少年期[959]とても慕われていたから
(俺にそういう眼を向けてくる人たちの気持ちは解らなくもないんだけど……そこまでがっつり視線を向けてくるなら、もしかしてそういう事を企んでるのでは? って疑われても仕方ないよな)
訓練場に到着するまでの間、本日はディスパディア公爵家の客人ということもあり、すれ違う従者たちは皆ゼルートたちに
一礼はするものの……その眼には大なり小なり恨みが籠っていた。
(一応かなり強い冒険者なんだから、そういう視線に気付くと解って欲しいんだけど……考えるだけ無駄か)
あれこれ考えるのを止めると、ディスパディア公爵家の訓練場に到着。
(……中々設備が整った訓練場だな。少なくとも、実家や王都の別荘の訓練場と比べて数段上だ)
訓練場の設備に感心していると、先程まで軽く体を動かしていた騎士たち……ディスパディア公爵家の血を引く者たちが集まってきた。
「ゼルート君、彼らが君と戦いたいと申し出た者たちだ」
「なるほど……」
適当に相槌を打ちながら、鑑定眼を使わず……雰囲気だけで彼らの戦闘力を測定。
(俺に挑もうと思うだけの力は全員持ってるって感じだな。それに……あっちの四十過ぎぐらいの騎士は、もしかしたらローレンスより上かもしれない)
馬鹿が親に、主人にただ我儘を言っただけではないのだと感心しながら、まずは伝えなければならないことを伝えた。
「ディスパディア公爵、先に一つ伝えておきます」
「何かな?」
「もし……彼らが、この家の者たちがくだらない真似をすれば、この屋敷を破壊します」
「「「「「「「ッ!!??」」」」」」」
大なり小なり、アレナたち以外の者たちは衝撃が顔に浮かぶ。
当然ながら、他家の屋敷を訪れ、もしかしたら屋敷を破壊するかもしれません、なんて発言をした者はおそらくいない。
なんとも傲慢不遜、ワケワカメな発言をする小僧を怒鳴りつけようとする者が口を開く前に、更に小僧が続けて言葉を発する。
「公爵……俺は全て知っています。でなければ、まず俺はここにいません」
「…………」
「あなたが知っているのかは解りません。どうやら、ローレンスは俺が思っている以上に慕われていた方ですからね」
彼がゼルートの一騎打ちに敗れた直後、本来であればそこで戦争は終了する筈だった。
しかし、彼がゼルートの居合斬りで命を落とすと、複数のローレンスを慕う騎士がゼルートに襲い掛かった。
一騎打ちとは騎士の名誉も懸かっている戦い。
一騎打ちが終わればゼルートはもう他の騎士などに手を出さないという条件が含まれていたにも関わらず、他の騎士たちが我を忘れて襲い掛かってしまえば、それはローレンスの名誉を傷つける行為。
だが、ゼルートはそんな騎士たちの行動に対し、特に文句を口に出さなかった。
「ですが、俺は神でも仏でもない。二度目はありませんから、あしからず」
「…………心得ておくよ」
「さて、それでは早速始めましょうか。まずは誰からですか?」
雰囲気を切り替え、意気揚々と一歩前に出て、誰が第一挑戦者なのかと問う。
「僕です」
「分かりました。それでは、早速始めましょう」
最初の挑戦者はディスパディア公爵家の五男。
当然ながら二十歳を越えておらず、年齢はゼルートと殆ど変わらない。
(……こんなまだ僕と殆ど歳が変わらない少年に、ローレンス兄さんが……)
ゼルートとさほど歳が変わらないとなれば、まだ子供も子供。
鑑定系のスキルを持って入れのであれば話は別だが、正確に相手の力量を読むにはまだ難しい歳頃。
だが、そこは流石公爵家の子供。
正確な力量こそ解らないものの、ゼルートの力量が全く解らない、読めないという印象を強く感じていた。
本当にまだまだ力量を読む力がない者であれば、絶対に自分より格下だと認識するのだが、彼は完全に見下し油断してはいなかった。
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