少年期[968]なしに決まってるでしょ

「ッ……アレナ、今から私が割り込むのは、なしか!?」


「なしに決まってるでしょ。テンションが上がるのは解るけど、今は抑えておきなさい。ゼルートの面子を潰すことになるわよ」


「む、むぅ。そうか……であれば、仕方ないな」


お互いに二刀流で戦い始めたことで、試合は更に加速。

激しさを増し、観戦している騎士の中には……二人の動きが線でしか見えなくなっていた者もいた。


今のゼルートと騎士団長はそれほど速く動き、一撃一撃が両手による斬撃と変わらない重さの斬撃を振り続けている。


レベルという概念があり、そのレベルが上がることで個人の特徴に合わせた身体能力が上がる。

騎士団長のレベルを考えれば二刀流で戦うことに対して特に不自由さはない。


ただ……どうレベルの前衛タイプと比べて、明らかに腕が太い。

その鍛え上げられた肉体は僅かな差を埋める強力な武器となる。


(いやいや……このお爺さん、マジで楽し過ぎるだろ!!!! いや、これだけ楽しませてくれるんだ、お爺さんって呼ぶのは失礼、かな!!!!)


当たり前の様に騎士団長との二刀流バトルを楽しむ。


互いにロングソードに属性魔力は纏うが、詠唱を破棄しながら攻撃魔法などを使うことはなく、ただ剣戟だけで激戦を繰り広げていた。


(戦いたい……あの爺さんとは、是非とも戦ってみたい!!!!!)


ディスタール王国との戦争を行った際、万が一という危険を考慮し、ルウナはラームと一緒に行動していた。

ラームが頼れる仲間なのは重々承知しており、ゼルートの万が一という可能性を消すという考えは理解出来る。


それでも……全体を通して、やや物足りなさを感じていた。


(あの爺さん、騎士団長とやらなら……この疼きを満たしてくれるだろう!!!!)


発情はしていないが、脳内で騎士団長と戦う自分をイメージした結果……激闘になる予感しかしない。


(……本当に大丈夫かしら? いざとなったら、止めに入れるようにしとかないと)


アレナはいつも通り、こちらも変わらずといった具合であり、妄想をしては好戦的な笑みが深くなる仲間の表情を見て、ある程度考えていることを読んでいた。


(解る。大変解りますぞ、ルウナ殿)


ここでルウナが乱入するような真似をすれば、ゼルートの面子が潰れてしまう。

それはゲイルも理解しているが、戦闘大好きな武人としては……ルウナの素直な闘争心にも共感出来てしまう。


(あれほどの剣士……是非とも戦場で死合いたかった)


惜しいと思うものの、ルウナよりも冷静さはあるため、しっかりと戦闘欲は抑えられていた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


「ふぅ~~~~……どうした、騎士団長さん。まだまだ動けるだろ」


お互いに二刀流のスタイルで戦い始めてから約五分が経過。


ゼルートが遊んでいることもあり、両者の体にはチラホラと切傷があった。


(この少年、いったいどれほどまで……その歳で、どれほどの鍛錬を積んできたというのだ)


肉体的には全盛期など遠に過ぎており、鍛錬で維持出来るピークも越えており、その分スタミナも全盛期と比べて落ちた。

だが……自分と同じ運動量分動いてる筈のゼルートは……少し汗を流しているだけで、疲れは殆ど見られない。


(覇王戦鬼、か……全ての面に関して、その二つ名に相応しい強さを持っているのだな)


まだまだ動けるには動ける。

しかし、ここからはただ限界が来るまで足掻き続けるだけの時間となる。


負けると解っていても、最後まで戦い抜くこと心意気は……確かに美しいかもしれない。

だが、果たしてそれだけで終わっても良いのか?


そんな心構えで戦い続け、終わってしまえば……それはただの自己満足なのではないか?


(ッ!!!! そんな事、許されるはずがない!!!!!!)


何かを決心した騎士団長は、懐から一つの指輪を取り出した。

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