兄の物語[33]堕ちる前に

「あんたが、噂のパーティーのリーダーか……よろしく。俺はテックだ」


「こちらこそよろしく、一応改めて、僕はクライレットだよ」


差し出された手を力強く握り返す。


(なるほどな……こいつは、あいつらが強烈に嫉妬しちまうのも、なんとなくだから解るな)


テックはある程度クライレットたちがどういった容姿をしているのか聞いていた。

そしてクライレットがリーダーであることも知っていたが……本人達と初めて出会って、良く解った。


クライレットという青年には、他者から誰がリーダーなのかと教えられなくとも、自然と解ってしまう風格を持っている。

加えて、そういった風格だけではなく……よ~~く視れば、その強さも頭一つか二つ抜けているということが解る。


(というか、あいつら良くこんな連中に絡んだもんだな。絡むにしても、もうちょい調べてればいいもんを)


テックもどちらかと言えば荒いタイプの冒険者ではあるが、それなりに歴もあるため、ある程度の知識は身に付いている。

そんなテックから視て……クライレットたちは、明らかにダル絡みをしてはいけないメンバーだった。


「ねぇ、良かったら皆でご飯を食べない」


ミルシェの提案を断る者はおらず、テックたちとクライレットたちは一緒に夕食を食べることになった。


そして頼んだメニューが到着してから数分後、ペトラが気になっていた事についてミルシェに問うた。


「ミルシェ、もしかしてなんだけど、この前の一件に関して何かしてくれた」


この前の一件が何を察しているのかミルシェは直ぐに察し、首を横に振った。


「私は何もしてないよ。それを何とかしてくれたのは、テックたちよ」


「っ!? そ、そうだったのね……ありがとう、と言いたいのだけど……私たち、初対面よね?」


正直……本当に嬉しいと、有難いと思っている。

クライレットが五人を連続で倒していこう、バカが絡んでくることはなくなったが、視線が鬱陶しいことに変わりはない。


そんなストレスが溜まる要因を何とかしてくれたテックたちには感謝しかないが、何故会って話したこともない自分たちの為に、絶対に面倒である事を行ってくれたのか、疑問を持たずにはいられない。


「確かに、私たちは初対面です」


「だね~~。ゼルートの関係者だってことも知らなかったよ~~」


「俺としては……そういった関係はどうでも良く、ただ……見てられない、という感覚などがあった」


「あぁ~~~、あれだよ。クライレットはさ、絡んで来たあいつらをコテンパンに倒すだけじゃなくて、説教をかましてやったんだろ? 俺は歳下や同年代の奴らにマジな説教はされたことはねぇが、それを食らった奴は知っててな……あいつらが悪いことに変わりはねぇんだけど、ちょっと放っておけなかったんだよ」


マジ説教を食らった人物とは、当然ダンのこと。


あれはダンだからこそ、今では一応真面目に上を目指しているが、基本的に心がバキッと折れるか……変な方向に思考が向かうようになってしまってもおかしくない。


ゼルートといった怪物やクライレットのような傑物とは比べられないが、それでもあの歳でそれなりに戦えるという事実を考えれば、間違いなく優れた冒険者であるのは間違いない。


「クライレットとあいつらの戦いを見てたルーキーも、圧倒的な差を見せられた上に、心の内を見透かされて……思いっきり見えない何かにぶっ叩かれてた」


「先輩として、と言えるほど経験は積んでいませんが、まだ完全に折れてしまうには早いと……まだやり直せると思い、声を掛けました」


「そうたっだのね……本当にありがとう。当分の間はここを拠点に活動しようと思ってたから、テックたちのお陰で本当に活動しやすくなったわ」


「ペトラの言う通りだ、感謝する。お礼としてはあれだけど、今日は好きなだけ食べてくれ」


当然、それはお前たちの分は僕たちが奢るという意味であり、腹ペコだったテックとヒルナは遠慮なくお言葉に甘えた。

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