少年期[974]治安悪化?

「結局屋敷は破壊しなかったな、ゼルート」


「ただ試合をして終わったからな。五割以上の確率で何かしてくるかと思ってたんだけどな……」


「一応聞くけど、本当にディスパディア公爵家が何かしてきたら、本当に屋敷を潰すつもりだったのよね」


「当然だろ。俺がこういう事で嘘を付くわけがないだろ」


解っている。

それはこれまでの経験から重々承知しているが、それでもぶっ飛び過ぎな行動であることに変わりない。


「多分上の方に今回のことを伝えてくれるだろうから、もう向こうが何かしてくる事はないだろ」


「……どうだろうか。ゼルートはあの戦争で本当に活躍した。確かに貴族たちは今回の一件で脚がガクブル状態かもしれないが、この国の冒険者たちは……どう動くか解らないんじゃないか?」


「冒険者か……確かに、面倒な相手ではあるな。冒険者の行動は冒険者ギルドが責任を持つべきなんだろうけど、ギルドが所属してる冒険者全員を管理出来る訳じゃないからな……」


仮にディスタール王国に所属している冒険者が暴走してしまった場合、頭を悩ますのはギルドの職員やトップたち。

その悩み、苦しみが想像出来ない程子供ではない。


「つっても、挑んでくるなら潰すだけだしな……殺すと不味いか?」


「不味いか不味くないかで言えば、不味いに決まってるじゃない。でも、殺しに来たのであれば正当防衛は成立するはずよ」


「そりゃ良かった……まっ、俺らがこんな事心配しなくても、ディスタール王国の上の連中が必死に止めようとするか」


「何故だ? やはり、これ以上ゼルートの怒りを買いたくないからか?」


「それは多分あるだろうな。俺に直接手を出すのであればまだそいつを殺すだけで済ませるけど、友人知人、家族に手を出したら……今度こそ潰す」


本気である。

仮に関係者が死ぬような事態に発展すれば、ゼルートは文字通り覇王となりてディスタール王国を完膚なきまでに潰す。


「ただ、上の連中としては俺の怒りを買うが嫌ってのと同じぐらい、国全体の戦力を減らしたくないって考えてるだろうな」


「……確かに、そう考えるのが妥当ね」


ゼルートは戦争が始まってから最初のぶっ放し以外は、最前線から真っすぐ……本当に真っすぐ大将がいる最奥を目指した。


それ故にゼルートとゲイルにそこそこ戦力が集中したものの、二人は危機とした表情でそれを撃破。


二人を倒そうと挑んだ兵士、騎士たちはほぼ全員殺された。

なので貴族、王国が有する戦力が激減。


冒険者たちはプライドをぶん投げ捨てて別の戦場へ向かったが、一部の冒険者たちなどは全滅に近い悲惨な状況に追い込まれた。

街、村を治める貴族たちにとって冒険者とは基本的にいなければならない存在である。


兵士や騎士たちが盗賊団を討伐することもあるが、主にそれを遂行するのは冒険者達。


「多分だけど、この隙に乗じて盗賊団が活性化してるかもな」


「無きにしも非ずでしょうけど……でも、それはそれで仕方ない話ね」


「そういう事だ。まっ、俺たちが殲滅なんて行動を取ってたら、もっと焦りに焦ってただろうけどな」


「それはさすがに私が止めてたわよ」


仮にゼルートたちが殲滅という手段を取ろうとしていれば……ディスタール王国側から参加していた戦闘者たちは、間違いなく殲滅状態に追い込まれた。


とはいえ、そんな真似をすれば国と国との関係が最悪……という言葉だけでは片付けられない程拗れてしまうため、それを理解しているアレナが全力で止める。


「むっ、ゼルート。あそこを見ろ」


「ん? あれは……これまた久しぶりに見るモンスターだな」


森の中にいるのはオークキングが率いる多数のオークと戦うディスタール王国の冒険者たち。


(……別に俺が悪い訳じゃないけど、ちょっとぐらい手を貸してやるか)


ゼルートはラルに下へ降りるようには頼まず、狙いを定めて複数のオークに氷槍を発射。

そして少々大きめの氷槍を回転させながらオークキングの右腕を撃ち抜く。


「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」


突然上から降りかかってきた攻撃にオークは訳が分からず驚く。

それは戦っていた冒険者たちも同じだったが、この好機を逃すまいと全員が吼えたのだった。

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