少年期[969]ここからが、全てだ

(なんか、ヤバそうな指輪だな)


戦闘中に装備アイテムの追加。

ゼルートはこの行動について何も口にしなかった。


だが……ゼルートにしては珍しく鑑定眼を使用した。

それは本人の理性が本能を破った結果であり、指輪を鑑定したことに……ゼルートは喜び以外の感情はなかった。


「ゼルート殿、すまない。戦いの最中に使用する装備を増やすという愚行をしてしまい……本当に申し訳ない。しかし、これを使用しなければ……あなたに一矢報いることすら出来ない!!!!」


本気だと……その眼を見れば解る。

どれだけ彼が本気なのか解かる。鑑定眼を持つゼルートに対する脅しではないと、本能に訴えかける。


「ッ……はは、はっはっは!!!! そうか、そうか!!! 非常に光栄だ、本当に光栄だ!!!! あなた程の騎士にそう思ってもらい、そこまで闘志を燃やしてもらえるとはな!!!!」


その指輪は……他の騎士たちや、ディスパディア公爵家たちの者もしらない。

当然、当主さえ今しがた装着した指輪にどの様な効果が付与されているのか知らない。


それは騎士団長がこの日の為に独断で購入し、独断で使用すると決めたマジックアイテム。


(……あの指輪って、もしかして)


そんな中、ゼルート以外で現在ラルと共に結界を張っているラームだけが、その指輪の効果に勘付いた。


「ゼルート殿……ここからが、私の全てだ」


騎士団長が装着した指輪の名は……捧命の指輪。

自身の寿命を捧げることで肉体を超強化させる……まさに命懸けの指輪。


(疾風迅雷ッ!!!!!!!)


捧命の指輪が騎士団長の生命力を吸収した瞬間、ゼルートは自身の身体強化技を使用。

スピードを強化する点においては、他の強化技よりも優れている。


そんなゼルートのスピードに……騎士団長は余裕で付いてきた。


「ッ!!!!!!」


ミスリルデフォルロッドとフロストグレイブをクロスガードして斬撃を受け止めるが、体が逆くの字に曲がる。

そして衝撃は地面に伝わり、強硬な訓練場の地面が砕けた。


「~~~~~~~~ッ!!!! ラル、ラーム!!!! 結界の強度を上げろ!!!!!」


「「はい!!!」」


結界の強度を上げると同時に範囲も広げ、観戦している者たちを端へ端へと追いやる。


二人以外にもディスパディア公爵家に仕える魔法使いたちが結界を発動していたが、速攻で破壊されてしまった。


「だらああああああっ!!!!」


「ぬぅ!!!!!」


ギリギリで背骨が折れるのを回避。


だが、騎士団長の素早さは一瞬だけのものではなく、即座にゼルートを追撃。


(こりゃ、読み全開じゃないと、駄目だな!!!!!)


先程の衝撃下手すれば大ダメージを負う未来が見えた。

これまで殆ど反応速度だけで騎士団長の攻撃に対応してきたゼルートだが……今、騎士団長の速度はゼルートの反応速度を凌駕しにきていた。


「あの速さ、力強さ……まさか!! 止めろ!! 止めるんだ、ガラックス!!!!!!!!!!!」


何故ここまで急激に騎士団長、ガラックスの身体能力が向上したのか、そのからくりに気付いた当主は即座に止めるように……寿命の消費を止めるように叫んだ。


ガラックスの想いは意思には共感出来る。

それでも当主として、幼い頃から兄弟に近い関係で育ってきたガラックスの行動は……とても納得出来るものではない。


だが、当主の声がガラックスに届くことはなく……勿論、ゼルートにも届くことはない。

そもそもゼルートに声が届いたところで、わざわざ止める義理はない。


自分に勝つために寿命を捧げたのはガラックスの意志であり、誰かに強要されたわけではなく、唆された訳でもない。

ただ…………絶対的な強者、覇王戦鬼を倒す為だけに購入した秘策。


遠に全盛期を過ぎたから臆せず使えた?

それは違う。


ゼルートという一人の戦闘者に対し、そこまでしてでも勝つ価値があると判断したからこそ、本番で躊躇なく使用し……自ら死地へと近づく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る