少年期[996]権利はあった筈

SIDE 蒼天の翼


「……フィンザス、本当に良かったのか?」


「何がだい、ドルク」


かつて失った仲間の一件に……一応区切りが付いた蒼天の翼。


彼等はこれ以上アレナがいる街に留まるのは良くないと思い、その日の内に別の街へと向かった。

そして現在、丁度良い場所で野営を行い、リーダーであるフィンザスと熊人族のドルクが見張りを行っている。


「アレナのこと……好きだったんだろ」


「はは……うん、そうだね。好きだよ、今でも……まだ、その想いは消えてない」


「それなら、その想いぐらいは伝えても良かったんじゃないか?」


ドルクから見て、フィンザスは自分に対して少々完璧主義が過ぎるところがあると思っていた。


冒険者同士の恋愛に関してはあれこれジンクスがあるものの、ドルクから見てフィンザスとアレナはお似合いだった。


ただ……フィンザスは細かく深く、どうすればアレナを守れるかを真剣に考えていた。

まだ付き合ってもいないのに、そこまで細かく考えるのは早くないか? とツッコみたい部分はあるものの、ドルクや他のメンバーもそこがフィンザスらしいと思っている。


(あれだけ他の女たちから告白されたりアプローチされたり……挙句の果てには貴族令嬢からそういうアプローチもされた事があるのに……全部断って来たんだ。俺なら、よろしくねぇってのは解ってるけど、一回ぐらい誘惑に負けそうだぜ)


アレナを必ず助け出す前に国外で活動していた時もその内面に、イケメンフェイスに惹かれる女性は後を絶たなかった。

どんな時も……何処でも、リーダーであるフィンザスはしっかりと一人の女性に対し、真剣に向き合っていた。

勿論、パーティーの事も常に考えており、とある知り合いの学者からは脳みそが二つあるのではと疑われたことがある。


「…………そうだね。確かに……伝えても罰は当たらなかったかもしれない。でもさ、何か……あの場面でそれを伝えるのは、卑怯だと思ったんだ」


解らなくはない。

状況を今一度脳裏に思い浮かばせて振り返ると……あの流れで最後にその想いを伝えるのは卑怯。


あまりそういうのに機敏ではないドルクも納得してしまう。

それでも……ドルクはフィンザスにこれまでを見てきたこともあり、それぐらいは無視しても良いのではないという思いもあった。


「けどよ、あそこで言えなかったら……もう、伝える機会はないだろ」


「そうだね……初恋は実らないって言うけど、今回の一件で本当にその通りだなって思い知ったよ」


「……やっぱり、俺は卑怯だとしても、あそこで自分の想いを伝える権利が、フィンザスにはあったと思う」


「ありがとう、ドルク。そう言ってくれるだけでも幾分か楽になるよ……でも、あそこで僕の想いをアレナに伝えたとしても、アレナの心は……決心は揺るがなかったよ」


実際に伝えていない為、本当にフィンザスが口にした通り、アレナの決心が揺るがなかったとは限らない。


限らないものの……元パーティーメンバーであったドルクとしても、望みが高いとは思えなかった。


「けど、そこで僕が想いを伝えてしまえば、ただアレナを苦しめて……辛い思いをさせてしまう。そんな結末を僕は望まない。お互いに涙を流しながらも……最後は、笑顔で別れたかった」


「…………ったく、どこまでイケメンだな、お前は」


一人の男として、心の底からそう思った。

この男は、紛れもなくカッコイイ漢だと。


(アレナもこんな良い男を逃がしやがって……二度と出会えるか分からんと言うのに……いや、まだ子供ではあるが、リーダーであるゼルート君……さん? は実力だけならフィンザスより上か……しかし)


「おいおい、急に変な顔してどうしたんだんよ」


「むっ、俺は俺でちょっと真剣に考えてただけだ……それで、初恋は終ってしまった訳だが、これからどうするんだ?」


「そうだね……自分で言うのもあれだけど、まだ若いんだ。変にそれじゃあ次の恋に! って焦らず、ゆっくり見て出会っていこうと思うよ」


「そうか」


このリーダーには幸せになって欲しい。

ドルクは改めてそう思った。

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