兄の物語[40]釣れはする

「……バカ過ぎる方法よ」


「確かにバカかもしれないね。でも、グラッシュバッファーって肉食だったよね。それなら、良い肉の匂いに惹かれると思うんだよね」


そこだけを考えれば、一応間違った組み合わせではない。


ただ、ドーウルスの周辺に生息している魔物たちの中で、肉食なのはグラッシュバッファーだけではない。

そんな方法でグラッシュバッファーをおびき寄せようとすれば、他の魔物までおびき寄せてしまう。


「クライレット、それでグラッシュバッファー以外の魔物が寄ってきたらどうするの?」


「そん時は俺に任せろ!! 全部ぶっ飛ばしてやるぜ!!!!」


良い笑顔で俺に任せろと宣言するバルガス。


仲間の実力を知ってるからこそ、信用は出来るが……少々イラっとする女性陣二人。


「ありがとう、バルガス。まぁ、とりあえず試してみる価値はあると思うんだ」


「……分かったわクライレットがそう言うなら、乗ってあげる」


「私も構わないよ。正直、面白そうだとは思うからね」


おびき寄せるなら、ただ肉を焼くだけでも良くね? と思うかもしれないが……そこにスパイスを加えればどうなるか。


偶々野営中に寄ってくることはあれど、実際に肉にスパイスを使用して魔物をおびき寄せた者は殆どいない。



そして翌日、クライレットたちは本当にオークの肉に塩胡椒をふりかけ、じっくりと肉を焼き始めた。


いつも通りの中火ではなく、弱火でじっくりと……魔物がしっかり寄ってくるように、時間を掛けて焼く。


「…………」


「どうしたの、ペトラ。全然元気がないけど」


「昨日は確かに一理あるというか、実際にやってみるのも悪くはないと思ったけど……いざ実際に行ってみると……ちょっとバカらしくなってきたというか」


予定通り、ただオークの肉を焼くだけではなく、塩胡椒を振りかけて匂いによる刺激を上げている。


ちなみに……今回の探索で使用する塩胡椒は、しっかりパーティーの貯金から引いている。


まだ暫定的なランクはCだが、四人は比較的月の稼ぎがそこら辺のCランクよりも多いため、一応こんなバカな実験をしても問題無いぐらい貯金がある。


「んだよペトラ~。結局やることに賛成してくれたじゃねぇか」


「えぇ、そうよ。だから今更止めましょうなんて否わないわよ。ただ、本当にバカな実験よね~って思うぐらい別に

良いでしょ」


「なんだよ~~、結構良い案だと思わねぇか?」


「グラッシュバッファーがグルメな魔物なんて聞いたことがないからね」


自然を生きる魔物たちにとって、自分たちが食べる食料の味など……そこまで大した問題ではない。

確かに食べるなら美味い物の方が良いかもしれないが、だからといってわざわざそういった食料だけを狙いはしない。


「ねぇ、クライレット。もしかして、今回の策でグラッシュバッファーが釣れたら、ギルドに報告するの?」


「ん~~~~……いや、特に報告はしないかな。今回の方法で釣れたとしても、特に塩胡椒を使ったからっていうのが大きな要因ではないと思うし」


クライレットとしては、本当に面白そうだからという思いが強かったので、バルガスの案に乗って実行しただけ。


ただオークの肉を焼くだけでも釣れる可能性はあるため、特に釣れても報告するつもりはない。


「っ……早速釣れたみたいね」


「グラッシュバッファーじゃないけど、割と寄ってくるのは早い……塩胡椒効果は一応あるのかもしれないね」


最初のお客様はブラウンウルフ。

一体ではなく複数体でのご来店。


しかし、ブラウンウルフくれてやるつもりは一切無く、ペトラが矢を放って瞬殺。


「クライレット、これはどうするの?」


「その死体を持って帰るだけで満足されたら困るから、一応回収しておこうか」


肉を焼き、解体してる中で襲われるのはさすがに困る為、解体は後回し。


数分後、次の客はグラッシュバッファー……ではなく、ヒポグリフ。

かなり本気でバルガスとペトラが相手をし、なるべく時間を掛けずに討伐。


それからも何体かの魔物が匂いに釣られてやって来たが、一つ目の肉が焼き上がるまでにグラッシュバッファーは現れなかった。

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