少年期[975]後九十年は


「といった感じでした」


「そうか……面倒なことを頼んでしまい、本当に済まないな」


「いえいえ、冒険者ですから依頼を受けたのであれば、それをこなす為に動くのは当然です」


自国に帰宅後、ゼルートはそのまま王城へ直行。


警備の騎士たちもすっかりゼルートたちの顔や背丈は覚えているため、フリーパス状態で中へと入れた。

そして待つこと数十分、仕事を終えた国王と面会し、紅茶を飲みながら今回の件について詳細を伝えた。


「……ゼルートから視て、奴らはまた何か問題を起こしそうだったか?」


「正直に申し上げますと、ディスパディア公爵家の令息たちはもしかしたらという不安が残ります。ただ、最後に戦った騎士団長は比較的人格者であるように思えたので、彼が必死に止めてくれるのであれば、面倒なことには発展しないかと」


「ほぅ、あの家にも人格者がいたのか」


「その方が一番ぶっ飛んだ強さを持ってはいましたが、それでも自分が相手とはいえ、それなりの礼節を持って対応でした」


暗殺者の中でトップクラスの実力を持つ黒葬を送り込んだことを考えれば、全員真っ黒……恨み憎しみで染まりきっていると思ってもおかしくない。


(怪しいと思うのは普通だが……ゼルートは人格者と言うのであれば、一先ず安心と言ったところか)


国王は再度、ゼルートという超常的な存在に感謝した。

先日の戦争……もしゼルートたちと愉快な仲間たちがいなければ、オルディア王国にも大きな被害が……最悪の場合、敗戦してもおかしくはなかった。


「他の家も俺に恨みを持ってる人はいると思いますが、多分これ以上は仕掛けてこないかと」


「ふむ、そうであろうな。今ディスタール王国の戦力は著しく低下している。この先数十年はバカな真似は起こさないだろう」


「……国王陛下、そうなると他国がディスタール王国に攻めいる可能性が出てくるのでしょうか」


今回の報告会では全く関係無い話ではあるが、ゼルートは無礼を承知で尋ねた。


とはいえ、そんなゼルートの質問を国王陛下、護衛の近衛騎士は一切無礼だとは思っておらず、真剣な表情で考え込む。


「…………絶対にない、とは言えないな」


「やはりそうですか」


侵略戦争など始めれば、ここ数百年殆ど変わっていなかった各国の勢力図ががらりと変わる。


国民がどう考えるかは別として、上の者たちが奪おうと決めれば……少なくとも戦闘者たちはそう動かなければならない。


「仮にどこかの国がディスタール王国を属国にしようと動き、それが成功してしまうと……私たちとしても、悠長に構えていられませんよね」


「そうなるな……難しい問題だな」


取られる前に取れば良い? そう簡単な話ではない。

簡単な話ではないからこそ、現国王陛下よ息子である王子たちは頭を悩ませていた。


「……国王陛下。自分はこれから、百歳ぐらいまでは生きるつもりです。なのでそれまでに決断して頂ければ、有難いです」


「はっはっは!!! そうかそうか……君は本当に頼もしいな」


九十年も経つ頃には、現国王は確実に死んで次の世代へ渡っている。


だが……戦争を一人でも終わらせられると言っても過言ではない英雄、覇王戦鬼の言葉は……非常に頼もしく感じる。


(話を限り己が生きたいように動く部分もあるようだが、他者の為に懸命に動くる優しさもある……その他の部分を考えれば、是非とも大きな繋がりを持っておきたいところだ)


ゼルートを一人の人間として尊敬する気持ちを持つオルディア王国の国王。


しかし、彼は国王。

オルディア王国の未来を考えれば……利点という部分でゼルートとの付き合い方を考えなければならない。

今でも十分悪くない関係性ではあるものの、彼の中では……まだ足りないという思いがあった。


ゼルートも一人の人間。

仮に百歳まで生き延びて強さを保てたとしても……不死ではないのだ。

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