少年期[957]割と争いたくない
「や、屋敷を壊す?」
「そう、全破壊だ。結果として誰かの命は奪わないが、ディスパディア公爵家の豪華な屋敷を破壊する。万が一あいつらがバカなことをすれば実行して、それを王族の誰か一人でも良いから見てもらう」
アレナは直ぐにゼルートが何を考えてるのか気付き、まさか!? といった表情を浮かべる。
「んで、ぶっ壊れて原型がない状態に近い屋敷を見た王族の一人に、次お前たちが何かバカなことをすれば、王城を同じようにするって伝えるんだ」
「バカ過ぎる脅迫ね」
ノータイムで呆れた言葉が飛んできた。
しかし、考えた本人であるゼルートは、至って真面目だった。
「おいおい、俺は本気だぜ? 二回もディスタール王国の連中がバカな真似をしても、誰かの命を奪わずに済ますんだぞ? 中々にナイスアイデアと思わないか?」
「…………一応一理ある、と言っておくわ」
ゼルートが本気で発言してることぐらい、アレナも解っている。
解っているが……非常に頭が痛い内容であるのは間違いない。
だが、ゼルートが言う通り、人の命を奪わないという点に関しては、悪くないアイデアと言える。
「だろだろ。普通に考えてやっぱり領地や王都を攻撃するのはアウトオブアウトだから、財産と言える屋敷を壊すのがベストなお仕置きだよな」
「アレナは毎回難しく考えているが、私は非常にアイデアだと思うぞ。誰の命も奪っていない……その代わり、その家の……国家の象徴とも言える大切なものを破壊する。人害なき良い天罰じゃないか」
「裁きを下すのは神や天使じゃなくてゼルートだけどね」
「良いじゃないか。Sランクの怪物をソロで倒し、戦況を一人で帰られるほどの力を持っている。神とは言わないが、半神……もしくは亜神と言える力は持っていると言っても、過言じゃないと私は思うが?」
今までの実績が実績であるため、アレナはルウナの言葉に上手く反論出来なかった。
「……ルウナ、そう思うのは自由だけど、それを教会関係の人の前では絶対に言わないでよ」
「喧嘩になるからか?」
「喧嘩どころの話じゃなくなるかもしれないの」
「向こうがそういう態度を取ったら、今度は屋敷や王城ではなく、多数の教会が潰れるかもしれないという訳だな」
「…………」
あながちあり得ないとは言えない考えなため、これまた上手い反論の言葉が出てこなかった。
「ルウナ、さすがに俺が色々と力で押し通す脳筋やろうでも、そこまで表立って教会と対立しようとはしないよ」
「ほほぅ……何と言うか、珍しくゼルートとしては消極的な姿勢だな」
「個人的に敵に回すと貴族や王族よりも厄介だと思ってるからな」
「ふむふむ。一応聞くが、仮に教会と全面戦争になったら勝てるのか」
仲間のリーダーに対する質問を聞き、無意識にイメージしてしまい……冗談抜きで眩暈を感じたアレナ。
「勝てるか勝てないかという聞かれたら……多分、勝てなくはないと思う。ただ、出来れば万全な準備はしておきたいかな」
リーダーのある程度安心感を得られる言葉を聞いても、まだ頭痛が止まらない。
(もしかしたら国喧嘩ぐらいは前から予想してたけど、さすがに教会とはそんなこと……ならないわよね?)
短期間の間に、絶対に教会と争うことなどない、もしくは絶対に争う日が来ると決まる訳がなく、アレナが頭を悩ませている内に一行はディスパディア公爵家が治める街に到着した。
無駄に騒がせない様に少しは慣れた場所に降りてから街へと向かうが、どうしても列の前に到着すれば自然と騒ぎが起きるというもの。
ただ、街へ入るために並んでいる者たちこそいったいどういう状況なのだと慌てるが、門兵たちは事前にディスパディア家から知らされていたため、慌てることなくゼルートたちを中へと案内した。
(……仕方ない、で済ませるべきなんだろうな)
門兵たちの視線に薄っすらと恨みの感情が乗っていたことに対し、ゼルートは特に追及しなかった。
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