少年期[923]救済措置

「っと」


泥中から跳び出してきたダイドシャーク。

獲物を全力で噛み殺そうとしたが、あっさりと躱されてしまう。


(泥の中での遊泳……そう思って嘗めてると、痛い目を見る速さだな)


泥中からの攻撃を冷静に観察しながら、再び宙を駆けることなく地に足を付けて移動。


尾で泥を飛ばす個体もいたが、わざわざ攻撃魔法を使わずとも風圧だけで防御は可能。

数分間の間、四体ともゼルートたちに攻撃を与えることは出来ず、ただ時間だけが過ぎていった。


「っ!!!???」


しかし、ここである異変を察知。

再度泥中からの噛み付きを回避し、地面に着地したゼルートだったが……着地の際、片足だけ予想以上に泥中に突っ込んでしまった。


直ぐに風の魔力を使用して第二の攻撃が飛んでくる前に移動。


「危ないと思ったら、直ぐに小島へ移動するんだ!」


ここの戦闘力を考えれば誰かがダイドシャークに殺られることはあり得ない。

それでもゼルートは念の為注意をとばす。


その注意内容に気付いたのは……アレナが一番最初だった。


「っ!? なるほど、そういうことね!」


幸いにもゼルートと同じく、泥中に突っ込んでしまったのは片足のみで、直ぐに脱出。


戦闘開始時は体が泥中に突っ込むことはなかったが、途中から多数の箇所が陥没。

それらの場所はダイドシャークが通ったり跳び出した場所、という訳ではない。


(地面を泳ぎ回るせいで、徐々に地面が不安定になってきたから……なのか?)


一旦小島に移動し、全神経を集中させて立体感知を発動。


集中力の高さの影響で、ボス部屋全体が事細かに解る。


(……やっぱり、戦闘開始時と比べてがっつり走れる部分が減ってる)


しかし、立体感知を使い続けていると、新しいことが発見。


(ん? あの場所、さっきまで泥沼状態になってたよな? でも今は…………そういう仕様、ってことで良いのか?)


一定時間が経過すると、泥中で泳ぎ回った影響で陥没した地面は元通りになる。

短時間では到底起こりえない現象ではあるが……ここはダンジョン、何が起こるか解からない迷宮。


ただ、この仕様に関しては、探索者たちに対する救済処置であった。


Cランク魔物であるダイドシャークの戦闘力は、言わずもがな並ではない。

加えて、その数は四体。

仮に陥没した地面が元に戻らなくなれば……自由に歩ける場所は転々とした小島だけになる。


地面から跳び出した瞬間が絶好のチャンス?

その考えは間違っていないが、ダイドシャークは遠距離攻撃の手段を持っていない訳ではない。


加えて、飛び散る泥は探索者たちの視界を奪う。

並み以上の防御力なども考えると……地面が元に戻る仕様がなければ、速攻で勝負を決められないとそこでほぼゲームオーバー。


(ん~~~、大体解ってき。このボス部屋、割と探索者に優しい……って思ったけど、ダイドシャークが四体もいる時点で優しくないわね)


アレナも部屋の仕様に気付いたが、決して攻略難易度が最初よりも低くなることはなかった。


「よし、そろそろ殺るか」


十分ほど戦い続け、色々と情報を集め終えたため、まずはさくっと一体を撃破。


「もう良いんだな!!」


続いてルウナが二体目を撃破。


「ふんっ!!!!」


同時に襲い掛かった二体をゲイルが撃破し、ボス戦が終了。


「お疲れ様~」


小島に現れた宝箱を回収し、海中に戻る前に……ボス戦で得た情報について洋紙に書き記す。


それが終わってから十一階層へ降りたい気持ちを抑えて準備を整え、海中へ転移。

当然、十階層の探索が終わった程度でまだギルドには報告せず、翌日には再びダンジョンへ向かう。


その間はギルドの依頼を一切受けずに過ごしていた。

ラルフロンに訪れる冒険者の中には、ゼルートたちの様に? 観光と休暇目的で訪れる者たちが多いため、滞在期間中にギルドの依頼を受け続けないというのは決して珍しくない。


珍しくない、が……冒険者ギルドとしては、一先ずゼルートと話し合いたい一件があった。

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