインツワイバーンは強かったか?」


「えぇ、強かったですよ。最後……油断して近づいていれば、嚙み千切られていたでしょう。単純な強さだけではなく、執念も凄まじかったです」


「ひゅ~~~~、さすが亜竜っつってもBランクか。いやぁ~~~、マジで兄ちゃんたちがぶっ倒してくれて助かったぜ!!!!」


ベテラン達は……約二十体のCランクモンスターが現れた、といった内容であればまだ討伐に希望が持てる。


人によって意見は分かれるところだが、少なくともこの街のギルドを拠点としてるベテラン達は同じ考えだった。


「……チッ!!!!」


ただ、まだまだ歳若く、クライレットたちと同じぐらいの年齢であるルーキーたちにとっては、非常に面白くない。


先日の一件でクライレットたちに絡んだバカたちは先輩たちから優しく諭された結果……一応、納得はした。

納得はしたが、だからといって一気に人としての心が成長するわけではない。


(俺らとあいつら……何がそんなにちげぇってんだよ)


宴の場ということもあり、ルーキーたちはタダ酒タダ飯が食えるからという理由で、ギルド内に併設されている酒場で呑んでいるが、相変わらずクライレットたちの事が気に入らない様子。


(ったく、あいつらは…………しゃあねぇな)


バカだけど可愛い後輩たちの為に、彼らの視線や感情に気付いたベテランの一人が動いた。


「なぁ、クライレット。おっさんがこんな事訊いてもあれだけどよ、なんでお前らそんなに強いんだ」


「そうですね……簡単に言うと、上だけを見て活動してるからかと」


「横と下を意識しても仕方ねぇってことか?」


「もっと正確に言うと、上に関しても下手に意識しても仕方ないと思ってます。僕の……僕たちの目標はAランク冒険者になって活躍することなので」


その目標以外を気にしても仕方ない。


そんなクライレットの心構えに、質問したベテランの男は……嫉妬心を向けていたルーキーたちだけではなく、自分たちとも文字通り器が違う男だと感じ、感嘆するしかなかった。

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