少年期[981]憧れ襲来

(おいおい、こりゃあ……姉さんに負けず劣らずの才女だな)


もしかしたらという思いはあった。

それでも、実際に年齢以上の攻撃魔法が飛んできては、驚くなと言うのは無理な話である。


「はは!! 本当に強くなったな、セラル!」


「まだまだだよ!!!」


再度詠唱を行い、今度はファイヤーボールを三つ同時に放つ。


(火球の距離が近いって事は……まだ魔力操作はそこまでってところか。いや、今の歳を考えればコントロールを失わず、俺に火球をぶつけられるのは十分ハイレベルと言えるか)


今回もまたゼルートは同じ攻撃で相殺。

この後も違う属性の攻撃を何度か放つが、同じ光景が何度も繰り返されることになる。


「はぁ、はぁ、はぁ……もぅ、無理だよ~」


「よく頑張ったな、セラル。お兄ちゃん、結構びっくりしたよ」


「ほ、本当!?」


「あぁ、本当だよ」


ガレンは毎日書類仕事でそれなりに忙しいが、伯爵家の夫人であるレミアはそこまで忙しくはないため、セラルの訓練に付き合うことが多い。


煉獄姫の二つ名を持つレミアに魔法関連の指導を受けられる……これはレミアを知る世代の冒険者からすれば、喉から心臓が飛び出るほど羨ましいマンツーマン指導。


加えて、元々成長著しいと話題であり、当主と夫人……その子供たちの活躍もあって、ゲインルート家に仕えたいという者が激増している。

ガレンとレミアがそれなりに選んでいることもあり、優秀な人材がゲインルート家の戦力として増加。


レミアが他の夫人たちとお茶会を行っている時などは、その優秀な人材たちがセラルの指導を行っている。

それなりに礼儀作法などの勉強を行う時間もあるが、魔法や武器……戦闘に関するセンスを磨き、才能を開花させる環境は十分に整っている。


(冒険者の兄として、この成長は嬉しくあるが……純粋に兄として、嫁の貰い手があるかどうか……心配になるな)


妹の将来を心配していると、ここ最近ゲインルート家に仕え始め騎士、魔法使いたちがもじもじしながら近寄って来た。


「……何か御用でしょうか?」


「あ、あの……俺たちとも、その、模擬戦をしてもらえないでしょうか!」


「「「「「「「お願いします!!!」」」」」」」


彼ら、彼女たちにとってディスタール王国との戦争の際、初っ端から特大攻撃魔法を連続で放ち……その後、大ジャンプで超最前線に飛んだかと思えば、全力で敵国の兵士や騎士、冒険者たちに向かって喧嘩を売った。

そしてその咆哮を恐怖に変えるがごとく、一直線に大将の元へと向かい続けた。


プライドが高い者たちは否定するだろう。

高く面倒なプライドを持っておらずとも、納得出来ない者は納得出来ない。


しかし……その力が、圧倒的な破壊力が目に焼き付いた者は……同じ感想を抱いた。

彼等だけで、ゼルートたちだけで戦争を終わらせることが出来たかもしれないと。


そんな英雄が……覇王戦鬼の二つ名を持つ冒険者が目の前にいる。


そうとなれば、是非とも模擬戦をお願いしたいと思い、行動に移すのは当然の流れだった。


「えぇ、良いです。それじゃ、結界を張りますね」


ゼルートとしても、新しく実家に仕え始めた者たちと交流する良い機会だと思い、日が暮れるまで何度も何度も模擬戦を繰り返す。


当然、彼らの興味はゼルート以外のメンバーにも向けられており、ルウナやゲイルは嬉々として挑戦を受ける。

アレナも嫌な顔一つせずに挑戦を受け……結果、ゼルートたちが全戦全勝という結果となり、新しい家臣たちは更に忠誠心を高める結果となった。


(父さんと母さん、後団長たちが選んでるだけあって、皆並み以上の強さを持ってるな。向上心も高そうだし……拡大した街の治安とか、そこまで気にしなくても大丈夫そうだな)


その辺りをやや心配していたゼルートだが、治安に関してはゼルートがガレンに渡した錬金獣があるため、そもそも心配する必要がなかった。

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