兄の物語[56]レース
「倒すのが難しそうではあるけど、なんとかしないとね」
「あそこから離れてくれれば一番良いんだけど…………あっ」
「? もしかして、何か良い案でも思い付いたのかしら」
「良い案と言えるかは解らないけど、まだ試してない事があったよ」
何をまだ試していなかったのかをペトラに伝えると……一応納得した表情を浮かべるものの、僅かに不満げな色が浮かんでいた。
「ねぇ、もしかしてたけどそれ、一人で実行するつもり?」
「そうすれば、あの大蛇が追いかけてくる間にペトラが回収出来ると思うんだけど」
「…………」
まだ試していなかった方法を取れば、おそらく水漣華であろう華を回収することが出来る。
しかし、大蛇を引き付けるクライレットにリスクがあるのは間違いない。
(いつも通り、そんな危ない事は却下させたいけど、腹をくくるしかない状況ね)
冒険者は冒険してはならない。
その考えが強いペトラだが、それでも冒険しなければならない時がある事は、冒険者として活動を始めてから……嫌というほど体験してきた。
「……はぁ~~~~、解ったわ。でも、死んだら許さない。それと、二人がいる方向に逃げること。ていうか今のうちにサインを送っておきましょ」
「そうだね」
離れてはいるが、バルガスがペトラのハンドサインをしっかり確認し、二人の現在地から一番近い陸地へと移動。
「もう一度言うわ。死んだら許さないから」
「あぁ、解ってるよ」
クライレット自身……危険度的には、邪剣を有するリザードマンジェネラルに挑むよりも上だと解っていた。
(感覚を、研ぎ澄ませないとね)
意を決し、大蛇がいる場所まで潜水。
(どう視ても、ランクCは確実だね)
二人が見た大蛇の正体はアクアヴァイパー。
長時間水中に潜り続けることが可能な青色の鱗を持つ大蛇。
「…………」
自身に迫る人間という生物に気付くも、まるで興味がない態度を崩さないアクアヴァイパー。
人間を食べることもあるが、水漣華が生えている場所を気に入っており、自分の憩いを邪魔しなければ人間が近づいて来ようが、どうでも良い。
「っ……ッ!!!!!!」
しかし、自分のことを攻撃してくるのであれば、話は別。
(さて、ここからがしんどい、ぞっ!!!!!!)
ウィンドランスをぶつけられたアクアヴァイパーはあからさまに表情を歪め、のっそりとその場から動き出し……全速力でクライレットに迫る。
二人の予想通り、大蛇……アクアヴァイパーの遊泳速度は人間である二人よりも速い。
だが、風を両足に纏い、水中を蹴って移動するクライレットは……ギリギリ、アクアヴァイパーとの距離を保ちながら移動することに成功していた。
「ッ!!!!」
(っと、くっ!! これは、中々スリルが、あるね!!!)
当然ながら、ただ追うだけではなく、アクアヴァイパーは口からいくつもの水弾を放ちながら迫っていた。
クライレットも魔力感知を最大限まで高めながら、なんとか最小限の動きだけで回避していく。
今のところ全ての水弾を回避出来ているが、運が良かっただけと言える場面が幾つもあった。
(っ!!?? それは、不味いッ!!!!!!!!)
これまでの比較的小さな水弾ではなく、それ一つで確実に仕留める為の巨大な水弾が放たれた。
(この距離ならっ!!!!)
体の向きを反転させ、迫りくる巨大な水弾に両足を向け……脚に纏う風を増大させ、全力で蹴った。
「っ!!!!???? っと、っとっとと……あ、危なかった」
「おい、大丈夫かクライレット!!!!」
「あぁ、問題無いよ。ダメージも……大してない」
巨大な水弾に全力の両足蹴りを叩き込み、反動も利用してそのまま水中から地上に飛んだクライレット。
多少のダメージは想定しており、予想通りノーダメージとはいかなかったが、これから戦闘を続行するのに支障はなかった。
「シャァアアアアアアアアッ!!!!」
(とりあえず、時間を稼がないとな)
わざわざ焦ってミスを犯す必要はない。
その考えはバルガスとフローラにも共有されていた。
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