兄の物語[50]良い顔をしてる

「ちなみになんですけど、ご予算はどれくらいですか」


「これぐらいよ」


ペトラはアイテムポーチの中から一つの袋を取り出し、テーブルの上に置いた。


「失礼します……っ!!!???」


袋の中に入っていたのは大量の金貨……ではなく、白金貨。


「えっと……こ、これからの生活は、大丈夫ですか?」


師であるドゴールがそれなりに高名な鍛冶師であり、顧客もいるため弟子であるパラはこれまでに大金を見る機会は何度もあったが、目の前の袋に入った大量の白金貨は……これまで見てきた大金の中でもトップクラスの額だった。


「えぇ、大丈夫よ。少し前に割の良い受けて達成することが出来たから」


「ちょっと面倒な依頼だったけどな」


「なるほど…………これだけの金額があれば、素材を取り寄せるのに必要なお金を考えても、要望通りの得物は造れるかと」


造るのはパラではなく師匠のドゴールであるため、絶対とは言わなかった。


それから数十分、特に同じハーフドワーフということもあって、フローラとパラは話が盛り上がった。


「あっ、多分作業が終わりましたね」


奥へ向かったパラは師に上客が来ましたよ~~~と伝え、仕事に一区切りついたドゴールを無理矢理客間に連れてきた。


「……ほ~~~ぉ、なるほどな。金があるだけじゃなく、ちゃんと上客みてぇだな」


気だるげな表情をしていたドゴールは口端を吊り上げ、椅子にドカッと腰を下ろし……依頼主であるクライレットたちをジロっと視まわす。


「…………Aランクの怪物であっても斬り合える細剣を造ってほしい兄ちゃんは、お前さんか」


「はい。クライレットと申します」


「クライレット……つ~と、あのゼルートの兄か」


「えぇ、その通りです」


(……ふっふっふ。良い顔じゃねぇかおい)


ドゴールはゼルートが同業者にクライレットの話をした内容を、又聞きしたことがあった程度しかクライレットの話を知らなかった。


その話はそこまで盛られてはおらず、優秀な兄がいるといった程度。


(実際のところは優秀過ぎる、なんて言葉に収まらない弟がいたら……生半可に優秀だと逆に辛くて、根っこの部分は黒いかもしれねぇ……なんて勝手に想像してたが、どうして真っ直ぐな奴じゃねぇか)


ほんの少しでもゼルートの話が出れば、黒い部分が顔……もしくは雰囲気に出るかもしれない。

そう思っていたドゴールだったが、クライレットの表情に現れたのは、そんな優秀過ぎるなんて言葉では収まらない弟を自慢する気持ちだった。


「属性は風と火、で合ってるか?」


「はい」


「これが支払いできる金額です」


「…………良いじゃねぇか。良くこんな大金を集めたな」


優秀な冒険者であっても、ランクによって受けられる依頼に制限はある。


白金貨数十枚というのは、優秀なだけでは中々稼げない金額であった。


「しっかし、こんだけ使える金があるなら……Aランクの素材を取り寄せるのもありだな」


「「「「っ!!!!」」」」


もしかしたら、と話していた内容がドゴールの口から零れた。


「風と火だろ。なら、やっぱりAランククラスの火竜と風竜か」


「……あの、ドゴールさん」


「ん? なんだ」


「Aランクの素材を使ってくれるのであれば、それはそれで嬉しいんですが、それで足りますか?」


当たり前だが、白金貨数十枚は大金である。

しかし、Aランクの魔物の素材はどれも超高価。


白金貨を数十枚用意していたとしても、足りるか否か本気で心配になる。


「安心しろ。細剣一本分の素材なら、そこまでぶっ飛んだ額にはならねぇ。Aランククラスの魔物の素材に見合う鉱石を用意したとしても、足りるだろう」


現在クライレットの愛剣に使用されている細剣のメイン素材であるミスリル鉱石。


高ランクの素材にも見合う鉱石なのは間違いないが……Aランク魔物との戦いであっても、全信頼を寄せて戦える相棒……となると、更に相応しい鉱石が存在する。


「素材を取り寄せるのに少し時間が掛かる。とりあえず……二十日後ぐらいにまた来てくれ」


「分かりました」


ミスリル製の細剣はまだまだ現役。

変に新しい武器の完成を焦ることなく後日、クライレットたちは水漣華の採集へと向かった。

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