少年期[983]今でもリスクはある
「んじゃ、少し休憩にしようか。ちゃんと水分補給しろよ」
「「「は、はい」」」
魔力を七割以上消費したルーキーたちはゆっくりと地面に腰を下ろし、講師のゼルートに言われた通り水分補給を行う。
「あ、あの、ゼルートさん」
「ん? どうした」
「あの……ゼルートさんたちの冒険譚を、訊かせてもらっても良いですか」
「「「「「「「「「っ!!!!」」」」」」」」」」
一人が発した言葉に、他のルーキー全員が意識を傾けた。
「休憩が終わるまでの間だったら良いぞ」
「あ、ありがとうございます!!!」
噂に関しては色々と聞いている。
しかし、その真相を本人の口から聞けることは稀も稀。
ルーキーたちは披露した肉体を引きずってでもゼルートの前に移動。
「そうだな……まっ、やっぱり最初はゴブリンとオークの群れを討伐した時の話かな」
ゼルートが冒険者になる前の話に関しては、さすがに本人が話したところで信じてもらえないだろうと思い、冒険者になってからの話をし始めた。
「あの! ゼルートさんが今まで戦ってきた敵の中で、一番強かったのは誰ですか!!!」
話は一段落したものの、まだまだ冒険譚が残っている中、一人のルーキーが耐え切れなくなった様子で質問した。
まだ話の途中……とツッコみたくなるが、その質問に関しては他のルーキーたちも大いに興味がある内容だった。
「一番強かった奴、か……そりゃやっぱり悪獣だろうな」
ルーキーたちの表情に、やっぱり!! といった思いが浮かぶ。
悪獣とは、とある馬鹿過ぎる貴族が私腹を肥やす為にギルドへダンジョンの存在を明かさなかったが故にダンジョン内の魔物が溢れかえり……その魔物たちを束ねていた存在。
Sランクという国家を滅ぼしかねない圧倒的な脅威。
「それまで戦った魔物の大群にも強い個体は結構いたが、あいつは文字通り格が違った。あれだな……久しぶりに殺意を持つ敵と戦ってて、死ぬかと思った」
「っ!!!! ぜ、ゼルートさんが……死ぬかと、思ったんですね」
「Sランクの怪物中怪物が相手だぞ。あの頃よりも強くなってるだろうけど、今戦ったとしても……変わらず死のリスクを背負って戦わないといけない超強敵であることに変わりはない」
「な、なるほど……えっと、ちなみになんですけど。戦争の時は死ぬかもしれない恐怖みたいなのは……」
「特になかったな。戦争に関しては俺一人で戦ってるわけではなかったし、直ぐ傍にゲイルがいたからな」
指さす方向には、珍し過ぎる紅い肌を持つリザードマン。
「言っとくけど、俺だけじゃなく、ゲイルもディスタール王国の群を半壊させることは出来たと思うぞ」
「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」
今日何度目になる変らない驚愕の色が顔に浮かぶ。
「いや、超完璧に連携が取れる猛者だけをまずぶつけて、一定レベル以下の人材は他のところに使ってれば、割と良い勝負にはなるか」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
ちょっと何を言ってるのか解らないという心境だが、ゲイルがそんじょそこらのリザードマンと違うのは、ゼルートとのデモンストレーションで十分に解っていた。
「さて、休憩はそろそろ終わりだ。昼過ぎまで、もうちょい頑張れるか?」
「「「「「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」」」」」
貴重な体験談を本人の口から聞くことができ、ルーキーたちは空元気……かもしれないが、それでも彼らの気力は全回復していた。
それから約一時間、ルーキーたちは先輩たちのアドバイスに耳を傾けながら、必死で前に進もうとフルスロットルで動き続け……昼食時の時間には、誰一人として動けなくなっていた。
「ったく、お前らこれから昼飯だぞ。好きなだけ奢ってやるから、ちゃんと自分の足で立てよ」
「「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」」
ルーキーたちにとって、好きなだけ食べて良いという言葉は……ある意味魔法の言葉であり、ゾンビのような様子で立ち上がりながらも、しっかり自分たちの足で移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます